【心霊スポット】鹿児島県｜田皆岬の怖い話「断崖絶壁の下」実話怪談・短編

数年前、主人の親戚に会いに鹿児島県の南西諸島、沖永良部島（おきのえらぶじま）に行った時の話です。

沖永良部島は海と花がとても綺麗なサンゴ礁の島です。

当時、テレビのバラエティ番組などで、鍾乳洞でのケイビング体験の名所としてよく取り上げられていたので、私は沖永良部島を訪ねるのをとても楽しみにしていました。

もう肌寒い時期だったため海水浴ができなかったのは残念でしたが、ゴジラが上陸したという砂浜を散歩したり、有名な鍾乳洞を見学に行ったり、普通の観光もそれなりに楽しめました。

3日間の滞在の最終日、絶景が見えると観光パンフレットにも記載されている『田皆岬（たみなみさき）』というスポットが気になり、帰る前に主人と行ってみることにしました。

島の北西部にある田皆岬は、東シナ海を臨む50メートルほどの断崖絶壁です。

実際に訪れてみると、奄美十景にも選ばれているその景色はとても素晴らしいものでした。
見渡す限りに広がる透き通ったコバルトブルーの海は圧巻で、息を飲むほどの絶景に感動しました。

ただ、50メートルもの高さがあるにも関わらず、そこは安全柵など何もない崖。
落ちたらどうしようと少し怖かったですが、野生のウミガメが見られるかもとパンフレットに書いてあったので、せっかくなのでギリギリまで近づいて下を覗いてみることにしました。

高所恐怖症ではないのですが、さすがの高さに足がすくんで頭がクラクラしそうになりながらも、それでもそこから覗く景色はとても綺麗で、打ち上がる波も迫力があって思わず見入ってしまいました。

すると突然「帰るぞ！」と、主人が慌てた様子で声を上げました。
なんだか鬼気迫る雰囲気の主人に気圧され、私は何も聞かずに車に戻りました。

フェリー乗り場までの車中、主人に先ほどの事情を聞いて私は身の毛のよだつ思いがしました。

主人が崖を覗くと、崖の下でたくさんの人が手招きしていたと言うのです。

そこは断崖絶壁です。
下に人などいるはずもありません。

ですが主人は、崖の下にたくさん人がいて手招きしていたと言います。
しかも、その手招きに思わずフッと飛び降りそうになった、とも話していました。

それで恐ろしくなり、私に声を掛けて慌てて帰ってきたと言うことらしいのです。

にわかには信じられませんでしたが、主人の青くなった顔を見ると、嘘をついているとは思えませんでした。

さっきまでの美しい景色に魅了されていた感動はいつの間にか消え去り、それどころか、私はヒュッと心に隙間風が吹き抜けるような空恐ろしさを感じていました。

後に主人の親戚に先ほどの体験を話したところ、私たちの訪れた田皆岬は、島の人なら誰でも知っている自殺多発地で、過去に何人もの人がその崖から飛び降りているのだと教えてくれました。

主人と同じように、手招きされたり呼ばれたりといった経験をした人も何人もいて、言わずと知れた心霊スポットにもなっていると言うのです。
それ故に、地元の人たちは滅多に近づかない場所なのだそうです。

これまでに飛び降りてしまった方々に主人は呼ばれたのでしょうか…
もし主人もそのまま飛び降りてしまっていたら・・・そう思うと、スッと血の気の引く思いがします。

とても綺麗な景色でしたが、私たち夫婦は二度と近付くことはないと思います。