【怖い話】心霊実話|長編「薄い話」兵庫県の恐怖怪談

投稿者:祇園 鉄男 さん(50代/男性/自営業)
体験場所:兵庫県神戸市
【怖い話】心霊実話|短編「薄い話」兵庫県の恐怖怪談

人ってさぁ、仲の良い2人で話す時はお互いのことを大体知っているから中身の濃い話もするよね。

それが3人、4人になってきたら少しずつ話が薄くなってきて、10人くらいになっちゃうともう共通する話題が限られちゃうじゃない。

そうなると、みんなが興味あるだろうなぁって感じの話しかしなくなって、すごく薄い感じの話になるのね。

これは俺が高校生だった頃の話なんだけど…

その日も放課後の学校に残って、ゲームのことやテレビのこと、好きなアイドルのこととか、どうでもいい薄い話を友達10人くらいでワイワイしてたんだ。

で、そろそろ帰ろうと教室を出たんだけど、ふと俺は忘れ物に気が付いて教室に戻ったわけ。

そしたら、さっきまで使っていた机の上に、全然口が付けられていない紙コップに入ったジュースが1個だけ、ポツンと置いてあったんだ。

(誰か飲まなかったのか?それでも捨てろよな。)

まぁその時は軽くそう思っただけで、俺はその紙コップを捨てて帰ったんだ。

それで翌日もまた、放課後10人くらいでだべっていた時に俺は、

「昨日、誰かジュース残してそのまま帰ったろ!俺が片付けてやったんだぞ!」

って言ったら、全員飲んで捨てたって言う。

そこに昨日のメンバー全員が居たかは定かじゃない。
それに昨日も薄い話しかしていないから、そこに何人いたかとか、誰がいたとかハッキリとは覚えてないし、何より嘘つく理由もないような些細なことだから、仕方なくその時は、まぁいっかって思ったんだけど、なんかモヤモヤしたんだよね。

だから、その日もみんなが教室を出た後に俺はなんとなく一人でまた教室に戻ってみたんだ。

「あっ!」

そしたらまたあったんだ。

昨日と同じ場所に、全然口が付けられていない紙コップが1個だけ。

これはちょっとおかしいと思って、俺は翌日みんなに、

「誰かまたジュース飲まずに帰ったろ!」

って、少しきつめの口調で言ったんだ。

そしたら誰もが口を揃えて、

「そんなもったいないことするかよ!」

って逆ギレされた。

それがすげームカついたのも確かなんだけど、それより俺は、放課後みんなでダラダラと学校に残っているのが何だか少し気味悪くなってきて、家でその話を姉にしたんだ。

姉は俺より5つ上で同じ学校の卒業生だった。

「あんたのクラスってさ、もしかして西側の古い木造校舎?」

って姉が聞いてきたから、

「そうだけど…?」

って答えたら、

「私も誰に聞いたのか忘れたんだけど…」

って前置きした上で、姉がこんな話を始めたんだ。

「10年位前に、あの木造校舎のクラスで一人の男子生徒が死んだのよ。
自殺とかじゃなくて病死なんだけどね。

生まれつき身体が弱くて学校も休みがちだから、友達もいなくてね。いつも一人ぼっちだったんだって。

それで、その子が亡くなった時に日記が見つかったらしくてね、そこに『放課後とか休み時間とか、みんなでワイワイやってる輪の中に一度でもいいから入ってみたい』って書いてあったらしいの。

それからと言うもの、あの校舎で大人数で会話していると「あれ?なんか一人多くない?」って感じる事がちょくちょく起こってね…

まぁ、はっきり多いと確証できることもなかったらしいんだけどね…

それでも沢山の生徒が繰り返し体験したりしてね、しばらくこの騒ぎは続いたんだって…

でも丁度その頃、生徒数も減ってきた時期でね、その年以降はあの木造校舎が使われることもなくなって、その不思議な現象のこともうやむやになったらしいんだけど…

そっか…あんたの年は子供が多いから、またあの校舎も使われるようになったんだね。」

って、ちょっとゾッとする話を聞かされたんだ。

何だか俺はすげぇ怖くなってきたんだけど、それ以上に「絶対に真相を解明してやる!」っていう思いの方が強くなっちゃたんだよね。

翌日の放課後、今度は人数もきっちり10人にして、それぞれの顔と名前もはっきりと把握した上で、またワイワイと薄っぺらい話を始めたんだ。もちろん全員が紙コップのジュースを飲みながら。

で、そろそろ帰ろうと全員が教室を出た後で、また俺一人戻ってみると…

「おぉ!あるよ~~」

やっぱり全然口が付けられていない紙コップのジュースが一つあったんだ!

