【怖い話|実話】長編「明晰夢の光景」不思議怪談(大阪府)

【怖い話|実話】長編「明晰夢の光景」不思議怪談(大阪府)
投稿者:空田いろ花 さん(30代/女性/主婦)
体験場所:大阪府 某所

私が新卒採用された会社の上司の話です。
その上司はМさんという女性の方で、気さくで優しく、とても頼りになる人でした。

そんなМさんが、たまに『明晰夢』を見ることがあるとおっしゃられたんです。
明晰夢とは、睡眠中に見る夢の中で、「これは夢だ」と自覚しながら見る夢のことです。

ただ、彼女が見る明晰夢はそれだけではなく、他に特徴がありました。
それは、Mさん自身が夢の中の出来事の当事者になることはなく、自分はあくまでその展開を見ているだけの視点のみの存在であること。それはまるで、テレビや映画を視聴するような感覚だったそうです。

だから、目の前で繰り広げられているストーリーを、ただ見ているだけの自分に気が付いた時点で、「これは夢だな」と、いつも夢の序盤で分かるそうなのです。

でも、そのルールに当てはまらない明晰夢を見た日、とんでもないことが起こったとMさんは言いました。

Мさんは中学生の時に母親を病気で亡くされていて、社会人になって間もなくした頃に十三回忌を迎えたのだそうです。
実家で法事が行われ、もちろんМさんも列席するために帰省しました。

最寄り駅に着き、歩いて実家に向かう道すがら、子どもの時に母親によく連れて行ってもらった公園を通り掛かりました。
そこの砂場で遊ぶ親子を見て、自分もこんな風に可愛がってもらったんだろうなぁと、しんみり思いながら通り過ぎたのだそうです。

滞りなく法事を終えた後、もう少し実家でゆっくりしていきたかったそうですが、翌日の仕事を休むことができなかったため、Mさんは直ぐに一人暮らしをしているマンションに戻りました。

その夜は普段より少し早めにベッドに入った以外は、いつも通りだったらしいです。
そして、夢を見たのだそうです。

今日通り掛かった幼い頃に遊んでいた公園を、遠くから見ているような眺めでした。
その視点以外に自分の存在がない時点で、「これは夢だな」と直ぐに気が付いたそうです。

公園のベンチには一人の女の人が座っていました。
髪はぼさぼさで艶がなく、ヨレたTシャツにスウェットのズボンを穿いていて、近寄りがたい雰囲気でした。

その女がおもむろに立ち上がったかと思うと、ブランコに乗り始めたそうです。

それからシーソーやタイヤ飛びのタイヤに登ったり、砂場の周りをうろついたり、そして滑り台に登り出したかと思うと、そのてっぺんで立ち止まったそうです。
女は、そこからゆっくりと周囲を見渡していたそうなのですが、その様子はまるで、獲物を狙う動物のような素振りで、張りつめた緊張感があったと言います。

その時、Мさんは女と目が合ったように感じたそうです。

しかしMさんの見る明晰夢の中では、自分は視聴者でしかなく、夢の登場人物と会話をしたり触れ合ったりすることはないはずです。
だから目が合ったような感覚も自分の勘違いだろうと思い、気にすることはありませんでした。

すると、女は再び滑り台の階段を下りて地面に降り立ったかと思うと、そのままMさんの方へと向かって来たのだそうです。

そこでようやくМさんは違和感を覚えました。

(なぜこの人は、まるで私が見えているかのように、こちらへ向かって来るのだろう?いつもの明晰夢なら私を意識する人なんていないはずなのに…)

そう思っていると、女の手にナイフが握られていることに気が付きました。
Mさんが驚くと同時に、女は駆け寄ってくるとナイフを握った手を大きく振りかざしたのです。

そこでМさんは目が覚めました。
生々しい夢の情景と緊張感に呑まれたMさんは、びっしょりと汗をかいていたそうです。

時計を見ると朝方でした。母が亡くなった時間もこれくらいだったなぁと思いながら起き上がり、着替えて再びベッドに入ったそうです。
しかし、そんな悪夢を見た後で再び寝られるはずもなく、そのまま起床時間を迎え、いつも通り出社しました。

仕事を始めると夢のことはすっかり忘れ、あっという間に時間が過ぎていったそうです。

その日の仕事を終えて退社し、駅からマンションへ向かって歩いている時でした。
小さな公園の前を通り過ぎようとしたところでМさんは立ち止まり、そばにあった電柱に身を潜めました。

夢で見た女と全く同じ格好をした女がブランコに座っていたのです。

街灯が少ないせもあってハッキリ顔までは見えませんが、その服装は間違いなく夢で見た女と同じだと確信したそうです。
Mさんは直ぐに女の手元を見ましたが、ナイフを持っているかどうかまでは分かりませんでした。

