【怖い話|実話】短編「見えないだけ」不思議怪談(福岡県)

【怖い話】実話怪談|短編「見えないだけ」不思議体験談(福岡県)
投稿者:はんにゃ まか さん(30代/男性/会社員)
体験場所:福岡県福岡市

私はどちらかといえば、幽霊やオカルト話といったものを信じているタイプの人間です。
ですが、生まれてこのかたそういったものを実際に見たり、目に見えない何かに苦しめられたり、そんな体験をしたことはありません。

ただ最近、幽霊が見える女の子のアニメが流行っているというのを聞いて、私はかつての一人の少年のことを思い出したんです。

私が中学生だった頃、一人の友人がいました。
名前はAといいました。

Aは同じ小学校からの同級生で、とても大人しいタイプの男の子でした。

家に遊びに行くと、Aの部屋には幽霊や妖怪の図鑑、怪しい魔術や呪いについて書かれた本、不気味なガイコツやエイリアンの人形などが沢山あり、彼はそういう『目に見えない何か』が本当に大好きな子なのだと思いました。

中学生にもなると、周りの子はオシャレや恋愛の話に夢中になるなか、私とAはいつもそんなオカルト話を語り合い、二人で盛り上がっていました。

ある週末、私とAは、他の友人二人を含めた四人で、福岡の大きなショッピングモールに映画を観に行くことがありました。

モールに着くと、私たちはエスカレーターに乗って、三階にある映画館に向かいました。

エスカレーターに面した建物の壁は、外の駐車増が見渡せる大きなガラス張りなっていたのですが、エスカレーターに乗っている間、Aはずっと窓の外を眺めていました。

3階の映画館に到着し、早速チケットを買おうとした時、Aは言いました。

「窓の外にいたよ」

私も、一緒にいた他の友人二人も(またいつものヤツが始まった…)と、そう思いました。

Aが幽霊やオカルトの話が大好きなのは、小学校のころから周囲には知られていました。

そして、Aがよく「自分は幽霊が見える」と言っていたことも、私たちは知っていたのです。

そのほとんどは他愛なく、近所でお葬式や法事が行われていると、「ほら、あそこに立っているよ」と言うくらいの月並みなもので、周りの数人ほどが怖がってくれる程度でした。

今回も特に意味はなく、ただ私たちを怖がらせるためだけに言っているのだと思いました。

ただ、Aの顔はいつもと違って真剣そのもので、(ひょっとしたら本当に何かいたんじゃないか…)と、おそらく私だけ、少しだけそんな風に思いました。

それでも折角ここまで来たのです。そんな煩わしい戯言は放っておいて、私たちは早く映画を観ようとAを促したのですが、

「窓の外にいた。僕は帰る。」

そう言って、Aは一人で帰ってしまったのです。

結局、映画は私たち三人だけで観ました。
映画を観ている間も、私はAのあの真剣な表情が頭から離れませんでした。

映画を観終わった後、いつもならフードコートで何か食べてゲームセンターに行くところなのですが、友人を一人で帰らせてしまったため、そんな気分にもなれず、私たち三人はそのまま帰宅しました。

週明け、学校が始まっても、Aは姿を見せませんでした。

先生が、「Aは体調を崩したからお休みするそうだ」と言っていたので、(風邪でもひいたのかな?)なんて思っていたのですが、二日、三日と経っても、Aが学校に来ることはありませんでした。

当時、私もAも携帯電話など持っていなかったので、心配になった私は彼の家を訪ねてみることにしました。

Aの家は平凡な住宅街にあり、来たのは久しぶりでした。

家に着くと、私はさっそく玄関脇にあるインターホンを押しました。
ですが、全く何も反応もありません。

私は玄関をノックしてAの名前を呼んでみましたが、しばらく待っても誰かが出てくるような気配はありませんでした。

(あれ?体調を崩したというから家にいると思ったけど…留守か)

そう思い、諦めて帰ろうかと思った時でした。
玄関のドア越しに、Aの小さな声が聞こえたのです。

「いっぱいいる。外にいっぱい…」

私はきっと怖くなって、Aに声を掛けることもせず帰ってしまったのだと思います。その時のことは、正直あまり覚えていません。

ただ、Aとはそれっきりです。

Aが学校に来なくなって数か月後、彼が引っ越してしまったと聞きました。

それから今に至るまで、私はAのことを思い出すこともありませんでした。

お別れを言えなかった寂しさと、最後にドア越しに聞いた小さな声は、はたして本当にAの声だったのかという妙な違和感があって、怖くて無意識に思い出さないようにしていたのかもしれません。

今、三歳になった私の息子は、時どき窓の外や誰もいない道路を指さしてこう言います。

「じぃじおる」

私は笑って、「そうだね、じぃじおるね」と返事をします。

私が知らないだけ、もしくはみんなが言わないだけで、何かが見えている人間なんて本当はたくさんいるんじゃないでしょうか。

もしかしたら覚えていないだけで、誰しも小さい頃は他の人に見えない何かが見えていたんじゃないでしょうか。

最近Aのことを思い出し、そんな事が頭をよぎり、できればこの子も私のように何も見えない大人になって欲しいと、今はただそう願うばかりです。

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