体験場所:東京都 某小学校
これは私が小学生の頃の話です。
本当に恥ずかしく情けない話なのですが、当時の私は、あるクラスメートの男の子(ここではK君とします)を数人でいじめておりました。
言い訳っぽくはなってしまいますが、叩いたり蹴ったりしていたのではなく、物をよく借りたり、カンチョーをしたり、小学生っぽい稚拙ないじめだったと思います。
僕らにいじめられている時のK君は、そこまで嫌がるような素振りも見せず、クラスの他の子たちもそれを見て笑っているだけで、誰もそれを止めたりする雰囲気ではありませんでした。
ある日のことです。
K君がパッタリと学校に来なくなってしまいました。
正直、当時の僕らにはその理由が分からず、なんだか急にやることがなくなってしまったな、ぐらいの感覚で、自分たちに非があるなどとは思いも付かなかったような気がします。
他のクラスメート達も「K君来ないねー」って、軽く受け止めるぐらいのものでした。
ところが、ある日の朝礼の最中、事態は急展開を迎えました。
来なくなったK君のお母さんが、急に教室の扉を開けて入ってきたのです。
それも、その手に包丁を持って…
嘘のような話と思われるかもしれませんが、本当のことです。今でも鮮明に覚えています。
突然ガラッと開いた扉の音、見覚えのない長い髪の女の人、その手になぜか握られている包丁。
そしてK君のお母さんは教壇に立ち、こう言いました。
「うちのKがこのクラスでいじめられたと教えてくれました。私は君たちを心の底から憎みました。決して許しません。私の大事なKをいじめた認識があるやつは今すぐ立ちなさい。」
クラス中、水を打ったようにしーんと静まり返り、誰も何も言えず、どうしたらいいのかも分からず、呼吸も出来ないような息苦しい時間が20秒ほど流れた時、
「ここにいるみんなは嘘つきが多いのかしら。こっちは名前を把握してるんだから、嘘をついてもしょうがないのよ。」
K君のお母さんはそう言って、クラス全体を睨みつけると、
「さあ、正直に立ってちょうだい!」
と大声を上げるのですが、それでも誰も立とうとはしませんでした。
すると、痺れを切らしたK君のお母さんは、
「今から前の端っこの席の子から1人ずつ質問していきます。内容は『あなたはうちのKをいじめていたか?』です。正直に答えてください。」
そうして、本当に1人ずつ尋問が始まりました。
最初は優等生のG君でした。
「あなたはうちのKをいじめていたか?」
K君のお母さんに見据えられ、そう尋ねられたG君は、
「そんなことしていません!」
と、泣きながら答えました。
その後も順番に質問は続き、みんな怯えながら答えていきます。
そうして僕と一緒にいじめをしていたT君の番が回ってきました。
「…あなたは、うちのKをいじめていたか?」
K君のお母さんの刺すような視線を浴びながら、そう問われたT君は大汗をかきながら、
「僕は、、いじめていました。」
と、観念したかのように答えました。
するとK君のお母さんは、
「正直でよろしい。ただ、素直だから許されるわけではない。廊下で待ってて。」
そう言った後、一度深く呼吸をしたK君のお母さんは、
「1人1人質問していたら時間がかかりすぎるわね。なので、もう一斉にみんなに質問します。うちのKをいじめていた自覚があるものは、立ちなさい。」
そう言うと、鬼気迫った母親の強いプレッシャーに耐えかねたのでしょう。いじめていたグループの私以外の子達は全員観念して立ち上がりました。
みんな怯えきっていて、泣いてる子も何人かいました。
私もそんな状況に精魂尽き果て、覚悟を決めて立ち上がりました。
すると、突然K君のお母さんがこう叫んだのです。
「お前はリストに入っていないから座れ!」
「…え?」
私は頭の中が真っ白になって、しばらく呆然としました。
自覚があったのに、K君のいじめリストに私は入っていなかったようなのです。
今考えればほんの少し笑えますが、当時は本当に怖い思いをし、いじめはもう絶対にしないと誓いました。
ちなみにK君のお母さんは、その後、駆けつけた先生達に捕まり、事件とはせず穏便に帰って頂いたようです。
ただ、その後、K君は転校してしまいました・・・
本当に自分が情けなく、後悔と反省ばかりが募る私の記憶です。
以上が私の怖くて怖くて凍り付いた話です。
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