体験場所:秋田県A市 某病院
これは、私の友人のA子さんが体験した話です。
当時、A子さんは秋田にある大きな病院で看護師として働いていました。
かなり古い病院だったらしく、建物も随分と痛んでいたため、その頃には場所を移転して建て直すことが決まっていたそうです。
そのため、旧病棟から沢山の荷物を移転先の病棟へ移す必要がありました。
当時、彼女が勤めていた小児科病棟には、患者の子供たちが遊ぶためのおもちゃや絵本、ぬいぐるみなどが沢山ありました。
病院の移転に伴いそれらを整理することとなり、比較的きれいなものは新しい病棟に運ぶことにしたのですが、それ以外の汚れているものや、子供たちに人気がないようなものは全て処分することにしたのだそうです。
処分品は全て1つのボックスにまとめて入れておいたのですが、処分までの間、もし職員の中に欲しい人がいたら好きに持って帰っていいことになったそうです。
そこでA子さんもボックスの中を探してみると、一匹の可愛らしいウサギのぬいぐるみを見つけ、それを家に連れて帰ったのです。
彼女には当時5歳の娘さんがいました。
娘さんは、A子さんが持ち帰ったウサギのぬいぐるみを喜んでかわいがり、寝る時まで一緒だったそうです。
その頃からでした。
A子さんの家でおかしなことが起こるようになったのは。
最初の異変はリビングの電気でした。
しきりに蛍光灯が切れるのだそうです。
誰もスイッチには触れていないのに突然電気が消え、調べるとどうやら蛍光灯が切れたようだったので、直ぐに新しいものに取り替えるのですが、翌日にはまたバチバチッと切れ、それが何度も続くのだそうです。
しかし、あくまでA子さんは、それを偶然が続いただけのことと思っていたそうなのですが、次に起こったことが彼女にある確信を与えました。
それは、5歳の娘が寝ている時に発する寝言でした。
病院から持ち帰ったウサギのぬいぐるみと寝ている時に限って、娘さんは必ずうなされ、「ごめんなさい!お母さん!」と、寝言で叫ぶそうなのです。
しかも、その声はいつもの娘さんの声じゃないようだったと。
娘さんは、普段はA子さんのことを「ママ」と呼ぶはずなのですが、寝言の時に限っては「お母さん」と呼ぶそうなのです。
「その声は明らかに母親のことを恐れているようだった・・・」
とA子さんは言います。
ただ、翌朝目を覚ました娘さんは、昨夜どんな夢にうなされていたのかも、自分の寝言のことも何も覚えていないそうなのです。
しかし、娘さんのこの奇妙な寝言を切欠に、A子さんは最近起こっている不思議な現象の原因が、全て病院から持ち帰った『ウサギのぬいぐるみ』にあると確信しました。
翌日、A子さんはすぐに病院の処分品ボックスにウサギのぬいぐるみを戻しました。
すると、その光景を見ていた看護師長さんが慌てた様子で近付いて来るので、信じてもらえないだろうけどと、A子さんはおずおずとこれまでの経緯を話すと、
「やっぱり…」
と、眉間に少し皺を寄せ、心苦しそうに師長さんは話し始めました。
「そのぬいぐるみはね、母親からの虐待で入院していた女の子が持っていたぬいぐるみだったんだよ。お母さんが買ってくれたんだ!って自慢して、大事そうに持っていたから、それが何だか健気で忘れられなくて…」
そう語ってくれた師長の話には、更に悲しい続きがありました。
女の子が退院後も、結局、虐待は繰り返されていたようで、その女の子は入退院を繰り返しながら、わずか6歳の時に亡くなってしまったのだそうです。
同じくらいの年齢の娘を持つ母親として、A子さんはその女の子に心から同情しました。
ボックスの中から再びウサギのぬいぐるみを持ち出すと、このまま処分してしまっては女の子が成仏できないと考え、A子さんは師長に相談し、一緒にお寺でお焚き上げをしてもらうことにしたのです。
お焚き上げの前に、住職にこれまでの事情を説明すると、やはりそのぬいぐるみには女の子の念が詰まっていると言われ、胸が張り裂けそうだったとA子さんは言います。同世代の娘を育てる彼女だからこそ、余計に心苦しかったんだろうと思います。
その後、A子さんの家で不可解な現象が起こることはなくなりました。
娘さんも、何事もなく元気に成長しているそうです。
とは言え、A子さんにとってその経験は、どうしても忘れないものとなったようです。
小児科病棟に勤めていると、時に歪な親子関係を目の当たりにすることがあるとA子さんは言います。
それがどうしてもA子さんの体験した出来事とリンクしてしまうのだと…
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