【怖い話】心霊実話|短編「国道の老婆」沖縄県の恐怖怪談

投稿者:まつのみ さん(40代/女性/会社員/東京都在住)
体験場所:沖縄県那覇市
【怖い話】心霊実話|短編「国道の老婆」沖縄県の恐怖怪談

もう20年近く前の話になります。

当時、日本を旅しながらフラフラと生活していた私は、その頃は沖縄に身を寄せていました。

その日は肌がべたべたするようなじっとりと蒸し暑い夜でした。

私は沖縄で仲良くなった友人と、国道58号線沿いにある建物の前で話をしていました。

友人は車で来ていましたが、エアコンを点けっ放しにするのももったいないので、だったら少しでも涼しい外に出て話をしていたのです。

他愛もない話をしているうちに、時刻はもう深夜2時頃になっていたと思います。

そんな時間でも沖縄で一番大きな道路である国道58号線、通称ゴーパチにはたくさんの車が走っていました。周囲も街灯で明るく照らされ、危ない雰囲気を感じることは全くありませんでした。

しばらく会話を続けていると、時おり友人が私の肩越しにチラチラと何かを見つけたように後ろを覗いていることに気が付きました。

おかしいなとは思いましたが、それでも変わらず友人との会話は弾んでいたので、私は振り返って確認することもありませんでした。

ですがその内、明らかに友人の表情が曇ってきたことが分かり、そこで初めて私も後ろを振り返りました。

視線の先には、私たちの方に向かって近付いて来る腰をかがめた老婆の姿がありました。
ボサボサの白髪頭で、身なりはお世辞にも綺麗と呼べるものではありませんでした。

腰をかがめているので顔ははっきりとは見ることが出来ません。

ただ、広い歩道を老婆が歩いているだけなのに、何故だかそれが私たちに向かって来ていることだけは確信できたんです。

繰り返しになりますが、夜中にも関わらずゴーパチは車通りも非常に多い上、辺りは街灯に照らされ明るく、だからこそ私たちは危険を感じることもなく楽しく話していられたのです。

それなのに、老婆が目に入った途端、周囲の雰囲気がガラリと一片しました。

具体的に何がと言う訳ではないのですが、突然鳥肌が立つような妙な緊張感が走り、私も友人も言葉を失ったまま動くことも出来ず、ただただ老婆が近付いて来るのを黙って見ているしかありませんでした。

得体の知れないものを私は見ているんだ、という実感が何故だか自分の中で沸々と沸き上がり、今まで経験したことのない恐怖を感じました。

その間も老婆はゆっくりとこちらに向かって近付いてきます。

そして遂に友人の前まで来ると、かがめていた腰をグッと伸ばしました。

「な、なんですか?!」

友人は慌てて後ずさりしました。

老婆は腰をまっすぐ伸ばしたまま更に友人に歩み寄り、グッと顔を近付けました。

その様子を隣で見ていた私は、その異様な迫力に圧倒され全く身動きが取れませんでした。

そのままどのくらい時間が経ったのでしょう。
恐らく数秒のことなのでしょうが、老婆と友人が目を合わせている時間が私には途方もなく長く感じました。

すると突然、老婆は友人の目をしっかり見据えたまま言いました。

「みつけた…」

すると友人はサーッと顔を青くして、

「なんのことですか?!わかりません!誰かと勘違いしていないですか?」

と慌てて何べんも繰り返し言いました。

すると突然、老婆はぐるっと振り返り、今度は私の方を向いたのです。

なんとも不気味な目でした。
色の濁った不確かな視線で、緑のような青のようなグレーのような…
怖くて目を逸らしたいのに、怖いから逸らせないというか…

老婆はその目で私を見据えたまま、グッと距離を詰めてきたかと思うと、

「ごめん、違った…」

そう言って、老婆はぐるりと後ろを振り返りゆっくりと去って行ったのです。

(えッ…?)

と、驚きと安堵の気持ちに戸惑いながら、私はしばらくその後ろ姿を見つめていました。

一体何だったのか分かりませんが、老婆から視線を外し一息付けた私は、ようやく友人に声を掛けることが出来ました。

「変な人に会っちゃったね…」

友人は離れていく老婆からまだ目が離せないようでした。

すると、友人は片手で口を塞ぎ、「見て…」と老婆の方を指差しました。

私は再び老婆の方を振り向き、そこに見た光景に絶句しました。

再び腰をかがめた老婆の後ろ姿。その両手は頭の高さまで振り上げられ、それを左右に振りながら走り去って行ったのです。

その滑稽な姿が逆に不気味で気味が悪く、私は思わず目を逸らしました。

その時、友人が放った一言に、私の背筋は再び凍り付きました。

「見た?足がなかったよ…」

私はもう一度振り返ることが出来ませんでした。

その日は宿に戻らず友人の家に寄せてもらい、翌朝二人でお祓いを受けにいきました。

今でも何かに付けあの老婆の姿を思い出し、夜な夜な恐怖を感じています。

一体あの老婆は何だったのでしょう…

「ごめん、違った…」

老婆が何を探していたのか知りませんが、何にせよ人違いで良かったと心から思います。

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