【怖い話|実話】短編「厭な旅館」心霊怪談(岐阜県)

投稿者:ふうせんかずら さん(42歳/女性/主婦)
体験場所:岐阜県I郡の古い旅館

私が20代半ばの頃。
いつも一緒に旅行を楽しんでいた仲間3人で、岐阜県を旅行した時の話です。

古い温泉街のはずれにひっそりと佇むそれは、見るからに歴史を感じさせる旅館で、感じの良い女将さんや中居さんが笑顔で出迎えてくれました。

旅館のお出迎え
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ですが、私はその感じの良さとは裏腹に、その旅館に何となく嫌な印象を持ちました。
何がというわけではないのですが、(なんか気持ちが悪い旅館だな)、ただそんな風に感じたのです。

チェックインを済ませ、早速今晩宿泊する部屋へと案内されました。

部屋へと向かう途中、館内の様子に目を配ると、歴史と風情を感じさせる重厚な趣、隅々まで掃除が行き届き廊下や柱はつるつると黒光りしています。

それなのに、やっぱり私にはどこか薄気味悪く感じられるのです。その理由がなんなのか、やっぱり自分でも分からない。

だけど1つ、明らかに不可解に感じる点がありました。
おそらく増築に増築を重ねたのでしょう。館内はまるで迷路のように複雑に入り組んでおり、階段を上ったり下ったり、自分が今どこにいるのか直ぐに分からなくなる程でした。

込み入った館内を通り案内されたお部屋は、綺麗な和室でした。

古いちゃぶ台と座布団が4つ並んでいます。
お部屋もやはり手入れが行き届いており、柱やちゃぶ台も黒光りするほど磨かれ、障子戸も綺麗です。
でも、やっぱり私は薄気味悪い雰囲気を感じました。

「意外と綺麗なお部屋だね!」

友人はそう言って喜んでいます。
確かに綺麗なお部屋だし、旅館としては申し分なく素晴らしいのですが、私は今すぐにでも逃げ出したいような衝動に駆られていました。

でも、喜んでいる友人、それに予約してくれた友人のことを考えると、「帰りたい」とか「この宿気持ち悪い」とは言えませんでした。

平日だったからでしょうか、宿泊客は私たち1組だけでした。
「温泉を独り占めできる!」と友人は喜んでいます。
(確かにそうだな~)と思いながら、早速3人で温泉に向かいました。

ですがやっぱり、到着した温泉もまた、非常に気持ち悪いのです。
でも、それには理由がありました。

古い石造りで、とても趣深い雰囲気の温泉なのは確かですが、あちこちにマリア様のような白い像があるかと思えば、観音様のような仏像もあったり、色々な彫像が無作為に設置されていて、何となく見られてるような監視されているような、そんな感じがするのです。

旅館の風呂場
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とは言え、温泉自体はとても良いお湯で気持ちが良かったですし、その後のお料理もとても美味しくて、何だかんだで私たち3人は大満足のままお部屋でくつろいでいました。

しばらくすると、友人の一人が酔っ払い、そのまま布団に入ってしまいました。

私ともう一人の友人は「寝る前にもう一度温泉に入ろうか」と、二人で再び部屋を出たのですが、温泉に向かって迷路のような館内を歩いているうちに、気付くと私たちは迷子になってしまったようなのです。

とは言え、私たちもいい大人ですから、普段迷子になるなんてことはまずありません。
あっちへ行ったりこっちへ行ったり、途中、電気が切れそうな廊下があったり、「あえて怖い雰囲気を演出しているのか?」などと思いながら歩き回っていると、どうにか温泉に辿り着きました。

脱衣所にはロッカーはなく、無造作に脱衣カゴが置いてあるだけです。
その籐で出来た古いカゴに浴衣を放り込んで、ようやく私たちは温泉に入りました。

かけ湯をし、内風呂に少し浸かった後、私は一人先に露天風呂に向かいました。
綺麗な満点の星空の下で最高の露天風呂を味わっていると、ふと風呂の隅に、一人お客さんがいることに気が付きました。

風呂の隅に一人の客
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(あ、私たちだけじゃなかったんだ・・・)

と思いつつ、身体をお湯に沈め星空を眺めながらも、何気なくその人に目を向けると、髪の毛を結い上げているのが分かります。時代劇に出てくる女性のような髪型です。

(綺麗な髪型だな~、仲居さんとか従業員の人かな~?)

