体験場所:山梨県 某道の駅
今から10年程前の話です。
当時は車中泊旅行にはまっていて、その時も夫と一緒に気楽な二人旅を満喫していました。
旅の終わり、道の空いている真夜中に車を走らせ始め、旅先から自宅へ帰還している最中のことでした。
道すがら私たちは二人してトイレへ行きたくなり、近くにあった道の駅へ寄ることにしたのです。時間は深夜の2時か3時頃だったと思います。
山梨県にあるその道の駅は、新〇〇トンネル近くにあり、周囲は森に囲まれたような場所で、加えて時間も時間だっただけに当然売店なども閉まっていて、随分と真っ暗な印象を受けました。
まばらに車が止まっている駐車場に私たちも車を入れ、夫と二人して小走りでトイレに向かいました。
土産屋などが入る母屋から少し離れたところに、単体でそのトイレの建物がありました。
深夜でもしっかり照明が点いているようで、建物内部から煌々と光が洩れて明るいのは分かるのですが、私には(なんとなくどんよりとした雰囲気だなあ…)と感じられ、正直入るのをためらいました。
しかし、家まではまだしばらくかかりますし、この後どこでトイレがあるかも分かりません。やっぱりここで済ませる他なく、私は意を決して夫と別れ、それぞれのトイレに入って行きました。
建物内はとても清潔に保たれていて、ふと天井を見ると、男性トイレとの境の壁が少し開いており、夫のいる空間と繋がっていることに多少の安心感を覚えました。
ただ、建物の中に入って真っ先に1つ(嫌だな…)と思ったことがありました。
壁が全面ガラス張りになっているのです。
しかも建物自体が円柱のような形になっているため、一面合わせ鏡のような状態になっていました。
想像を超える思い掛けない造りに怖気付いてしまいましたが、私はとにかくさっさと用を済ませようと奥に進みました。
先にはずらりとトイレの個室が並んでいて、そのどの扉も開いており、私以外誰もいないのが一目で分かります。
心細い気持ちのまま用を足している間も、正直、情けないほど緊張していたせいか自分の呼吸する音すら大きく聞こえていました。
その間もトイレには誰も入ってくることなく、最後に水を流す音がやたらと大きく感じ不安を掻き立てられました。
そそくさと手を洗い、足早に外に出ると、既に夫がそこで待っていました。
小走りで夫の元に走り寄ると、開口一番に彼が言いました。
「一人じゃなくてよかったね」
「…え?」
「だって入る前から怖がっていたけど、誰かが一緒だったから少しは安心したんじゃない?」
夫が何を言っているのか分からず、私は首を傾げました。
だってトイレには私しかいなかったはずです。
微妙な顔をしていた私に夫が気付き、更に言います。
「だから、俺らがトイレに入ってすぐ、別の誰かが女子トイレに入って行くヒールの音が聞こえたよ。そのあとトイレの扉が閉まる音もしてたじゃない」
ゾッと、血の気が引きました。
何度も申しますが、私が入った時、トイレには誰もいなかったのです。
それどころか、用を足している間も、それが終わって夫と合流するまでの間も、足音はもちろん扉の閉まる音なんて一切しませんでした。
引きつった私の表情から夫が何かを察したのか、それ以上は何も言わず「車に戻ろう」とだけ言いました。
私は夫に手を引かれ、無言のまま車に乗り込み、そのまま自宅へとまた車を走らせました。
数時間後、家には無事到着できました。
後日、夫がその道の駅をネットで調べたところ、一時期そのトイレには献花らしきものや人形が供えられていたことがあったそうです。
それがイタズラだったのか、それともそうではないのか、今も分かりません。
ただ、あれ以来一度もあのトイレには、それどころかあの道の駅にも近付くことはありません。
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