体験場所:熊本県K市の某ホテル
私がその体験をしたのは約5年前。
九州の熊本・大分を旅行した際のことでした。
当時私には、妻と二人の小さな子供がおりました。
子供たちが4歳と2歳になったので、そろそろ少し遠くても行けるかなと、初めて子供二人を連れて旅行に行ったのです。

旅行1日目は、大分県別府市で温泉を堪能し、高級温泉旅館に宿泊、風呂に入って美味しい海産物に舌鼓を打ち、かなり奮発しました。そのため2日目は少し予算を抑え、熊本に移動して観光を楽しんだ後は、安いビジネスホテルに宿泊する予定でした。
迎えた2日目。熊本に移動し、K市の中心部にある有名なアーケード商店街を楽しみ、その日は予定通り、その商店街の一角にあるビジネスホテルに宿泊することにしました。

ホテルが建つのはK市の中心部にある商店街。とはいえ、私の地元・広島市の繁華街に比べると人通りは少なく、夜になるとホテルの周囲からは騒ぎ声や車の騒音なども消え去り、「このホテル、安いけど当たりじゃない?」と、妻と共に満足していました。
部屋にはダブルベッドとテレビが置いてあるだけでしたが、民法放送の他、BSも映り、運よくJリーグ中継も見られて、スポーツ観戦が好きな私にとっては暇を持て余すこともありませんでした。もともと期待していなかっただけに、とても良いホテルに感じました。
家族みんなシャワーだけの入浴を済ませ、旅行中かなり歩き疲れていたこともあり、その日は22時前に家族みんな就寝したと思います。疲れのせいか、かなり深い眠りに就いた感覚がありました。

ですが、その深夜…
室内が乾燥していたせいか、私は夜中に目が覚めてしまいました。
のどの渇きを潤そうと、枕元に置いたペットボトルの紅茶に手を伸ばしました。
すると、部屋の入り口ドアの外、廊下のずっと向こうの方から足音が聞こえてくることに気が付きました。
ドアは決して分厚いとはいえず、床との間には少し隙間があり、そこから廊下の明かりが漏れてくるくらいの粗い造りだったので、(廊下を歩く足音も聞こえるのか…)と思いました。

足音は、フロアの廊下の一番奥から、ゆっくりゆっくりこちらに向かって歩いてきます。その感じが何だか不気味で、しかも落ち着いた歩調なのに、なぜかその足音はハッキリと聞こえてきます。理由もなく、若い女性の足音のように感じました。

段々と、足音は確実に私たちの宿泊する部屋に近づいてきます。
私は言い知れぬ不安を抱き、とにかく何事もなく足音が部屋の前を通り過ぎてくれることを祈りました。
でも、ゆっくりと近付いてきた足音は、私たちの部屋の前でピタリと止まってしまったのです。

(あ、これはやばいやつだ!)
そう確信した私は、しばらくドアを凝視していました。
…そのまま、何分経過したか分かりません。
足音は全く動く気配がなく、間違いなくまだドアの前にいると思いました。
(どこか行け!)
何度も念じましたが、一向に気配は去りません。
布団にくるまったまま緊張と恐怖に耐え切れず、私はそのまま意識を失うように眠ってしまったのだと思います。

恐怖の余韻が残っていたせいか、再びハッと目を覚ましたのは、まだ朝の5時位だったと思います。
「なにも…なかったんだよな…」
ほっと緊張が途切れ、安心してペットボトルに手を伸ばした瞬間、視界の隅に見えたんです。

(ドアの内側に足がある…)
細く白い2本の足。女性のものでした。
「うわっ」
足の、上半身までは確認できず、恐怖で目をつぶったその時、
ドタドタドタドタ
足音が勢いよく家族が眠るベッドのすぐ傍まで近づいたようでした。

私は怖くて目が開けられませんでした。
布団にくるまったまま、しばらく恐怖に晒され続けた後、またしても私はそのまま気を失ってしまったようでした。
次に目が覚めたのは、妻に声を掛けられた時でした。
妻はすでに起きていて、鏡の前で化粧をしていました。

私はすぐに部屋の入り口ドアの方を確認しました。
足はありません。
恐る恐るドアを開けて、廊下を見回してみましたが、特におかしな点はありません。
部屋に戻り、妻に足音のことを話してみると、妻は全く気付かなかったようで、一度も目が覚めることはなかったと言っていました。
一体あの女性は何だったのか…
このホテルに因縁のある何かなのか…
もしかしたら私たち家族が原因なのか…
全ては分からないままです。
これが、私の人生でたった一度だけの恐怖体験です。


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