などと思っていると、女性はスッと立ち上がり内風呂の方へ消えていきました。

そのあと友人が露天風呂に出てきました。

「お客さん、私たちだけじゃなかったね。」

と友人に声をかけると、

「え?」

と、友人は不思議そうな顔をします。

どうやら友人はあの女性を見かけなかったようなのです。

さっきまで友人は一人で内風呂にいました。
他に客もいないのに、あの女性に気付かないはずはないと思うのですが…

すると友人が言いました。

「でも、脱衣所のカゴは一つも使われてなかったじゃん?スリッパもなかったし…」

私はゾッとしました。

(確かにそうだ。脱衣所の様子を見る限りでは他に誰かいるはずがない。それに旅館を訪れてからずっと感じている嫌な雰囲気。もしかして私が見たのって・・・)

なんだか一気に怖くなって、私たちはすぐに温泉を後にして部屋へ急ぎました。

部屋に到着し、急いで寝る支度をしてると、急に隣の部屋が騒がしくなりました。複数の女性の話声が聞こえてきます。

「あれ?やっぱり私たちだけじゃなかったのかな?」
「それにしてもうるさいなぁ・・・4~5人くらいいるのかな?」

などと友人と話しながら、電気を消し床に就くと、やっぱり旅行の疲れがあったのか、私たちは直ぐに寝付いたようでした。

どのくらい時間が経った頃か、私はなんとなく息苦しさを覚え目を覚ましました。
暗い室内に微かに友人達の寝息だけが聞こえます。

(やっぱりなれない場所だから眠りが浅いのかな?)

そう思いながら、もう一度目を閉じようとしたその時、私は気が付きました。

暗い室内、私から1メートルくらい向こう。
青白い顔をした無表情の女性が、私に添い寝をするような感じで向かい合い、こちらをジーッと見ていたのです。

青白い顔をした無表情の女性
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でも、こちらを見ているのに目が合わない。
というか女性の焦点が定まっていないような、そんな感じの視線なのです。

静寂の中、目の前の知らない女性に極限の恐怖と緊張を感じました。
そのせいなのか、私は体が動かせない上に声も出せません。

(これが金縛りか・・・)

と思った次の瞬間、何かが体の上に覆いかぶさるような衝撃を受けました。
それと同時に「きゃぁ!」と叫び声をあげることが出来ました。

その声に目を覚ましたのか、友人が起きて電気をつけてくれました。
直ぐに私は今見た女性の方を振り返りましたが、その姿は既に消えていました…

次の日の朝。
朝食の際、ご飯をよそってくれた仲居さんに、「昨晩は私たちの他に誰かお客さんはいましたか?」と聞いてみました。

「昨日はお客さんたちだけでしたよ」

仲居さんは笑顔でそう答えてくれました。

私は昨日の出来事を全て、その仲居さんに話しました。
温泉に浸かる髪を結い上げた女性のこと、隣の部屋から聞こえた複数の声のこと、そして夜中に現れた女性のこと。

すると中居さんは、「ほほほ」と笑ったあと、「そうでしたか」と答え、「ごゆっくり」と言い残して厨房の方へ行ってしまいました。

物言わぬ仲居さんの対応に背筋がゾクッと寒くなり、それ以上は何も聞かずに私たちはチェックアウトを済ませました。

少し嫌な気持ちを抱えたまま、私たち三人は車に乗り込みました。
今日の運転は私です。
窓を開け、見送ってくれている女将さんと仲居さんに手を振りながら、バックミラーをふと見ました。

すると手を振っている女将さんと中居さんの間にいたのです。

温泉で見かけた、あの髪を結った女性が・・・
少し俯くように横を向いて立っています。

髪を結った女性
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「アッ!」

と思いすぐに車を停めて、外に出て見ました。

しかし、あの女性がいません。
そこにいたのは女将さんと中居さんの2人だけでした。

私は戸惑いながらも2人に深くお辞儀をして、再び車を走らせました。

そんな記憶から10年ほど経った頃のことです。
私は結婚して、夫と再び岐阜県を旅行したことがありました。

(ああそうだ!この辺にあの不思議な旅館があった…)

と思いだし、記憶に残る場所を探してみたのですが、どこをどう探してもあの旅館が見当たらないのです。旅館の名前も忘れてしまいネットで探すこともできませんし、もう二度と行くことは出来ないのかもしれませんね。

特に危害があったわけでもない過去の不思議な体験ですが、やっぱり思い出すと今でも背筋が寒くなるのです。

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