体験場所:愛知県岡崎市
これは友人のAから聞いた話です。
厳密には、聞いた話というか何というか…とりあえず聞いて下さい。
愛知県の岡崎市で実家住まいだったAは、両親と、愛犬のタロウと一緒に暮らしていました。
タロウはAの部屋に入りたい時は、いつも部屋のドアを爪でガリガリと引っ掻いてアピールし、ドアを開けてもらって中に入って来るのだそうです。
そんなタロウも歳をとり、下半身麻痺で歩けなくなってしまいました。
家族みんなで介護をしていましたが、それから1年が経つ頃、タロウは亡くなってしまったそうです。
タロウを溺愛していたAは、お寺で焼いてもらったタロウの遺骨を1㎝ほどの小さなビンに入れてもらい、お守りとして持ち帰ったそうです。
それくらい、Aはタロウのことを大切に思っていたようでした。
それから数か月が過ぎ、Aの悲しみも癒えてきた頃でした。
私は、Aとご飯に行くことになったのです。
「最近、寝ている時、自分がいびきを掻いているのかどうか、気になるんだよねw」
どんな話の流れでそうなったのか、Aが唐突にそんなことを言いだしたので、私はいびきに反応して録音してくれるアプリがあることを教えました。
すると、Aはさっそくそのアプリをダウンロードして使い始めたようなのですが・・・
その日、Aがアプリをセットして、いつも通り自室で寝ていると、何か物音がして薄っすらと目が覚めたそうです。
その音には聞き覚えがあったと、Aは言います。
それは、生前のタロウが廊下を歩く時に聞こえていた、床に爪が当たる音だったそうです。
それを聞いて、半分寝ぼけているAが「タロウ?」と不意につぶやくと、その足音は『カッカッカッカ』と足早に部屋に近付いてきたかと思うと、『ガリガリガリ』と、ドアを引っ掻き始めたのだそうです。
その音で一気に目が覚めたAでしたが、タロウのことをどれだけ大切に想っていたとしても、その異様な状況に理解が追いつかず、怖くてさすがにドアは開けられなかったそうです。
私の元に、Aから連絡が来たのは、その翌日のことでした。
Aから喫茶店に呼び出され、二人でコーヒーを飲みながら、この一連の怪奇現象について聞かされた後でした。
「いびき録音アプリに、その音が録音されているみたいなんだけど、一緒に聞いてくれないか?一人だと、怖すぎて…」
Aがそんなことを言い出したんです。
私は怖いのが苦手なので一度は断ったのですが、Aにどうしてもと頼み込まれ、しかたなく一緒に聞いてみることになりました。
イヤホンを片耳ずつ付け、アプリの再生ボタンを押すと・・・
『カツカツカツ』と、確かに床に爪が当たるような足音が録音されていました。
そしてAが「タロウ?」と呟く声の後、その足音が『カカカカカッ』と早足に近づき、ドアを『ガリガリガリガリガリ』と爪で引っ掻く音がハッキリ記録されていたのです。
「うわ、マジか~」
私は鳥肌が止まりませんでした。
やっぱり聞くんじゃなかったと後悔していると、
『バサッ。ズーッ、トットットットッ』
ドアを引っ掻く音より録音機に近いところ、多分、布団から立ち上がってフローリングの床を歩く人の足音がしてきたのです。
Aの話では、怖くてドアは開けられなかったという話だったのですが…
「ドアまでは行ったんだな…」
と私が言うと、Aは目を見開いたまま、
「覚えてない…」
震える声でそう言います。
『ガチャリッ。』
と、ドアノブを捻る音が聞こえ
『キーッ』
と、次にドアを開く音がしたかと思うと、
「バウブォウバウブォウバウ!!!!!!」
猛り狂う犬の呻り声と一緒に、激しく肉に齧りつくような不快な音がスマホから聞こえてきました。
「バウブォウ、グシャッ、バフ、ジャグ、バウブォウバウ、グジェ」
明らかにタロウが何かに襲い掛かり、その肉を咀嚼しているような、思わず耳をふさぎたくなる音がケータイから聞こえ続けています。
しかも襲われている何か、おそらくAは、全く抵抗している様子がありません。
「これって…お前…襲われてないか?」
私がそう言うと、Aは信じられないほど真っ青な顔のまま、震える指で音声を止め、
「すまん。今のは忘れてくれ…」
と、一言だけ言い残して、店を出て行きました。
呆然としたまま帰路に就くAの背中を見て、なぜだか私は思ったんです。
(Aは、タロウに何かしたんだな…)
「タロウを心から想っていた」そう口にしていたはずのAの背中は震えていて、何か後ろめたさのようなものが滲み出ているように感じました。
それ以来、何だか気まずいし怖いしで、Aとは連絡を取っていません。
コメント