【怖い話|実話】短編「塔の記憶」不思議怪談(宮崎県)

【怖い話|実話】短編「塔の記憶」不思議怪談(宮崎県)
投稿者:keisuke さん(40代/男性/会社員)
体験場所:宮崎県宮崎市宮崎空港の端の方にあった小さな川沿い

僕がまだ小学二年生だった頃の話です。

当時住んでいたのは宮崎県宮崎市。宮崎空港から歩いてすぐの公務員住宅でした。離発着で低く飛ぶ飛行機の爆音と、近くを流れる川のゆるやかな水音が生活の一部に溶け込むような、そんな町です。

その日、学校の帰り道、たまたま近所の上級生、名前は確か“マサキくん”だったと思います、と一緒になりました。彼は四年生で、僕よりだいぶ背が高くて、いたずら好きなタイプ。普段はそんなに話す機会もなかったけれど、その日はなぜか妙に気が合って、並んで歩いて帰っていました。

「おい、こっちこっち」

マサキくんが、ふと足を止めて指さしたのは、学校から少し離れた川沿いのフェンスでした。
よく見れば、その金網の一部が錆びて足元の方が破れていて、ちょうど子供がしゃがんで通れるくらいの隙間が空いていたんです。

「行ったことない道があるからいこう。面白そう。」

その一言に誘われて、僕は金網の下をくぐりました。

フェンスの向こう側には、背丈ほどのススキが生い茂る細道があり、湿った土の匂いがしました。
二人でススキをかき分けながら歩いていくと、道は徐々に開けていきます。

もう少し進んで、ぽっかりと視界が広がる場所に出た時、“それ”はありました。

塔でした。

高さは7~8メートルほど。丸太のような柱が何本も組まれていて、中央には細い鉄の梯子が取り付けられ、てっぺんには金属の風見鶏のようなものが設置されており、それが日光を反射して鈍く光っていたのをはっきりと覚えています。

「なんだこれ……秘密基地?」

マサキくんが言い、僕も「うわあ……こんなのあったんだ……」と思わず声が漏れました。

周囲には柵も看板もなく、まるで廃墟の一部がぽつんと取り残されたような、不思議な光景でした。

でも、その日は怖さや警戒心もあって、あまり近づかずに引き返したんです。

僕たちは「また来ような」と言い合い、ふたたび金網をくぐって元の道へ戻りました。

翌週、また学校の帰り道でマサキくんと一緒になり、僕たちは再びあの場所に足を運んだのですが…

金網が破れた隙間はそのままで、その先のススキが生い茂る細道も変わりません。

けれど――塔が、ない。
塔どころか、あの開けた場所自体がいくら探しても見つからないのです。

誰かが『塔』を解体して持ち去った、というよりも、最初からあの場所ごと“存在していなかった”かのような空虚さ。

「え、絶対あったよな!?」
「うん、あった。絶対……」

互いにそう言いながら、あの“塔があった場所”を探し回ったのですが、結局手掛かりすら見つけられないまま、トボトボ家に帰ったと記憶しています。

あれから三十年以上が経ち、僕は今、東京で暮らしています。

たまに地元に戻っても、もうあのススキの道すら見つけられません。辺りは整地されて住宅や駐車場が立ち並び、当時の面影はほとんど残っていません。

そんな折、ふと当時の記憶を懐かしく思い出し、あの『塔』の手掛かりをインターネットで調べてみると、太平洋戦争末期に、特攻基地として使用された旧赤江飛行場(現宮崎空港)周辺には、戦闘機を格納した掩体壕や慰霊碑が、現在でも残されていることを知りました。

もしかすると、あの塔も、戦争遺跡として残された軍用施設だったのかもしれない――。
しかし、そうだとしても、僕たちがそれを目の当たりにした翌週に、忽然と姿を消してしまったという事実はどうにも説明がつきません。

あれは幻だったのか?記憶違いなのか?

でも、マサキくんも確かにそれを見ていて、お互いに「あった」ことを確認しあっている。それは夢では説明がつきません。

もしかすると何かのタイミングで、“あの日”だけ、“あの場所”にだけ、『別の時間』や『異なる層』が現れたのかもしれない。そんな風に考えたりしてしまいます。

あの日を思い出すと、今でも時々、夢にあの塔が出てきます。

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