体験場所:愛媛県松山市
私が小学校低学年だった頃の話です。
私は愛媛県の松山市に両親と三人で暮らしていました。
父は会社員、母親は専業主婦と、ごくごく一般的な家庭でした。
父は仕事で帰りが遅く、いつも私が寝た頃に帰宅するという毎日でしたが、私は大好きだった母親を独り占めしているような感覚で、母親との二人っきりの生活が楽しくてしょうがありませんでした。
夕方頃に小学校から帰宅して母親の作った夕飯を食べ、それから母親と一緒にお風呂に入るのが毎日のルーティーンでした。
私はお風呂嫌いでしたが、母親と一緒の時は、その日の小学校での授業や友達のことを話したり、歌を歌ったりするのが楽しくて、むしろお風呂が大好きでした。
お風呂から出る時もいつも母親と一緒に出て、体を拭いて着替えさせてもらっていましたが、その日は見たいアニメがあったので、私だけ先に一人でお風呂を出たのです。
普段は母親にしてもらっていましたが、その日は自分で体を拭いてパジャマに着替えました。
それから一人で居間に行ってテレビを点け、見たかったアニメにチャンネルを変えていると、なぜかまだお風呂にいるはずの母親がテレビに映っていました。
当時はビデオカメラなど家にありませんでしたし、もちろん母親がテレビ番組に出演しているわけがありません。
よく似ている人かと思って画面に近付いてマジマジと見ましたが、やっぱりそれは母親なのです。
不思議さと一緒に少し怖く感じた私を、更に驚かせたのは次の瞬間でした。
テレビの中の母親が話しかけてきたのです。
私は驚きましたが、やっぱり子供だったからか、母親の呼びかけに無邪気に反応して答えました。
そのやり取りが二度三度と繰り返される内、いつの間にか私はテレビの中の母親と会話をしていました。
しかもそれは、さっきまでお風呂でしていた会話の続きでした。
気付けば私はテレビの母親との会話に夢中になっていて、普段は恥ずかしくて聞けないような事まで聞いていました。
「お母さん、ぼくのこと好き?お父さんとどっちが好き?」
テレビの中の母親は微笑みながら答えます。
「〇〇くんのこと大好きよ。お父さんと同じくらい大好きよ」
次に私はこんなことを聞いていました。
「ぼくとずっと一緒にいてくれる?」
するとまた母親は一層優しそうな笑顔でこう答えてくれました。
「もちろんずっと一緒にいるよ」
その言葉を最後にテレビの中の母親がスッと消えてしまったかと思うと、画面には私が見たかったアニメが映し出されていました。
テレビから急に母親が消えたことが寂しくて、私は声を上げて泣いていました。
辺りに響き渡るほどの大きな泣き声を上げていると、慌ててお風呂から出てきた母親が驚いて私の元に駆けつけました。
テレビには私の好きなアニメが映っているにも関わらず、なぜ泣いているのか不思議に思った母親から、どうして泣いているのかと聞かれても、私はうまく説明することができず、ただただ「ぼくのそばからいなくならないでね」と泣き叫んでいました。
それから母親とお風呂に入る度に、先にお風呂から出てテレビを点けてみるという事を何度か繰り返してみましたが、テレビに母親が現われることは二度とありませんでした。
大人になった今でも風呂上りにテレビを点ける時は、また母親が現れるのではないかと期待してしまうことがあります。
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