
体験場所:千葉県松戸市
私は千葉県松戸市に住む20代の会社員です。
これは、同じ市内で一人暮らしをしていた友人から聞いた実際の話です。
彼女は短大を卒業してすぐ、松戸駅から徒歩15分ほどの古い木造アパートで暮らし始めました。家賃が安く、静かな住環境だったことが決め手だったそうです。
そこに入居してから二ヶ月ほど経った頃、彼女は奇妙な音に気が付いたそうです。
それはある夜、十一時半を過ぎたくらいのことでした。
ベッドに横になって動画を見ていると、隣の部屋の壁から「トン、トン、トン……」と、一定のリズムで何かを叩くような音が聞こえてきたそうです。
最初は釘を打つ音かと思い、「こんな遅くに何を作業をしてるんだろ?迷惑だな~」と不快に感じつつもスルーしていたそうです。ですが、音は深夜一時を過ぎても鳴り止まず、しかも間を置いて小さく「コツン」と何かが落ちるような音も混じり始め、だんだんと気味悪くなってきたと言います。
翌朝、彼女は大家さんに電話しました。
「あの~、隣の方が夜中に音を立てて何か作業されているみたいで、少し控えてもらいたいのですが?」
そう言うと、電話口の大家さんは少し間をおいて、不思議そうに答えたそうです。
「お隣の201号室ですか?あそこ、今は誰も住んでいませんよ?」
冗談かと思いましたが、彼女は念のため廊下に出て隣の部屋を確認すると、確かにポストにネームプレートがないし、長い間誰も出入りしていないことが雰囲気から察せられました。
確かに誰も住んでいない。それなのに、また夜になると隣の部屋の壁から、「トン……トン……」と、音が聞こえてくるそうなのです。
それでも最初の数日は我慢していたそうです。ですが日を追うごとに、音はまるで壁が薄くなるかのようにだんだんと自分の部屋に近付いてくるように感じられ、ある晩、遂に自分のベッドの真横から鳴っているような気がして眠れなくなりました。
一体なにが起きているのか理解できず、その夜、彼女はスマホのボイスレコーダーを起動し、音を録音してみることにしました。
録音を終えて再生してみると、やはり“トン、トン”という音が録れています。更にその音に交じって、時折かすかに「スーッ」という吐息のようなノイズが聞こえるそうなのです。
怖くなった彼女は次の週末、私ともう一人の友人を部屋に呼び、「一晩泊っていって欲しい」と頼んできました。とても怯えている彼女が心配で、私たちは快く引き受けたのですが、でも、その夜は遅くまで起きていても一向に音が聞こえることはありませんでした。
私も壁に耳を当ててみたのですが、聞こえてくるのは彼女の部屋の冷蔵庫が低く唸っている音だけでした。
「気のせいだったんじゃない?」
結局、その夜はそう結論付けて眠りに就きました。
その翌日、家に帰ると、再び彼女から連絡が来ました。
「今日みんなが帰ったあと、夜になる前にまた音が聞こえてきたの。しかも今度は“トン、トン”のあとに壁をザーッと擦るような音までして…」
その声は震えていて、彼女が心から本当に怯えているのが伝わってきました。
それから数週間後、隣の部屋に新しい入居者が越して来ました。
引っ越しの挨拶に訪ねて来たその男性に、彼女は勇気を出して聞いてみました。
「その部屋って、今まで空き部屋でしたよね?」
すると、彼は少し笑いながらこう答えたそうです。
「ええ、そう伺ってます。でも、内見の時、誰かが部屋の隅に立っている気がしたんですよね。たぶん気のせいだと思うんですけどね」
その一言に彼女は背筋が凍り付いたそうです。
その後、半年ほどで彼女は引っ越しました。
「結局あの音の正体は分からなかったよ。あの録音データも怖いから消しちゃったしね。」
私が最後に彼女に会った時、そう言って元気そうにしていたので、私もホッとたのを覚えています。

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