たかが夢で見ただけの事がどうした、と言われたらそうなのですが、その夢が普段とは違う明晰夢だったことと、今、目の前に、夢で見たのとそっくりな女がいることを偶然だとは思えなかったそうです。

このまま通り過ぎることはできないと、Мさんは駅の方へ引き返すことにしました。
駅のすぐ隣りにある交番で「公園にナイフのような物を持った不審者がいる」と伝えに行くことにしたそうです。

もしも女がナイフを持っていなかったとしても、「暗くてよく見えなかった。スマホと間違えた」などと言い訳をすればいい。
もし交番の警察官が出払っていた場合はタクシーで帰ることにしよう、などと考えながら足早に交番へ向かいました

交番の中を覗くと、警察官がいました。

「どうかされましたか?」

すぐに警察官の方がМさんに気が付いて、そう声をかけてくれたそうです。

「あのー、暗いから見間違えかもしれないし、考えすぎかもしれないんですけど…」

そう前置きした上で、少し遠慮がちにMさんは公園の女のことを伝えました。

「刃物はともかく、女性一人でこの時間に公園にいるのは危険だから」

そう言って、警察官の方はすんなりとМさんの訴えを聞き入れてくれたそうです。

二人の警察官と共に公園へ向かう道すがら、Mさんは「見間違えだったらすみません」「ちょっと様子が気になりまして」と、前もって何度も言い訳のような言葉を繰り返したそうです。
幸い二人の警察官は親切な人だったらしく「大丈夫ですよ」「夜道は危ないですしね」とМさんを気遣ってくれました。

Мさんは警察官の手を煩わせてしまった申し訳なさで、刃物で襲われるような非日常的なことが簡単に起こるわけがないと、自分の安直な行動を後悔し始めていたそうです。

その先の角を曲がったところが公園という地点まで来た時でした。

「キャアアアア!!」

と女性の叫び声が聞こえたのです。

すぐさま警察官とМさんは走り出し、公園が見える場所まで出ました。

そこには、女性の腕を掴み、ナイフを振りかざすあの女がいたのです。

「なにしてるんだ!!」
「やめろ!!」

警察官が警棒を引き抜きながら駆け寄ると、女は驚いた顔をして硬直したそうです。その隙に警察官が抑えかかり、襲われていた女性は凶刃から逃れることが出来ました。

被害女性はその場に泣き崩れ、思わずМさんは駆け寄って背中をさすってあげました。
その時、その女性の姿をよくよく見て、Mさんはゾッとしたそうです。

セミロングの茶色い髪とひざ丈のタイトスカート、背格好も年代もMさんと酷似していたのです。
あのまま公園の前で引き返さずに進んでいたら、間違いなく自分が襲われていたと、そう思わずにはいられませんでした。

(いつもと違う昨日の明晰夢は、今日のことを見せる予知夢だったんだ…)

そう確信したのだそうです。

ただ、不思議なことに、夢の中の現場は実家の近くの公園だったのに、実際にそれが起こった場所は、Mさんが住んでいるマンションの近くにある、名前も知らない公園でした。

「お母さんが護ってくれたんだろうなぁ」
Мさんはそう思ったそうです。

実際の現場となった公園は、日々の風景に溶け込み、Mさんはその存在を意識したことすらありませんでした。
でも、母親の法事に出席し、実家の近所の公園を通りかかった事で、あの懐かしい公園のことは思い出しました。思い出したからこそ、あの公園を代用する形で、近く起こる凶荒を、母親が予知夢として見せてくれたのだろうと、Mさんはそう思ったそうです。

因みに犯人の女は、元カレの新しい彼女に背格好が似ていたので襲ったと供述していたそうです。

どうやら元カレの彼女を殺害しようとしていたそうなのですが、相手の名前も顔もハッキリと分からないまま、とりあえず元カレのアパートの近くに現れた女性を襲うことに決めたとか…

そんな漠然とした犯行計画で実行に移すあたりに、強すぎる殺意だけが独り歩きしているように見え、それが何より恐ろしかったとМさんはおっしゃっていました。

そんな事件もあって、Мさんはすぐに引っ越しをしたそうです。
今は会社から徒歩圏内の場所に住んでいるとおっしゃっていました。
家賃が高くても人通りの多い場所の方が安心できるそうです。

予知夢はあれから一度も見ていないそうです。
初めての予知夢が自分の命に関わるものだったので、次に見る時もそんな気がするから、出来ることならもう二度と見たくないと、Mさんはおっしゃっていました。

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