体験場所:北海道 某公園
この話は私が高校3年生の時に実際に体験した話です。
私は小学4年生から高校3年生の当時に至るまで、バレーボールを続けていましたが、インターハイ出場の夢が破れ、そのまま部活を引退した頃のことです。
単細胞な私は、進学してバレーボールを続けるか、就職してバレーボールを諦めるかの二択しか考えられず、どちらを選択すべきか悩んでいました。仕事とバレーボールの両立なんて、はなから可能性としても考えていませんでした。
そんな時、同じバレー部員だった同級生のTから「一緒に短期のアルバイトでもやらないか?」と誘われたのです。
部活内でムードメーカーだったTは、何かと仲間に気を配ってくれる男で、この時もバレーボールの進退について悩んでいた私を気に掛けて、気を紛らすために誘ってくれたのだそうでした。
そんなTの気持ちが嬉しくて、私は早速アルバイトの面接を受けに行きました。
面接で聞いた仕事内容は、運送会社での仕分け作業でした。
早朝の2時間と夕方の3時間、合計1日5時間という労働でしたが、業務の特性上、道路混雑や事故状況によってはトラックが遅延することもあり、そうなると必然的に残業が発生することになると、センター長のRさんに説明してもらいました。
その翌日の早朝から仕事を開始しました。
「これからお中元の時期で忙しくなるからさー、短期のアルバイトを雇う事にしたんだよ」
と、トラックを待ってる間にRさんが話し始めました。
「お中元はビールや洗剤とかが多くてね、小さい荷物でも重たいから、腰、気をつけろよ」
そう言われて私は、(長年スポーツをやってるし、体力には自信がある)と、うぬぼれていました。
すると案の定、スポーツと労働では使う筋肉が違うのか、私はその初仕事で腰を痛めてしまい、そのまま大事をとって初日から早退することになってしまいました。
その帰り道でのことです。
職場からほど近くに、横切るとかなり近道になる大きな公園があったのですが、そこは不良グループの溜り場になっていると言われる公園だったので、普段は使うのを避けていました。
ですが、その時は腰の痛みで帰るのも一苦労だったので、「今は早朝だし、不良もいないだろう」と高をくくり、痛む腰を庇いながら少し早足で公園を通り抜けようとしました。
すると、公園の中の茂みに人影があるのに気付きました。
よく見ると、女性の人影が木の陰に立ってジッとこちらを見つめているのが分かります。
私は一瞬「ぎょっ!」としましたが、なんとなく目が合ったので、会釈をして通り過ぎようとすると女性も会釈を返してくれました。
家に帰って、その日は一日安静にしていると、翌朝には腰の痛みも引いていて、その早朝のアルバイトには行く事が出来ました。
一度通って慣れたせいか、その朝も公園を通り近道して職場に向かいました。
すると、昨日見た女性が昨日と同じ所に立っていました。
なんとなく不思議に思いましたが、また目が合ったので、会釈だけして女性の前を通り過ぎようとした時、「・・・・・す」と女性が言いました。
私は「おはようございます」と言われたのだと思って、私も挨拶だけ返して通り過ぎ、そのまま職場へと向かいました。
「腰は大丈夫か?」
職場ではRさんやTが昨日のことを心配してくれて、しつこいくらいにそう声を掛けてくれました。
そんな時でした。
なんだか急に外が騒がしくなったていたのです。
3人で外に出てみると、ちょうど救急車が到着したところのようで、担架に人が乗せられている最中でした。
私たちのいるところから、ちょうど担架に乗った人が見えたのですが、それは先ほど公園内で挨拶を交わしたあの女性でした。
私はすぐにRさんとTに、昨日から今朝までにあった、あの女性のことを話しました。
二人は驚いた後、難しい顔をして、
「心臓発作でも起こしたんだろうか?」
「持病でもあったのかね?」
と話していると、そこに調度トラックが入ってきて、慌ただしく作業が始まりました。
その早朝バイト後の一時帰宅にも、公園の近道を利用しました。
結局、不良も居ませんし、もはや使い慣れた安全な道のつもりでしたが、数時間前と違ったのは、女性が居たところに警察の規制線が張られていた事です。
「さっきまでは静かな公園だったのにな~」なんて思いながら歩いていると、どこからか急に視線を感じました。
規制線の張られたこんな場所で怪しい行動をとりたくなかったので、出来る限りさりげなく周りを見渡したのですが、視線の主はどこにも見当たりませんでした。
夕方のアルバイトに行くと、慌てた様子のRさんが寄ってきて、今朝の救急車の話をしてきました。
Rさんの話によると、今朝の救急車に乗せられ運ばれた女性は、首を吊って亡くなった遺体だったそうなのです。
しかも、公園内の警察の規制線が張り巡らされた場所、私が女性と挨拶を交わしたあの場所が現場だったらしく、木陰になったそこは確かに通りからは見えにくくて、発見までに3日は掛かっているらしいのです。
その間に所々をカラスにつつかれたらしく、目玉も無くなって悲惨な状態だったのだとか。
興奮しながらそう話すRさんを見ながら、私の中にはたくさんの疑問が湧いていました。
少なくとも三日前には女性は亡くなっていた。
それなのに、その翌日に私は女性と会釈を交わし、さらに翌日には「おはようございます」と挨拶を交わした。
それも、カラスにえぐられたという目と目を合わせて・・・
あちこちつつかれ悲惨な状態だったと言うが、それも全く分からなかった・・・
・・・私が見た女性は一体誰だったのでしょう?
RさんもTも、もちろん私も、その後その話題には触れないまま、アルバイトは無事に満期で終了しました。
ただ、あの体験以来、私は物陰や木陰にあの女性らしき人を見るようになりました。
本当に極たまになのですが…
私は、あの日からあの女性に魅入られてしまい、取り憑かれているんだと思います。
何度かお祓いにも行きましたが、効果はありませんでした。
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