【怖い話】心霊実話|長編「人の重み」北海道の恐怖怪談

投稿者:ハスカップ さん(50代/男性/ライター/北海道在住)
体験場所:北海道T市の某工場
【怖い話】心霊実話|長編「人の重み」北海道の恐怖怪談

これは二十数年前、当時の私の転職先だった北海道T市の工場で体験した話です。

転職して勤め始めたその工場は、港の近郊にある工業団地の一角に位置しており、他の会社からは少し離れた場所にありました。
動物の飼料を製造する工場で、大手の会社の下請けの仕事をしている会社でした。

通常勤務は午前8時40分から午後5時30分。
月曜日から土曜日の週6勤務で、交代で交互に残業のあるシフトが組まれていました。
残業時間は午後5時30分から午後9時まで。
今思うとブラックな就業体制だったと思います。

使用期間中だった私は、まだその残業シフトから外れてはいましたが、正社員として採用される8月から残業シフトに組み込まれることになっていました。

私の配属されていた部署の仕事は、一言で言えば肉体労働の現場。
重量物を持ち上げ移動させたり積み上げたりする作業が勤務時間中、延々と続きます。

私が転職してきた頃、ほぼ同時期に入社した女性も同じ現場で働いていました。その現場では他にも女性の方が働いていたのですが、彼女たちの雇用面で問題はなかったのだろうかと思ってしまうくらい、男の私でもきつい肉体労働でした。

しかし、当時の私は「転職して1年目だし、まあ最初はこんなものだろう」と考えていたのです。

ですが、きつい肉体労働に体調を崩してしまったのでしょう。その女性は6月の中旬頃から仕事を休むことが増えてきたのです。更にそれから3週間後には、やはり別の女性が体調を崩して仕事を休むようになりました。

「シャッターを開けて換気はしているが、それで万全とは呼べないくらい空気は悪い。それに夏に向かって段々と現場も暑くなってきているから、体調を崩すのも無理はない。」

現場のリーダーは諦めたような顔でそう言っていました。

確かに男性でもきつい作業でしたし、私自身もその頃には日に日に疲れが身体に蓄積しているのを感じていました。

ですが7月に入ると、体調を崩していた女性たちも何とか回復してきたようで、休まず働きに来るようになっていました。

7月も半ばを迎える頃、清掃期間という1週間が始まりました。
月曜日から土曜日まで、日中の業務時間は全て工場内の清掃に費やされます。

私の所属していた部署には、飼料用のタンクが置いてある工場3階部分の清掃が割り当てられました。

その際、私は初めて工場の3階に上がったのですが、急勾配の階段は上り下りするだけで息が上がり、あちこちに蜘蛛の巣が張っている上に、場所によっては1cmほどの埃が積もっていたりと、その環境は普段の作業現場である1階より壮絶なものでした。

外は青空が広がっているにも関わらず、3階には僅かに光が差し込むくらいで、作業は常に蛍光灯を点けて続けられました。

清掃作業を始めて1時間ほどたった頃、私は何とも言えない脱力感に襲われました。

暑かったので「熱中症かな?」と思いましたが、少し休んでいたら急にスッと体が楽になり、私は再び作業に戻りました。

ですが、それから2時間ほど経った頃、私は再び脱力感に襲われ、それと同時に背中に妙な重みを感じたんです。
それは、人一人を背負わされたような重みで、私は思わずその場に座り込んでしまいました。

それでも少し休んでいると再び体は楽になったのですが、「重労働による過労で体調を崩しているのかもしれない…」と、私は自分の体に不安を感じました。

結局、清掃期間中の1週間、毎日ではありませんが数日はそのような状態、つまり人を背負っているような重みを感じながら作業に従事しました。

ですが、3階での清掃期間が終わる頃には、その症状も何時の間にか消え、また思い出すこともないまま7月は過ぎて行きました。

そして迎えた8月。
私はついに残業シフトに組み込まれ、週に三日、午後5時30分までの肉体労働の後、更に午後9時まで残業をするようになりました。

残業の作業内容は、3階に置いてある原料を混合させるタンク内の清掃です。

タンクは高さが数メートルあり、タンク上部から縄梯子を下ろしてタンクの内部に降り、内側に付着している原料のカスを取り除きます。

4~5人で数台のタンクを清掃するのですが、これがなかなかの重労働。
狭い、暑い、足場が悪いで、その内容は大変過酷なものでした。

劣悪な環境の3階で過酷なタンク清掃に辟易し始めた頃のことです。
休憩中に他の残業メンバーと話をしていると、ちょっと嫌な話を耳にしたんです。

「実は…この工場の3階、つまりこのフロアで、知らない女を見たって噂があるんだ…」

と一人の先輩社員が話し出しました。

「声を聞いたって奴もいるらしいぞ…」

と、他の誰かがそれに続きます。

その時、私の頭をよぎったのは、7月の清掃期間中に体験したことでした。

工場3階の掃除中に、背中に感じた人を背負ったような重み…

「まさかな・・・」

と思ったのですが、6月の中旬に女性二人が相次いで体調不良で休んだのも「もしかするとそれが原因…」などと関連させて考えてしまい、気味が悪くなった私は、極力、今聞いたことを考えないようにしました。

