
体験場所:北海道S市 某保育園
これは、私が以前に勤めていた保育園での話です。
2歳児のクラスの担任をしていた時、子どもたちがよく「今日はまさこちゃんと遊んだの」「まさこちゃんって髪の毛が長くてみつあみなんだよ」と話していました。
けれど、クラスに『まさこちゃん』という名前の子はいません。
なので、私は子供たちの話を不思議に思って聞いていましたが、まだ小さな子どもたちですし、きっとアニメとかの話なのだろうと特に気にかけてはいませんでした。
2歳児とはいえクラスの子供たちはみんな個性があり、やんちゃな子、おとなしい子、しっかり者、話を聞いて行動するのはまだ難しい子など、様々な子がいます。
中でもしっかり者のあーくんが、ある日、お迎えに来たお母さんと一緒に帰る時の事でした。
お母さんと手をつないだあーくんが、帰り際に私の方へ向かって歩いてきました。きっと帰りの挨拶をしてくれるのだろうと、私も手を振る用意をしていました。
すると案の定、「ばいばーい。」と手を振ってくれるあーくん。
私も手を振り返そうとした瞬間、少しおかしなことに気が付きました。
あーくんの視線は私の肩口の辺りを見ているようで、微妙に目が合わないのです。
おかしいなと違和感を覚えつつも、「また明日ね。」と手を振り返すと、あーくんの視線がフッと私の方を向いて、「あっ!先生もバイバーイ!」と、今度はしっかり目を合わせて言ってくれたのです。
とたんにゾクっと寒気がしました。
あーくんのお母さんと私は心配そうな目を互いに向け合います。
するとお母さんがあーくんに聞きました。
「先生『も』って、どういうこと?」
するとあーくんは言いました。
「え?最初はまさこちゃんにいったんだよ?」
私の周囲には誰もいません。
それに何度も言いますが、クラスに『まさこちゃん』という子もいません。
凍り付く私とあーくんのお母さん。
恐る恐る、あーくんにもう一度聞きました。
「まさこちゃん、って、どこにいる?」
「え?先生おんぶしてるでしょ?」
私がこのクラスの担任になってからの出来事を思い出していました。
私も、私と一緒にこのクラスを担任しているもう一人の先生も、そのころ不運が続いていました。
携帯が壊れたり、捻挫をしたり、季節外れのインフルエンザにかかったり、仕事を押し付けられ連日サービス残業だったり…など。
一つ一つは大きな不幸ではないかもしれませんが、それらは全て園内で起こったことです。
私は怖くて不安で、園長先生にこの一連の話をしてみました。
すると、園長先生が言うには、実はこの保育園が建っている場所は、以前には明治時代にこの地を開墾した人のお墓があったそうなのです。
それが原因かどうかは分かりませんが、念のため、と、園長先生の知り合いの神主さんにお願いして、お祓いをしてもらいました。
そのおかげなのか、それ以来、私たちが以前のように不運を感じるような出来事はなくなりました。
でも子どもたちの間では、依然として「まさこちゃん、いつも遅れてくるね。」「まさこちゃん、走るの早いんだよ。」と、まさこちゃんという子の話題は続きました。
ただ、それからしばらくして、あーくんが教えてくれたんです。
「先生、まさこちゃんさ、前まで怒ってたけど、今はうれしそうなんだよ。」
怨念が晴れたのかな…と、保育士同士で話していましたが、真実は分かりません。
その子たちが進級すると「まさこちゃん、いなくなっちゃったね」と話しており、『まさこちゃん』という子が現れるのは2歳児の教室だけのようだと察しました。
ちなみに、その後、私はその職場を退職し、あれから10年以上が経ちますが、かつての同僚の知らせによると、未だに保育園の2歳児のクラスには『まさこちゃん』がいるそうです。
しかし、最近では2歳児のクラス担任になった先生が、結婚したり、子宝に恵まれたりと、幸運が続いたようで、今は幸せのまさこちゃんと呼ばれているそうです。
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