体験場所:福岡県糟屋郡 旧犬鳴峠・旧犬鳴トンネル
これは、私の父から聞いた話です。
父は大の車好きで、やんちゃだった若い頃は地元・福岡県の峠で走り屋をしていたそうです。
そんな父がある時、地元で有名な心霊スポット『犬鳴トンネル』に行こうと友人を誘ったそうです。

ちなみに、現在、旧犬鳴トンネルや旧犬鳴峠は封鎖されていますが、父が若い頃はまだ通行できたそうです。
地元ということもあり、小さい頃から犬鳴トンネルの怪談話を耳にしていた父や友人は、犬鳴峠を走るついでに、肝試し感覚で怪談話の真偽を確かめに行こうと思ったのだそうです。
ちなみに犬鳴トンネルの怪談は複数あり、例えば、
『犬鳴トンネルの入口には柵があり、乗り越えたところに缶の仕掛けが施されていて、引っ掛かると大きな音が鳴り、斧を持った村人が駆けつける。』
『全ての携帯電話が「圏外」となり使用不能となる。また、近くのコンビニエンスストアにある公衆電話は警察に通じない。』
『若いカップルが面白半分で犬鳴村に入り、惨殺された。』
『峠にある公衆電話の前を通ると、その公衆電話が鳴り、電話に出ると犬鳴村に連れていかれる』
等々、様々な怪談話が存在します。
実際、峠やトンネル前では殺人事件や暴行事件が多発しており、怪談との関連が噂されていますが、もちろん警察などは否定。
また、旧犬鳴峠や旧犬鳴トンネルが封鎖された原因についても、利便性や道の劣化による安全性の低下などが理由とされていますが、一部では、そこで起こる心霊現象が原因だろうと言う人もいます。
そんな今では日本屈指の心霊スポットとして有名な犬鳴トンネルに挑もうとするやんちゃな父は、正直、今の父からは想像できないのですが…
そして犬鳴トンネルへ向けての出発当日。
父は、友人が運転する車の助手席に乗り犬鳴トンネルへと向かったそうです。
犬鳴峠に入るまでは何の問題もなく普通に走っていたそうなのですが、犬鳴トンネルまであと僅かと迫った時、異常事態が発生しました。
突然車のエンジンが止まってしまったのです。
何度試しても全く掛からないエンジンに業を煮やした二人は、外に出て車のフロントカバーを開け、その原因を探ろうとしました。
しかし、車に詳しい二人が見てもその原因は見当たらなかったそうで、不思議に思いながらも、とりあえず思いつく限りのことを色々試してみたそうです。
その作業の間、霊感の強い父には、イラつきながら車をいじる自分たちに何か妙な気配が近づいて来るのを感じていたと言います。
数十分の格闘の末、理由は分かりませんが何とかエンジンを掛けることが出来ました。
車内に戻り、二人でホッとしていると、ふとバックミラーを見た友人が急に車を発進させました。
「え!?おい!どうした?」
父の問いかけには答えず、ひたすらアクセルを踏み続ける友人。
車はどんどん加速しながら峠を下っていったそうです。
激しく揺れる車内で何が起きているのか分からず動揺する父は、もう一度大声で友人に問いかけました。
「おい!一体どうしたんだ!?」」
すると、
「…白い、白い何かが追ってくる!?」
と友人は叫びながら、更にアクセルを踏み込んだのだそうです。
凄まじい加速でシートに押し付けられる父が、後ろを振り返り見たものは、青白い顔をした少年が手毬を突きながら車と同じスピードで追ってくる姿でした。
『う、嘘だろ!?も、もっとスピ―ド出せ!』
恐怖を感じた父も、いつの間にかそう叫んでいたそうです。
車がガードレールに擦るのもお構いなしで、とにかく二人は猛スピードで峠を下って行きました。
数十分走り、なんとか明かりのついているコンビニまで辿り着くと、二人は車を飛び降りコンビニの中に駆け込みました。
震える手で買った飲み物を、カラカラに乾いたのどに流し込み、ようやく落ち着きを取り戻した二人。
「…さっきのは、一体何だったんだ?」
「…毬を付いた、少年…だったよな?」
自分たちが見た光景に確信が持てないまま、コンビニから出て車に戻ると、あちこちぶつけた車体はもはやボロボロでした。
その傷跡を確認するように、二人で車を一回りしながら、ふとトランクに目をやると、そこには白い手形がいくつも付いていたそうです。
以来、二人は二度と犬鳴峠には行かないと決めたそうです。
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