体験場所:兵庫県K市O町の住宅街
私が社会人になった頃、中学の頃の同級生Aと近所の道端で偶然再会しました。
「久しぶり!」と明るく声をかけたのですが、彼女はどことなく暗い表情をしています。
会わない間に何かあったのかと思い尋ねてみましたが、彼女は黙ったまま。
「こんなところで立ち話もなんだから、とりあえず私の家に来ない?」
と、半ば強引に彼女を引っ張り家に向かいました。
私の家は兵庫県K市のO町という住宅街にあります。
築数十年の古い民家が立ち並び、最近でこそ多少は新築の家が増えたものの、その街並みはいたってレトロなものです。
そんな街並みを横目に家に向かって歩いていると、Aがとある民家の前で急に立ち止まったのです。私の認識では、そこは誰も住んでいない空き家のはずなのですが…
「ここ、怖い…」
Aはそう言って、その家から目を背けるようにしたまま足が止まってしまいました。
やっぱり何かAの様子がおかしいと思いながら、
「どうしたの?何もないよ。」
と言って、そのまま彼女の手を引きながら家に向かいました。
私の家に着くと、彼女はさっきまでの表情が嘘だったように明るくなりました。
楽しそうに好きなアニメや最近できた好きな人の話をする彼女。
その態度の豹変ぶりに驚いていると、彼女がこんな話を始めました。
「最近なんかおかしくて。気持ちが急に沈んだり、それが急に晴れたり。ちょっと気分が不安定になってるんだ。」
それは彼女の様子からも見て取れます。
「そっか、そういう時ってあるよね。」
私はそう言って、出来るだけ明るく微笑みました。
Aが帰った後、私の母が帰宅しました。
「あら、Aちゃん来てたの?久しぶりねw」
今日のことを話すと、母は笑顔でそう答えました。
そんな母に、私はさっきAが怖いと言っていた近所のあの家のことを聞いてみたんです。
「ああ、あの家ね…」
と、母はちょっと困った顔をしながら、こんなことを話してくれました。
以前はあの家には5人家族が住んでいたそうです。
それが、十年程前に大黒柱だった祖父が他界した後、家族の姿を見かけることも減ったと言います。
「それまでは毎日のように庭で子供さんやお母さんの姿を見かけていたのよ。つい数年前までお母さんの姿は見かけた気がするけど、最近では全く見ないのよね。」
それを聞いて私は、
「え?あの家って子供いたの?っていうか人が住んでいたの?」
既にこの地域で20年近く暮らしていましたが、あの家に人の姿を見た記憶が私にはありませんでした。
母からそんな話を聞いてからと言うもの、私は通勤であの家の前を通る度に、気になって自然に目が行くようになりました。
ですが、夜になっても電気一つ点きませんし、昼間もカーテンは閉まったまま。
家はまるで廃墟のように、人が住んでいる気配は一切感じられませんでした。
ただ、なぜか庭だけは綺麗にされている印象があり、その片隅にはトマトやきゅうりなどの野菜が植えられていて、それが順調に育っているのです。
その野菜を手入れする家人の姿は一切見かけたことがないのに…
(もしかしたら、今も誰か住んでいるのかな…)
と、なんだか私までその家のことを気味悪く思い、それでAに電話をかけて聞いてみたんです。
「ねえ、あの時Aが怖いって言った家なんだけど…」
息を飲むようにしてそうAに聞いてみると、
「ああ、あれね。あの家って・・・何かあったの?」
逆にそう聞き返されたので、母から聞いた話や、ここ最近あの家を見ていて感じた印象を伝えると、Aはこう言ったんです。
「・・・やっぱり」
Aは、私の家に来たあの日以来、体調を崩してしまったらしく、それで会社の同僚に相談していたそうなのです。
どうやらその同僚というのが、いわゆる「視える」人らしく、あの家のことをこう言ったそうなのです。
「その家の人って、大黒柱に当たる人が亡くなった後に一家心中したみたいだね。家にその家族の霊が憑いているみたい。多分、祓った方が良いと思うよ。」
一家全員が亡くなり今では誰も住まない家…
でも、だったらなぜ庭先は綺麗にされていて、その片隅には野菜が植えられ、しかもそれが育っているのか?
まさか、家族の霊が野菜を手入れしているのでしょうか?
正直、幽霊がどうこういう話は分かりませんが、実際に、未だに野菜は育っていて、気味悪く思いながらも、私は今もあの家の前を通って通勤しています。
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