そして、残業4日目を迎える日のこと。
異変は日中、1階での作業中に起きたのです。

間もなく昼休みに差し掛かった午前11時50分頃。
私を呼ぶ女性の声が聞こえました。

はっきりと言葉が聞き取れたわけではないのですが、確かに女の人の声に呼ばれたんです。

直ぐに辺りを見渡しましたが、一緒に働いている女性の中に私を呼んでいるような素振りの人はいませんでした。みんな忙しそうに自分の作業に没頭しています。

そうしていると、またその声が聞こえたのです。

すると、今度は一緒に仕事をしている女性の一人が大きな声で「今の聞いた?」と言いました。

「やっぱり!」と思って私は彼女のそばへ行き、自分にも聞こえたことを伝えました。

ですが、他の人は誰も聞こえなかったらしく、みんな不思議そうな顔で私たちを見ていました。

しかし、私以外に一人でも同じ声を聞いた人がいる時点で、あれが空耳だったとはどうしても思えず、私は背筋に冷たい汗が流れるのを感じました。

そうして日中の作業を終え、その日も残業時間を迎え3階へ移動しました。

いつも通りタンクの上から縄梯子を降ろしタンク内部へ移動します。
タンクの内側に付着した原料のカスは、こすってもこすっても中々落ちず、汗まみれになって私は作業しました。

ようやく清掃を終わらせタンクの外へ出ると、私以外のメンバーはみな熟練した人たちばかりなので、すでに清掃を終え3階から1階へ移動したようでした。

私も急いで掃除道具をまとめ、1階へ向かおうと立ち上がった直後でした。

あの重み、人を背負っているような重みが背中にのしかかってきたのです。

思わず崩れ落ちそうになる膝に、グッと力を込め、腰から上を前のめりにして首を突き出すような態勢で何とか堪えました。

すると、その突き出た私の首を、後ろから何か紐のようなもので締め付けられる感覚に襲われました。

しかもその力は段々と強くなり、声を出したくても「え゛え゛え゛…」という嗚咽しか出ません。

次第に息が苦しくなり、背中の重みにも耐え切れず、私はそのままうつ伏せで床に倒れてしまいました。

胸が床に当たる瞬間、私の首筋に誰かの髪の毛が触れる感触が伝わってきました。
それが私の髪の毛ではないことは明らかです。

その揺れる髪の毛は首の裏をスッスッと払いながら、やがて私の頬まで垂れさがって来たかと思うと、背中に氷のような冷たさが伝わってきたんです

後頭部には人の頭が触れているような感覚があります。

一体私の後ろに何がいるのか…もう気が気でいられなくなった私は、力任せに振り返りました。

すると私の視界に映ったものは、長い髪を垂らした顔でした。

その顔には、目や鼻や口、それらのパーツが何一つありませんでした。
顔一面が何もないただの皮膚だったんです…

そして私は多分、気を失いました。

「…○○君!○○君!」

どのくらいの間気を失っていたのか、数分か、あるいは数十分か、心配して3階に上ってきてくれた先輩の呼び声で私は目を覚ましました。

掃除用具を撒き散らし、その横でうつ伏せに倒れている自分。

しばらくの間、一体何が起きたのか思い出せなかった私は、首に残る違和感を確認するように手で触れると、同僚の一人が鏡を差し出してくれました。

私の首には、締められたような跡と、長い黒髪が数本汗で貼り付いていました。

同僚たちは皆、唖然とした表情でそこに立ち尽くしていました。

私も徐々にさっきの記憶を思い出しながら、呆然と鏡を眺めていたと思います。

突然覆いかぶさってきた重み、息苦しさと首を撫でる毛の感触、背中に感じた氷のように冷たい気配…
そして視界に入った何もない顔…

その日、私は誰にも何も語らず、家路に付きました。

それからしばらく仕事を休み、そのまま工場の誰にも会うことなく私は退職しました。

その後あの工場で、私のことがどう噂されたのかは知りません。

ですが関係ありません。
あの工場にまつわる何とも関わりたくありませんし、何も知りたくありません。

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