体験場所:三重県の実家
今から18年前の2004年に、私が体験した嘘のような本当のお話になります。
当時、大学4年生だった私には2歳年下で短大通いの妹がおり、共に両親と一緒に三重県の実家に暮らしていました。
実家は13階建ての割と大きめのマンションで、簡単に間取りを説明すると、玄関からリビングまで真っ直ぐに続く廊下があり、廊下には玄関から近い順に、私の部屋、次に妹の部屋、そしてトイレという並びでドアがありました。
その年の夏は、21世紀になって初めてのオリンピックであるアテネ大会が開催されていました。
私は野球観戦が大好きなので、もちろんオリンピック日本代表の試合も連日欠かさず観ていました。
ただ、アテネとの時差は6時間もある為、日本では深夜帯に試合が放送されることも多かったです。
その日も、トーナメント準決勝『日本代表VSオーストラリア代表』の試合が深夜に放送されていました。
当然、私も手に汗握り自室のテレビの前で日本代表を応援していたのですが、途中でトイレに行きたくなり部屋を出ました。
トイレを済ませた後、自分の部屋に入る前に、ふと何気なく玄関の方に目をやると、玄関の鍵が開いていることに気が付きました。
不用心だなと思いながら、私は玄関の鍵を閉め、部屋に戻りました。
それからも熱く日本代表にエールを送り続け、試合も佳境に入ってきた頃でした(深夜2、3時頃だったと思います)。
急に玄関のインターフォンが鳴ったのです。
その日は妹が外出しており、当時は遊んでばかりで朝帰りすることも多かったので、私は(あぁ、妹が帰ってきたんだな)と思いました。
(家の鍵を持っているはずだから、どうせ勝手に入ってくるだろう)と、私は部屋から出ることなく野球観戦を続けました。
そうしていると、インターフォンが再び鳴り、直ぐにまた三度目が鳴りました。
試合は目が離せない場面に差し掛かっていたので、私はテレビの前を絶対に離れたくありませんでした。それに寝室で寝ている両親がそのうち出てくれるだろうと思い、私はインターフォンを無視し続けていたのです。
するとインターフォンが鳴りやんだと思ったら、今度はドアノブを思い切り何度もガチャガチャと回す音が聞こえ、次にそれは凄い勢いでドアを叩く音に変わっていきました。
こんなに騒がしいのに全く出る気配がない両親に若干イラっとしながらも、私は仕方なく部屋を出て玄関の鍵を開けに行きました。
ドアを叩く音はまだ聞こえています。
いい加減しつこいと妹に腹を立て、私は鍵をガチャッと開けるだけで、直ぐに振り返って部屋に戻ろうとしました。
すると、背後から玄関扉が開く音が聞こえました。
やっぱり妹にひと言でも文句を言ってやろうと後ろを振り返って見ると、そこにはまったく見知らぬ男が立っていました。
男は下はスラックスをはいていましたが、上半身は裸でした。
今までそこにいるのは妹だと完全に思い込んでいた私は、目の前の状況が呑み込めずに固まってしまい、その男と数秒向き合ったままになりました。
しばしの間、無感情な私の目が向いていたせいか、男の様子も何やらおかしくなり、『あっ、あれ?』とか何とか言って挙動不審になっています。
すると、男は泳いだ目を玄関ドアのポストにやると、そこに差し込んであったその日の朝刊をおもむろに抜き出し、「ちょ、朝刊です。」と言って、私に差し出して来ました。
私も「あ、ど、どうも。」と返事をするのが精一杯で、差し出された朝刊を素直に受け取るだけでした。
しばらくの間、妙な時間が流れた後、その男はいそいそとバツが悪そうにしてどこかへ行ってしまいました。
以上が私の恐怖体験?です。
これは推測ですが、男はマンションの中の自分の家に帰ったつもりが、酔っぱらっていたこともあり、階数を間違え私の家に来てしまったのではないでしょうか?
そして、鍵を持っていなかった男は、家の中にいる家族を起こそうとあのような行動に出たのではないかと思うのです。
聞きようによっては笑い話にもなりますが、もし私が玄関の鍵が開いていることに気が付いていなかったら、もしその見知らぬ男が本当の不審者で凶器などを持っていたとしたら…
そう考えると、単なる笑い種ではなく、少し背筋が凍るような気もして、18年経った今も何かにつけて未だに思い出してしまうのです。
因みに、その日の日本代表は、オーストラリア代表に敗れました。
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