【怖い話|実話】短編「オレンジ」不思議怪談(長野県)

【怖い話|実話】短編「オレンジ」不思議怪談(長野県)
投稿者:サボ子 さん(20代後半/女性/事務員)
体験場所:長野県S市

これは私が子どもだった頃の話です。

「学校の七不思議」だったり「あの子…幽霊みたんだって!」なんてことを信じるか信じないかと、私がお友達とキャッキャッと楽しんでいた小学生の頃、父方の祖母が長い闘病の末に亡くなりました。

その祖母が亡くなる前日のことです。
暑い夏の夜でした。

私には3つ上の姉がいます。その姉が就寝中に急に泣きじゃくるので、何事かと、並んで寝ていた家族全員が眠い目をこすりながら姉の話を聞いてみると、

「何もない白い部屋の夢をみたの。誰かがベッドで寝ていて、周りの人はみんな泣いてて、お父さんもお母さんもいた。あそこで寝ていたのはきっとおばあちゃんだ!おばあちゃん、死んじゃった!」

そう言って姉はシクシク悲しそうに泣いていました。

子どもの言うことではありましたが、当時、祖母は何度も入退院を繰り返していましたので、私の父は不安に思って、翌朝すぐに祖父のもとへ電話を掛けました。

「え?おばあちゃん?今は入院してるけど、昨日お見舞いに行った時は元気だったよ。リンゴをお土産に持って行ったのに「オレンジが食べたかった」なんてわがまま言われてしまったよ。ん?どうしたんだ?」

「え?ああ。元気なら良かったよ。まあ、ちょっとだけ不安になってしまっただけだから。気にしないでくれ」

「そうか。あぁ、それならまた家族みんなで顔見せに行ってやってくれや。きっと喜ぶから」

そうだね。と言って、父は電話を切りました。

ちょうどその日は土曜日でしたので、おじいちゃんもそう言っていることだしと、私たちは直ぐに準備をして祖母に会いに行こうと家を出ました。

新潟の家から高速道路をひた走り、長野の祖母のところまで休憩含めて片道約3時間の道のり。
その日も暑い夏の日差しが降り注いでいました。

もうすぐ到着というところで、父の携帯に電話が掛かってきました。
運転中の父に代わり、助手席にいた母が電話に出ました。

「はい、………はい……。分かりました。今、向かっている所です」

暗い声で返答している母の様子を見て、電話の向こうの声を聞いていない私達にも、何となくその内容に察しが付きました。

「お義母さん、ついさっき、容体が急変したって…」

急いでそのまま祖母の元へ向かいましたが、祖母はもう安らかに眠ってしまっていました。

この後のことはあまり覚えていません。

(全身黒い服だから、太陽の日差しが余計に暑いな。)と、つい最近学校で教わった太陽光の実験のことを考えながら、ふすまが全く無い広い畳の部屋に座り、お坊さんの低い読経の声を聞いていました。

病気は苦しい。人は死んでしまう。
分かっていたことですが、心のどこかで(またあの長い高速道路を抜ければ、おばあちゃんに会えるんじゃないか)と考えていました。まだ祖母の死に対して実感が湧かなかったのです。

しばらくすると、喪主であるおじいちゃんが立ち上がって、参列者の方々に挨拶を始めました。

「今日は皆さん妻のために来て下さってありがとうございます。つい前日まで元気だったのに。少し抜けている部分がある妻でしたので、皆さんにはご迷惑ばかりおかけしたかと思いますが……」

(またおばあちゃんの居ないところで文句言って!おばあちゃんが聞いていたら「コラ!」って怒っちゃうよ!)

おじいちゃんの話を聞きながら、そう心の中でツッコんだ時でした。

『ゴトン』

何か重いものが落ちたような音が響き、辺りがシンッと静まり返りました。

今のはなんだ?と、一様にキョロキョロと音の出所を探すと、皆の視線が一点に集まりました。

(あ。もしかして…)

皆の視線の先にあるものは、大きな仏壇のそばに置かれ、沢山の果物が盛り付けられたカゴでした。
いや、正確に言うと、カゴに盛られている果物ではなく、そのすぐ下に落ちていた果物に、皆の視線が集まっていました。

オレンジでした。

他の誰にも分からなかったと思いますが、私は直ぐに(おばあちゃんだ!)と直感しました。

そもそもバランスよく果物が盛られたかごにはビニールが被せられてあったので、ちょっとやそとのことで落ちてしまうなんてことはないと思います。

そばでおじいちゃんの挨拶を聞いていたおばあちゃんが「もう!」と、ちょっとだけ怒ったんだな。

きっとあの場所にはおばあちゃんがいました。

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