体験場所:新潟県新潟市の某予備校
これは私の友人女性Tが、新潟県新潟市の某予備校に通っていた頃の話です。
Tは、県内でもだいぶ田舎の方の出身で、その実家から新潟市内にある有数の進学校に通う高校生でした。
進学校の授業はレベルが高くスピードも早いため、Tは高校進学後も早い時期から予備校へ通っていました。
コンビニすらろくにない地域から通うTにとって、高校と予備校のある県庁所在の街は大都会です。
少しでも長い時間を都会で過ごすことができるので、予備校通いはむしろ嬉しかったと言います。
ですがその予備校で、人生で一番ぎょっとした出来事を体験したのだそうです。
Tの通っていた予備校には大教室という大きな教室があり、普段の授業はそこで受けていました。
ですが、模擬試験などの際は、普段はあまり現役生の授業では使われない中規模の教室に割り振られることもあったそうです。
ある模擬試験の時、Tはその中規模教室に割り振られました。
中規模教室は冷暖房が効き過ぎるから気を付けた方がいいよ、と同じ予備校に通っていたTのお兄さんが教えてくれたそうです。
教室によっては机が古くてデコボコしているということもアドバイスされましたが、もしかしたら大学受験の本番でもそういうことがあるかもしれないと、Tはあくまで前向きに試験に臨みました。
そして迎えた模擬試験当日。
几帳面なTは早めの電車に乗り、余裕を持って教室へ入りました。
室内に並んだ机はどれも兄の言う通り見るからに古く、机の表面だけが不自然に光っています。
Tが着席した机も例に漏れず古びていて、傷による表面の凹凸を無理に塗料で塗り固めて埋めたようで、不自然な光はこれのせいなのだと理解しました。
塗料の上を軽く指でなぞってみると、それでも微妙なでこぼこは残っていて、なるほど気を付けなくてはとTは気を引き締めました。
空いた時間、参考書などを眺めている内にだんだんと人が集まり、遂に試験開始の時間となりました。
ところが、さっきまでは何ともなったはずのTの体調は、その頃になると何だかめまいがするような、気持ちが悪いような、どこか調子が悪くなっていたそうです。
ですが、真面目なTですので、そこは無理を押してでも試験を受けることにしました。
とは言え、刻一刻と過ぎる試験の間も具合は悪くなる一方です。
その上、机の微妙な凹凸に鉛筆を取られ上手くマークシートの解答欄を埋められません。
ぼこぼこ、ぼこぼこ。
鉛筆が凹凸に合わせて波打ちます。
体調はどんどん悪化していきます。
それでも、ようやく三教科を終えたところでTは机の上に突っ伏し、そのまま次の試験開始を待っていました。
目の前の机上には、不自然に光る塗料の凹凸が薄っすらと見えます。
Tはここまで自分を苦しめた机の傷の正体を探るように、その上を指でじっくりとなぞってみました。
すると、傷を埋めた塗料の凹凸がなんとなく文字になっているようなのです。
塗料を最初から最後までなぞり終える間に、何度も同じ感触が繰り返し指先に伝わってきます。
(同じ文字が、並んでる…?)
そう思ったTはレポート用紙を破り机に押し当て、その上を鉛筆でなぞってみました。
すると・・・
『許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない…』
恨みがましい文字がずらりと並んで浮かび上がり、その中央には一回り大きな文字で男性の名前が浮かび上がりました。
背筋がゾクリとしました…
机の中央に彫られた男性の名前。その四方を『許さない』という文字が幾重にも取り囲んでいるのです。
(なに…この机…)
ヤバい机に当たってしまったとTは焦りましたが、隣の受験生までもが気を悪くしては申し訳ないと思い、すぐにレポート用紙を畳んで仕舞い、そのまま何事も無かったかのように残り二教科の試験を終えました。
当然、試験の結果はぼろぼろ。
終わる頃には吐きそうになるくらい体調は悪化していたそうです。
「あれは絶対に『呪い』だよ…」
Tはそう言って、机の上に呪文のように並ぶ尋常ではない数の傷文字を思い出しながら、眉間に皺を寄せて話していました。
「あんな突然体調が悪化する事なんてないもん…それにね…」
Tの推測によると、恋愛関係のもつれによる怨恨が机の傷の原因だと言います。
机の中心に名前を彫られた男性を、憎む女性の仕業だと…
というのも、夢を見たのだそうです。
その机に座ったTは具合が悪くなっただけでなく、模擬試験の日の翌日から熱を出し、二日間ほど学校を休むことになったそうです。
その間、男女のいざこざに巻き込まれて苦しむ夢を何度も見たと言います。
目を覚ますと具体的なことは忘れてしまうそうなのですが、やけに臨場感のある夢で、高校生の恋愛とは思えないようなドロドロとした嫌な夢だったそうです。
間違いなくその当事者の女性が、あの机の呪いの主だと確信したそうです。
「座っただけで夢まで見せられたんだから…相当強い恨みがこもっていたと思う。」
Tは眉間の皺を消すことなく、そう私に話してくれました。
幸い、その後の模擬試験では呪いの机に当たることはなく、Tは無事に大学に合格し、上京。
その数年後、予備校の校舎は建て直されたそうです。
おそらく、Tを苦しめたあの呪いの机はもう存在しないのでしょう。
帰省して新しくなった予備校の校舎を見た時は、なんとなくホッとしたと言うTの眉間からは、ようやく皺が消えていました。
ただ、あの呪いの机に当たった生徒は自分だけではないはず。
他の人もやはり自分と同じ体験をしたのかどうか、Tは今もそれが気になるのだそうです。
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