体験場所:高知県 某小学校
私が小学生の頃、学校に子猫が捨てられていることがありました。
休み時間に中庭で遊んでいると、ニャーニャー鳴き声がしたんです。
どこから聞こえるんだろうと思って友達のKちゃんと辺りを探したら、花壇に生えた草の中に隠されるように段ボールが置いてあり、開けると中にはにゃーにゃーと鳴いている子猫がいたのです。
それはガリッガリにやせ細った子猫3匹で、子供の私でも栄養が足りてないことが見れば分かるほどでした。
お腹がすいていたのか、ヨロヨロしながら無我夢中で私の手をぺろぺろと舐める子猫の姿に、胸がぎゅっとなったことを今も覚えています。
最初に見つけたのは私とKちゃんでしたが、私たちが段ボールを開けると、次々に中庭にいた子たちが集まってきて、小さな騒ぎになりました。
それに気付いた先生が走ってきて、私たちから段ボールと子猫を取り上げてしまいました。
先生から教室に帰るように促されたところで丁度チャイムが鳴り、私たちは渋々教室に戻りました。
そのまま子猫たちは段ボールごとどこかに連れられて行きました。
その日の放課後、お昼の子猫のことを他の子たちは特に気にしていないようでしたが、第一発見者の私とKちゃんはたいそう気になってしまい、一緒に職員室を訪ねたのです。
誰に聞けばいいのかと職員室の中を見渡すと、ちょうど子猫を回収していった先生が目の前にやってきました。
黒縁の眼鏡をかけた女性で、髪を一つにまとめた地味な先生だったと記憶しています。
子猫のことを聞くと先生は優しい顔をして「飼ってくれる人に預けたよ」と言いました。
ホッとしながらも、飼い主ってそんなにすぐに見つかるのか?と、疑問を感じました。
私はその飼い主が誰なのか聞いたけど、先生はそこまでは教えてくれず「とにかく安全な人だから」となだめられ、職員室から出されました。
「・・・飼い主が見つかったなら、良かったよね?」
Kちゃんと二人、私たちは自分たちに言い聞かせるようにそう口にしました。
しかし、それから数日が経った頃でした。
学校帰りに中庭を通った時に、再びあの鳴き声が聞こえたのです。
にゃーにゃーとうるさい鳴き声を頼りに、Kちゃんと一緒に辺りを探すと、また花壇の同じ場所に段ボールを見つけたのです。
「何でまた!?」と、Kちゃんと顔を見合わせました。
それだけ不審なことでした。
また同じ場所に子猫を捨てるだなんて、絶対同じ人間だと思いました。
子猫を捨てた人間に憤りを感じながら、段ボールを開けようと怒りまかせに手を掛けると、開ける直前、それまでうるさいほどに聞こえていた鳴き声がピタッと止んだのです。
なんだか嫌な感じがしました。
さっきまでの怒りはどこかに消え去り、おそるおそる段ボールを開けてみると、私たちは大きな悲鳴を上げました。
Kちゃんはそのまま尻もちをついて腰を抜かしたようでした。
段ボールの中にはおびただしい量の血が飛び散っていて、力ない、痩せた子猫の死骸が3つ入っていました。
あまりにグロテスクな光景にショックを覚え、私たちはしばらく段ボールの前で呆然としたまま震えていました。
息を整え、二人で手を取り合ってなんとか立ち上がると、私たちは急いで先生を呼びに行きました。
でも、先生を連れて中庭に戻った時には、どこにも子猫の死骸はありませんでした。
段ボールごと、そこにあったはずの痕跡を一切残さずに、子猫の死骸は姿を消してしまったのです。
慌てて私たちは、連れてきた先生に先日も同じ場所で子猫を見つけたことを説明し、あの時の子猫はどこに行ったのか尋ねると、そんな事があったなんて先生たちは誰も知らないと言います。
そんなはずはないと、あの日、段ボールと一緒に子猫を預けた先生の特徴を説明すると、「そんな先生はいない」と、思いもしない答えが返ってきたのです。
そもそもこの学校に、眼鏡をかけた女性の先生などいないとまで言われました。
私たちはあの日、確かに学校の中庭で、段ボールに入れられ捨てられていた子猫を発見しました。
それは間違いありません。
私とKちゃんの他にも、そこに居合わせた複数の生徒が目撃しているし、その子たちも実際にガリガリに痩せた子猫を見たと言ってくれました。
ただ、その後の子猫の行方は誰にも分かりませんでした。
あの眼鏡の先生は一体誰だったのでしょう。
それが分からないまま、学校ではいつもの日常が流れていることが堪らなく怖かった記憶があります。
私たちは他の先生たちがいた職員室でも、あの眼鏡の先生と話をしているのです。
それなのに誰もそんな先生を知らないなんて、あまりに奇妙な話です。
血の飛び散った段ボールの中に転がった3匹の子猫の遺骸。
あのガリガリに痩せた子猫たちは最後、きっと残酷な形で命を奪われたのだと思います。
どういった経緯でそうなったのか、恐らく謎を知るのは、あの黒ぶち眼鏡をかけた女性だけなのだと思います。
それとも、もしかしたら2度目に遺骸となって現われた子猫たちは、助けを求めたのに助けてくれなかった私たちを恨めしく思って、化けて現われたのかもしれない・・・そんな風にも思ってしまうのです。
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