体験場所:東京都S区
私が小学4年生の夏休みに、東京都のS区で体験したお話です。
その日は友人のAちゃんと区民プールへ出かけた後、公園で遊び、午後3時頃の帰り道でのことでした。
いつも通り私とAちゃんは、お互いの家の中間地点まで一緒に帰り、そこでの別れ際のこと、
「明日も一緒に遊ぼう!」
と、私はAちゃんを誘いました。
ですがAちゃんは、私の頭上を呆けた表情で見つめたまま返事をしません。
「ねぇ、聞いてる?」
と、もう一度私が声を掛けると、
「…あんな所に、教会あった?」
と、Aちゃんが指さす方向を振り返って見ると、確かに教会の十字架が見えました。
いつもこの町で遊びまわっている私たちですが、おかしなことにその教会の存在は記憶にありませんでした。
私たちは俄然興味が湧き、
「行ってみよう!」
と、その教会に向けて歩き出しました。
ですが、さっき見た時は目と鼻の先、ほんの50m程の場所に見えていたのですが、不思議なことに10分以上歩いてもその教会は現れませんでした。
その日は夕方に差し掛かる時間になっても気温が異常に高く、朝から遊び疲れていたこともあり、私たちはその日の捜索は打ち切りにして諦めて帰ることにしました。
来た道を引き返そうと振り返った時のことです。
そこに小柄なお婆さんが立っていました。
「まぁ、汗びっしょり!私の家で何か飲んで行きなさい」
と、そのお婆さんは汗だくの私たちを見て言ってくれました。
普段なら知らない人の誘いに従うことはないのですが、そのお婆さんの物腰の柔らかさに安心感を覚えたのと、とにかく喉の渇きに負けて、私たちはお婆さんのお言葉に甘えることにしたのです。
そこからすぐにある、数メートル先の白い一軒家がお婆さんの家でした。
玄関先に入ると、家の中には他に人の気配はなく、少しひんやりとする涼しい空気が、熱波地獄から生還した私たちを気持ちよく包んでくれました。
カルピスを頂き、お婆さんが昔売れない女優だったとの話などを聞いてから、私達はお礼を言って帰ることにしました。
外に出ると、辺りは既に薄暗くなっていましたが、区のスピーカーから5時を告げる童謡が流れていたので、そこまで時間も遅くなっていないと安心しました。
先ほどの、お互いの家の中間地点まで戻ると、そこには心配そうな顔をした私たちの母親がいまいした。
「何時だと思っているの!9時過ぎてるのよ!」
と、怒りを露わにする母親たちに、
「え?さっき5時になったばかりだよ?」
と言い返すのですが、呆れ顔で母親が突き出した腕時計を見て、私とAちゃんはビックリして顔を見合わせました。
確かに時間はとうに9時を廻っているのです。
私たちは不自然な時間の経過に言葉を失ったまま、お互い母親に連れられて家に帰りました。
私はその日のことを、どことなく薄気味悪い記憶として悶々と思い出しながら、結局それから夏休みが終わるまでの間、何となくAちゃんと遊ぶ機会を得られずにいました。
夏休みが終わり、新学期が始まった時のことです。
「あの日さぁ…」と、Aちゃんから声を掛けられ、やっぱり私と同じように、あの日のことが腑に落ちず、どことなく気味悪く思っていたことを告げられました。
そこで、お互い気になっていたことを解明するために、まずはあの教会探しの続きから始めてみる事にしたんです。
場所の見当は大体ついているので、その近辺一体を改めて探してみたのですが、やっぱり一向に教会は見つかりません。
しょうがないので先にあのお婆さんの家に行ってみようと向かった先で、私たちは愕然としました。
そこにはやっぱり白い家がありました。
ですが、その門は壊れて半開きになっていて、庭は荒れ果て、表札にはテープが貼られ誰のものかも分かりません。
その姿は間違いなく、空き家でした。
家を間違えたわけではありません。
辺りを見回しても白い家はここだけです。
その白い廃屋の前で、2人で立ち尽くしていたら、犬の散歩をしている近所のおじさんが「どうしたんだぁ?」と声をかけてきました。
話を打ち明けると「え?ずっと前からここは空き家だよ?幽霊の話をしてるのかい?大人をからかうなよ~」と半笑いで行ってしまいました。
何がなんだか分からないまま、夏とは思えないほど冷たい冷気が、ゆっくりと私たちの背中を登っていきました。
私たちはその日、教会の再捜索も断念し、出来るだけこの話に触れないように、ほとんどお互い無言で家路に付きました。
その後、Aちゃんとはこの話をすることもなく小学校を卒業しました。
そして中学に進学し、Aちゃんと疎遠になった頃のこと。
何がきっかけでその話になったのかは思い出せないのですが、叔母に白い家の話をすると、
「あそこの家は10年くらい前に一家心中があったのよ。そのせいで事故物件になってしまってて、なかなか売れないらしいよ」
と、教えられました。
消えた教会、一家心中があった白い空き家、小柄なお婆さん、。
これらがどう関係しているのか、過去を調べるのも嫌だったので、今も謎のままです。
あの日、私たちは4時間近くもの間、何処をさまよっていたのか…
あの白い家で飲んだカルピスって一体何だったのか…
それらの答えが何も出ないまま、何十年も過ぎてしまいました。
Aちゃんとは疎遠になったままです。
それで最近、風の噂で信じられない話を聞いたんです。
Aちゃんが今から5年前に、その白い一軒家を購入し、その2年後、一家心中したらしい、と…
あまりにも嫌な話なので、その真偽も確かめていません。
でも、もしもその噂が本当なら、あの夏の日、教会探しさえしなければ、Aちゃんは今も無事だったのでしょうか?
今のところ私の身には何も起きていませんが、正直Aちゃんの噂を聞いて以来、あの日の記憶が甦り怖くてしょうがないです。
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