体験場所:福岡県N市
これは私の親族の間で本当にあった話です。
先に、話は戦前まで遡ります。
私の曽祖父は当時、地元の福岡県N市中にあった色街で芸者遊びに入れ揚げていたそうです。
毎日のように遊び歩いていたそうなのですが、その中の芸者の一人が曽祖父に本気になってしまいました。
しかし、当時は自由な恋愛が許される時代ではなく、家柄もあった曽祖父とその芸者の結婚など許されるはずもありませんでした。
それに、本気で惚れ込んでいたのは芸者の方だけで、曽祖父は実はその芸者を遊び相手の一人としか見ていなかったらしく、そのうち曾祖母と見合いをして、あっさりと結婚してしまったそうなのです。
残された芸者は、曽祖父のことを忘れることが出来ず、絶望して自ら命を絶ってしまったそうです。
曽祖父のこの話は、その後も我家で語り継がれながら昨今に至ります。
曽祖父母も既にこの世を去っており、二人とも家の裏手にある墓所で、それぞれ別々の墓に埋葬されました。
当時は幼かった私もその家に住んでいたのですが、曽祖父が墓に入ったその頃から、家の中で妙な話が噂されるようになったのです。
夜中の2時頃になると、曽祖父のお墓から、三味線の音が聞えてくると言うのです。
しかも、それが聞えるのは『ある特定の条件』に該当する者のみなのです。
家には私の他に、私の祖父母と両親、それと伯父夫婦とその息子(私にとっては年の離れた従兄)、計8人がその家で暮らしていました。
この内、曽祖父の墓から三味線の音が聞こえると、青い顔をして話していたのが、祖父、父、伯父、従兄の4人。
私と母と祖母、それと伯父の妻(義伯母)に関しては、その音を一度も聞いたことがありませんでした。
私もまだ小さかったので、その音が旋律のある音色だったのか、ただ闇雲に弦が弾かれた音だったのかなど、詳細は記憶しておりません。
ただ、その後、この家に住んでいた全員が、一家離散への道を辿りました。
最初に祖母が別宅に移住し、私と母は隣町へ引っ越しました。
その後は伯父一家が残ってその家に住んでいたのですが、家族内のもめごとの末にそれぞれ出て行ってしまいました。
後に、従兄、次に私と、それぞれ住んだ事はあったのですが、何かの理由でその家を再び離れました。
ちなみに私の場合は、家族とのもめごとが原因で出ていくことになりました。
現在、その家には誰も住んでおりません。
ここでお伝えしたいのが、曽祖父の墓から三味線の音が聞こえる『ある特定の条件』についてです。
それは、『不貞行為を行った男』にのみ聞こえるというものでした。
三味線の音が聞こえたと言う祖父、父、伯父、従兄、その4人全員に不貞行為の過去があり、それが直接の原因となり、あの家は一家離散の道を辿りました。
現在では家族の全員が疎遠となり、私は誰とも連絡をとっていない状態が続いています。
あの家が現在の状態に至るまでには、結局、不貞行為を行った者にその要因があるのは確かだと思います。
ですが、今考えてみれば、これは前述した芸者の祟りなのではないかと考えてしまうことがあります。
かつて、曽祖父の不道徳な態度に傷つけられた悲運な女性。
その無念が呪いとなり、曽祖父の子孫である一族に不貞行為そのものを促し、一家離散に追い込まれたのではないかと。
私は今、妻子を得て家族で幸せに暮らしていますが、不貞をした伯父や従兄は現在、経済的、精神的に悲惨な生活を送っていると風の噂に聞きました。
他の家族についても把握はしておりませんが、およそ幸福な人生を送れているとは思えません。
昨今、芸能人でも不貞でバッシングの対象となり、世間から痛烈な批判を浴びるニュースやワイドショーをよく目にします。
それに踏まえ、私の家族の辿った末路から見えるものは、浮気や不倫で得られるものは一時的な快楽だけでしかなく、その先に待ち受けているものは崩壊しかないと、私自身に重々言い聞かせ戒めとしています。
願わくば、今はもう悲運な芸者の怒りも治まり、私が築き上げて来た現在の家族に祟りの影響がないよう祈るばかりです。
最後に、曽祖父が亡くなった時の話です。
(私も聞いた話ではありますが)
曽祖父が亡くなるよりも3ヶ月ほど前、曾祖母が先に他界しました。
そのすぐ直後だったそうです。曽祖父の体調が急激に悪化し、そのまま亡くなってしまったのは。
その後、曽祖父の葬儀の為、すぐに家族が葬儀屋に連絡したそうなのですが、
「既に女性の方から葬儀のお願いの電話がありましたよ」
と、言われたのだそうです。
事前に葬儀の連絡をしていた女性とは一体誰だったのか?
曾祖母が曽祖父を連れて行ったということなのでしょうか?
それとも曾祖母が亡くなったのを見計らい、あの芸者が曽祖父を連れて行ったのでしょうか?
一家が離散してしまった今となっては、余計にそれを知る術もありませんが。
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