体験場所:三重県O市の大きな木がある空き地
これは、私の母から聞いた話です。
母がまだ若く、23歳になる頃の事だそうです。
当時、母は三重県O市にある小さな商店で働いていたそうです。
田舎の為か、店には暇を持て余した常連客も多く来店し、母はよくその話相手をしていたそうです。
その日も母が店番をしていると、見慣れない60代くらいの女性客が買い物に来たそうです。
小さな田舎町のため、殆どのお客さんが顔見知りだったので、母は「珍しいな…」と思いながらその女性客を接客したそうなのです。
ですが、その女性客は母の接客には無反応のまま買い物を続け、その間、ただずっと母の事を凝視していたそうです。
母を見て、母の少し後ろを見て、そしてまた母を見て…。
その視線に母は少し怯えながらも、
「あの、お会計は〇〇円で…」
と言いかけた母に、
「貴女、お墓ちゃんとしてる?」
と、母の言葉を遮るように、その女性が怖い顔をして話し掛けて来たのだそうです。
「えっ?あの…お墓なら両親が綺麗にしているはずですが…?年に何回かは私もお墓参りに行ってますけど…」
と、母はその女性の異様さに圧倒されながら、しどろもどろに答えると、
「お墓に行っているとか、綺麗にしているとか、そんな話ではないの。貴女のね、後ろにいる人がそう言って騒いでいるのよ…『まだ家族のお墓が別の場所にあるよ。一緒にして、一緒にして…』と、私にしきりに懇願してくるのよ。」
すると女性はある住所を口にし、
「貴女、この住所に心当たりはない?そこには1本の大きな木があって、その木のすぐ傍にある丸い石を2つ積んだお墓がそうだと言っているわ」
と、その土地や墓の特徴までを、捲し立てるような口調で詳細に語ったのだそうです。
(自分の後ろにそんな事を叫ぶ何かが憑いている?そんな馬鹿な…、でももしかしたら本当に…)
見知らぬ女性の奇妙な話に母は動揺しながら答えました。
「分かりません。聞いたことないです、そんな住所…」
すると女性は一言、
「そう…」
と言うと、自分のバッグからメモ帳を取り出し、そこに先ほどの住所を書いて母に渡したのだそうです。
「そこに行ってあげて。本当に悲しそうに訴えているから…」
女性はそう言い残し、早々に買い物を済ませて去って行ったそうです。
その後は仕事も手に付かないまま母は、
(私の後ろに…)
と、恐る恐る後ろを振り返っては、
(そんなはずない、そんなはずない…)
と、上の空のままに仕事を終え、急いで家に帰り、今日あった事を母の母(つまり私からしたら祖母ですね。以下祖母と表記します。)にあたふたと話し始めました。
「お母ちゃん!今日、変な人が店に来て、○○って住所にある墓をうちの墓と一緒にしろって言われた!しかも、私の後ろに憑いとるもんがそれを叫んどるんやって!」
そんな風に母が話すのを聞いた祖母は、半ば呆れながら、
「そんなわけないでしょ。からかわれただけよ。」
と、取り合うこともなかったのですが、その女性が残した住所や、その場所の風景やお墓の特徴など、妙に具体的な内容を聞いている内に薄気味悪く思ったらしく、
「そしたら次の土曜日にお父ちゃん(私の祖父。以下祖父と表記します。)と、その住所に行ってみましょう。」
と言って、母と祖父母の3人で、その住所の場所に行ってみる事にしたそうです。
因みに、最初にその話を聞いた祖父は、
「騙されたんだ!」
と言って、やはり取り合うつもりはなかったようなのですが、必死に訴える母に次第にほだされ、
「それでお前の気が済むなら、一度行ってみるか…」
と、押し切られるような形で了承したそうです。
そして迎えた土曜日。
その住所の場所に到着した3人は驚きました。
そこには一本の大きな木がそびえ立ち、その傍らにひっそりと母方の苗字が彫られた小さな墓がありました。
更に、それに並ぶように、大きな丸い石を2つ積み重ねた墓のようなものが合計6つ。
そこには正に、あの女性が言っていた通りの景色が広がっていたのです。
その時の恐怖は今でも忘れられない、と、母は少し目を細めながら話していました。
目の前の光景を唖然と眺めながら、言い知れぬ恐怖を感じた母と祖父母でしたが、もはやその女性の話を信じざる負えないと観念したそうで、直ぐに業者を手配し、いつもお参りしている墓の隣にそれらを全て移動させたそうです。
私が小さい頃、母方のお墓参りに行くと、立派なお墓の隣に並んだ、小さく赤茶色い墓と、2段に積まれた少し大きな石のことが不思議でたまりませんでした。
しかし、中学の時にこの話を聞いて、当時は妙に気味悪く感じたものです。
因みに墓を移した後、女性に言われた背後に憑いている人のことが気になって、母は直ぐにお祓いをしてもらいにお寺に行ったそうなのですが、
「何も憑いていません。」
そう住職に言われたのだそうです。
ですが、母は住職の言葉を信じきれず、その後も店番をする度に、名前もしらないあの女性が再び現れることを来る日も来る日も待ち続けました。
しかし、結局その女性には会えないまま、私の父と出会い、店を辞めて別の町に引っ越すことになったのだそうです。
もしかしたら母の背後にはまだ、その何かが憑いたままなのでしょうか…
それともお墓を移したことに満足し、成仏してくれたのでしょうか…
結局その女性に会えないままなので、その真相も分からないままなのだそうです。
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