体験場所:海外(インドネシア バリ島 レギャン)
サーフィンで初めて訪れて以来、バリ島に魅せられた私は、バリ島で結婚し、現在もバリ島で暮らしています。
そんな私が、旅人としてバリ島を行き来するようになった30年ちょっと前の体験談です。

当時OLだった私は、バリ島の魅力にはまって以来、年に2~3度は島を訪れていました。
その旅では、私を含めた女友達3人で、ウキウキ気分でバリ島に遊びに来ていました。
他の2人を仮にA子とB子とします。
その頃、まだまだのどかな雰囲気だったバリ島には、それこそ一般的な流しのタクシーなどもなく、昼間はレンタル自転車、夜は歩きか『ベモ』と呼ばれる乗り合いバスのようなものを移動手段として利用していました。
バリ島での朝といえば、薄くてカチカチに焼かれたトーストをかじり、沈殿しないと飲めないバリコーヒーを飲んで、その後は水着に着替えてビーチへ直行。
ランチにはビーチで安いローカルご飯を食べ、夜は近所のワルンと呼ばれる食堂でディナー、夜10時を過ぎる頃には繰り出せディスコが定番でした。
その日も当然のことながら、お気に入りの食堂で夕飯を済ませ、一番賑わっているクタエリアまで歩くこと15分。
まだ時間が早かったので、行きつけのバーでビールを飲み、人が集まる時間を待ってから、当時人気のディスコに行きました。
このディスコは1階にダンスフロアがあり、2階には1階を見下ろせるちょっとしたラウンジ席がありました。夜も更けてくる頃には、ローカルの友達が集まって、一緒にビールを飲みながら楽しく盛り上がっていました。
この日も日本人に限らず外国人も含めた大勢の客がいました。中でも毎晩出逢う日本人の男の子グループと一緒にわいわい盛り上がっていました。気が付くと、既にシンデレラタイムの24時を回っていて、一緒に来ていたA子の姿が見えなくなっていました。
私もさすがに眠くなったので、仲良くなった男の子と一緒に私が泊まるホテルに帰って来ました。
因みにホテルでの部屋割りは、かなり大きめなソファ付きのツインルームに私とA子の二人。B子は隣室のシングルルームという形でした。
そのツインルームの部屋に戻っても、A子の姿は見当たらず、おそらく他の男の子とどこかへ行ったのだろうと思いました。
私と一緒に帰ってきた男の子は泥酔してしまい、しぶしぶ私の部屋に泊めることになってしまいました。
さすがに私もビールをかなり飲んでいたので、A子の帰りを待たずにベッドに倒れ込みました。
どれだけ寝ていたのか、時間も定かではありません。
私は奇妙な気配にパッと目が覚めました。
すると、部屋のドアのところに黒い人影がぼんやりと見えたんです。

きっとA子が帰って来たんだと思って、「お帰り~」と声をかけました。
しかし、返事は返ってきません。
A子も酔っているのだろうと思い、私は気にすることなくまた眠りました。
その後、私は再び何かの気配を感じて目が覚めました。
目を開くと私の上に馬乗りになった大きな人影があります。

「ちょっと!だ…!?」
と声を上げる間もなく、その人影は私の上に覆いかぶさるように迫ってきました。
あまりの恐怖に再び目を閉じ、何かの見間違えだと願ってもう一度目を開けると、長い髪を垂らした女が手を伸ばして私の首を絞めようとしています。
何が何だか分からず、隣のベッドに眠る男の子の方に顔を向けると、そっちには大きな剣を振り上げた男が彼の上にまたがっていました。

私は声も出ませんでした。
ただただ今目の前に見える恐怖をかき消したくて、目を閉じたり開けたりしていました。
その間も、私の上では異様に長い髪の顔すら分からない女が迫ってきていて、その手がいよいよ私の首に掛かろうとした時、私はもうなりふり構わず必死にもがいて、なんとかベッドから起き上がることが出来たんです。
その瞬間、男女の黒い影が消えました。
慌てて電気を付け周囲を確認しました。
男の子は変わらず泥のように眠っています。
私は心臓がバクバクと波打ったまま、ただただ呆然と、さっきまで何かがいた虚空を見つめていました。
しばらくして帰って来たA子が、あまりにも怯えている私の姿を見て、
「あんたの方が怖かった」
後になって、そんなふうに言っていました。
酔い潰れていた男の子は全く何も気付かなかったそうです。
あまりの緊張のせいで、どのくらいの時間の出来事だったのかも定かではありません。短い間だったのかもしれませんし、あの時の張り詰めた空気感はとても長い時間だったようにも感じます。
あの人智が及ばない何かが、ゆっくりと迫りくる恐怖は、今でも忘れられないトラウマです。
翌朝、ホテルのスタッフに昨夜の一件を話したら、
「あぁ、見ちゃった?」
と平然と言われて私は驚きました。
どうやらこのホテルでは、珍しい現象ではない様子でした。
あれは何かとスタッフに詰め寄ったところ、以前あの部屋で、浮気現場に乗り込んだ旦那が相手の男を刺し殺し、自分の女房も首を絞めて殺したという事件があったそうです。
そんな惨劇があった部屋に普通に客を泊めるなよ、と思いつつ、部屋を変えてもらうよう交渉。
当然部屋は変えてもらえたし、更にグレードまでアップして貰うことに成功。
もちろん今の私ならホテル自体を変えると思いますが、やっぱり当時は私も若かったのかもしれませんね。
現在ではそのホテルは解体され、存在しません。
ですが、その跡地には、また新しいホテルが建てられています。
私はちょっと、近づきたくないです。
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