しかも今回俺は、全員がジュースを飲み干し、捨てるところまでしっかり確認している。

これはヤバい!明日にでもお祓いとか何か霊的なことをしなくては、とんでもないことになるんじゃないかと切実に思った。

家に帰ってその一部始終を姉に話していたら、情けないことに俺はもっと怖くなってきて、そんな俺を姉は心配そうに見ていた。

だけど、そこから話は意外な方向に進んでいったんだ。

翌日、昨日集まったメンバーにこの話をすると、その一人だったはずのAがこんなことを言い出したんだ。

「俺、昨日はそこにいなかったよ。お前がみんなを集めて何か楽しそうなことをしているなぁとは思ったけど、昨日は母親からの頼まれ事があって、どうしても早く帰らないといけなっかたんだ。だから昨日の放課後は、俺もすげー残りたかったけど、仕方なくそのまま帰ったんだ。」

そんな!俺は昨日、一人一人、顔と名前を確認したはずだ。Aもその中の一人のはず。

「お前、嘘つくなよ!絶対いたはずだぞ!」

俺はそう言って、昨日Aが一緒に居たことを他のメンバーにも確認してみたんだけど、どういうわけかみんなの答えはちょっとあやふやな感じで、

「居たと思う…」

と言う奴の方が少し多い程度だった。

「どうなってんだよぉ!」

俺はもう何が何だか分からず、その日は鬱蒼とした気分のまま帰宅すると、家には姉と一緒に知らない中年男性が居たんだ。

何でもその男性はあの病死した男子生徒と同級生だったらしく、最近の俺の様子を心配した姉が呼んでくれたそうなのだ。

その男性も当時、俺と同じような体験をしたらしく、その後もずっと気になって、あらゆる文献を読み漁り、心霊に詳しい人の話を聞いたりして調べるうちに、ある結論にたどり着いたと言う。

その結論とは、霊には死霊と生霊があり、その二つが混ざりあった時に今回のような現象が発生するということ。
そして、あの木造校舎にはそれが起こる要因が揃っているとのことだった。

どういうことかと言うと、複数人でワイワイと話している様子は、それがどんなに薄くて意味のない会話であれ周囲からは楽しそうに見えるもので、そこに参加したくても出来ない人がいると、その執着が生霊となって生じるらしい。

そうやって発生した生霊は、本来であれば別の生きている人に憑くものらしいが…

だけどあの木造校舎の場合、病死した男子生徒の死霊、というか、魂の欠片みたいなものが残っていて、それと生霊が混じり合ってしまうと、そこに未練を残したままの不確かな存在が発生し、今回のような「一人、多くない…?」って現象に至るのだそうだ。

俺はその話を聞いて、妙に納得してしまった。

つまり、今回の場合は俺たちの会話に参加したくても出来なかったAや、他の誰かの執着心が生霊となり、それが大勢でワイワイ会話することを望みながら病死してしまった、男子生徒の魂と共鳴したんだ。

共通の願望を持つ二つの執念が一体化したそれは、虚ろで朧げな不確かな存在として発生し、その念願を果たすため、大人数で会話する俺たちの間にそっと紛れ込んでいた、ということだった。

下らない薄い話でも傍から見るとすごく楽しそうに思えるし、一度もそういう経験の無い人なら尚更なんだろうなと、俺は何故だか深く納得したんだ。

そんな俺の様子を見ていた男性は、頷いて、

「まあ、たぶん害は無いと思うよ。」

そう言って帰って行った。

次の日、信じてもらえるかは分からないけど俺はみんなにこの事を話してみたんだ。

そしたら意外にもみんなはすんなりとそれを受け入れ、

「別に大事な話をしているわけじゃないんだから誰が居てもいいじゃん。」

「もし話に入りたい人が他にいたら積極的に誘おうよ。」

って、そんな話になったんだ。

そして、たぶん学生時代にしかこんな下らなくて薄っぺらい話を、みんなでワイワイすることも出来ないだろうと思って、その後も俺たちは放課後学校に残ってはバカな話をいっぱいした。

一人多くなる現象はそれからも時々あったけど、その時、俺は怖いという感情よりも嬉しいと思う気持ちの方が大きかったということを、今でも憶えている。

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