
体験場所:栃木県那須塩原市
当時私は11歳でした。
祖父のお通夜が終わって一度自宅に戻り、父の実家(祖父の家)に泊まるための支度をしていました。
自宅には親戚一家も一緒に付いて来てくれたのですが、その子供は私と同い年の女の子で(仮にAちゃんとします)、人が亡くなるという体験が初めてだったせいか、一人ではトイレにも行けないほど怖がっていました。
私たちが泊りの用意をしている間、そのAちゃんが私の家の中を大きい声を出しながら探索していました。
しばらくして、私や私の兄弟も用意が終わってリビングに集まると、Aちゃんだけ姿が見えません。
「あれ?Aちゃんは?」とみんなで家の中を捜索すると、家の奥の物置部屋のドアが開いていました。
「Aちゃん、いるの?」と開けっ放しのドアの中を覗くと、物置部屋の奥にある擦りガラスの窓を、ジーっと見ながら立っているAちゃんがいました。
ホッとしてAちゃんのお母さんやお父さんが声を掛けたのですが、Aちゃんは全く返事もせず、顔も真顔のまま硬直したように変化がありません。完全に無の状態でした。
みんなで「Aちゃん!Aちゃん!」と何度も呼び掛けていると、いきなり「きゃー!!」とAちゃんが叫び声を上げました。物騒で恐ろし気な、みんながその場で凍り付いてしまう甲高い悲鳴。
そして途端に泣き出すAちゃん。
何が起きているのか分からず、慌ててAちゃんのお父さんが抱えるようにしてリビングに戻ってくると、正気に戻ったのか、ようやくAちゃんが落ち着いてくれました。
「Aちゃん、なにがあったの?」
そう聞かれてAちゃんはしばらく黙っていましたが、少ししてボソッと言いました。
「窓に知らないお婆ちゃんの顔があった」
その言葉にみんなは「え?」っという戸惑いの反応を見せたのですが、実は、私もそのお婆ちゃんを見ていました。(正確にはお婆ちゃんっていうほど、お歳を召していないように見えましたが)
物置部屋の中で立ち尽くすAちゃんを見つけた時、その視線の先を追いかけると、見てしまったのです。Aちゃんが話す通り、擦りガラス越しに浮かぶ女性の顔を、はっきりと。
ただ、それを誰にも言えないまま、気付くと私もAちゃんの言うことに対して、みんなと同じ驚きと戸惑いのポーズを見せていました。
Aちゃんの言う知らないお婆ちゃんの顔、私が最初に見て思ったのは、擦りガラス越しにある顔が、なぜこんなにハッキリ見えるのだろうということ。でも後で考えれば、多分女性の顔は窓の外ではなく、中にいたのだと思います。
それは確かに不気味な光景でしたが、なぜか私はそこまで恐怖を感じることもなく、むしろ全く動かなくなっているAちゃんに、危うい恐怖を感じて目が離せなくなっていました。(きっと怖すぎて動けなかっただけだと今は分かりますが。)
リビングでの話に戻りますが、Aちゃんの話を聞いてみんなしばらく呆気に取られていましたが、少しして私の父がハッとした様子で「きっと爺ちゃんを迎えに来たご先祖様かもしれないね。Aちゃんの見たお婆ちゃんの特徴は何か分かる?」と聞きました。
「ん~と~、お婆ちゃんって言ったけど、もしかしたら40代か50代くらいかもしれない」とAちゃんが答え、私もそう思いました。
すると私の両親が「あ~じゃあTちゃんかもしれない!」と納得したような顔で言うのです。
両親の話によると、Tちゃんとは亡くなった祖父の妹で、ちょうどそのくらいの年齢で癌を患い亡くなってしまったそうなのです。
ただ、私の両親にしてみれば、本当にそう思ったというより、おそらくAちゃんの見間違いだろうと考えたかと思います。でも、まずはAちゃんを怖がらせないように配慮したのでしょう。
ただ、私は物置で見たあの女性を、多分間違いなく両親が言う通りTちゃんだと悟りました。
なぜならあの時、私の横を、フワフワとした白い魂が2つ通り過ぎて行ったから。
両親が言う通り、多分Tちゃんは爺ちゃんを迎えに来て、再び旅立つ前に、二人でみんなの様子を見て行ったのかもしれません。
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