体験場所:広島県広島市安芸区
私の姉はいわゆる霊感体質らしく、実際に人ではない怪しげなものを視たり、時には身近な人に起ころうとしている危険を予知したりします。
それが日常生活に支障をきたすことはほとんどないと言うのですが、もしかしたら、家族に悪影響を及ぼしているかもしれないと心配になった出来事があったそうです。
姉の子供たちが小学生と中学生だった頃のこと。
働き盛りだった姉の夫は、毎日早朝から深夜まで忙しい日々を送っていたそうです。
疲れがしっかり取れないまま出勤する夫を心配しながらも、家事と育児、それに子供たちの部活や塾の送迎など、家の仕事を一手に担っていた姉も、やはり疲れていました。
ある夜、激務の中、いつもより少し早く帰宅できた夫に、久しぶりに好物のおでんを出していた姉は、その日の夫の疲れ具合に何か違和感を持ったそうです。
「今日は、何か大変な業務でもあったの?」
と、姉が心配してそう尋ねると、
「違うよ。大変だった業務が今日でひと段落したんだよ。だから早めに帰れたし、健康のために少し遠回りして歩く距離を伸ばして帰宅したんだ。」
と、笑顔で答える夫。
でも姉は、その夫の疲れた笑顔に何か引っかかりを覚えたままだったと言います。
夕食を終え、洗い物を片付け、家族全員の入浴を済ませた頃、トコトコと上の子がやって来て姉にこう言ったそうです。
「ねえ、玄関いつもより暗いんだけど」
え?照明は点いたままのはずだし、どうしたのかな?と、姉は不思議に思いながら玄関へ向かいました。
たぶん電球が切れかかっているのだろうと、そんなことを考えながら玄関先を覗いた時、姉はギョッとしました。
玄関のたたき台の上に、正座してうつむいている男性がいたそうです。
明らかに現実の人間ではない!と即座に感じた姉は、先ほど夫に感じた違和感を思い出し、すぐにリビングに戻って尋ねました。
「ねえ、今日の帰りって、どこを通ってきたの?」
え?と一瞬戸惑いながらも夫は答えました。
「いつものバス停から〇〇公園を周って、△△のT字路を通ってきたけど…」
(そう言えば…)と、夫の返答を聞いた姉はあることを思い出し納得したのだそうです。
その日の昼間、夫が通ったT字路の交差点で交通事故が発生し、男性が一人亡くなったと聞いていました。
夫の帰宅時には既に事故処理は終わっており、ニュースを見ていない夫には、昼間そこで事故が起きた事など分からない状況だったのだろうと。
日頃から疲れがたまり、気分も体力も落ちていた夫が、そこで予期せず持ち帰ってしまったのだと姉は悟ったのだそうです。
とは言え、姉に除霊などの能力はありませんから、とにかく『私たち家族には何もできませんから、ここから出て行ってください』と、繰り返し念じるしかできなかったそうです。
それでも数日の間、その男性の霊は玄関に留まり、ただずっとそこに座り続けていたそうです。
姉が言うには、玄関に神棚を置いていたおかげで、男性はそれ以上家の中には入れなかったのだろうと言っていました。
因みに上の子も少しだけ敏感な体質だったようで、
「まだいるよ」
と怖がりながら、男性をよけて玄関を出る日々が続いたそうです。
実際に事故があった現場には、数日の間、毎日たくさんの花が供え続けられていたそうですが、それがなくなる頃、ようやく男性の影も少しずつ薄くなっていったそうです。
影が完全に消えた時、初めて安心して玄関を通れるようになったと、上の子もホッとして喜んだとか。
それからというもの、夫にはお清めの塩を持たせ、たまには帰りにマッサージでも受けて少しでも疲れを軽減するように勧め、弱っている時には絶対に普段と違う道は使わないことを約束させたそうです。
ようやくくつろげる自宅に帰り着いた時、玄関先に異界の何かがいるなんて、想像するだけで帰る気が失せます。
そんな中で日常生活を続けた姉家族は、心からすごいと思います。
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