【怖い話|実話】短編「退居理由」不思議怪談(神奈川県)

【怖い話|実話】短編「退居理由」不思議怪談(神奈川県)
投稿者:柚木 さん(30代/女性/事務)
体験場所:神奈川県川崎市 JR南武線「中野島駅」近くのアパート

これは、私が川崎市の中野島に住んでいた頃の話です。

築三十年以上の古いアパートに住んだことがありました。家賃が安いことだけが決め手の部屋でした。玄関を入るとすぐ小さな廊下、突き当たりが6畳の部屋という、よくあるワンルームの間取りです。

住み始めてしばらくは特に何も感じませんでした。ただ、当時は仕事が忙しく、帰宅も遅かったので、「家では寝るだけ」という生活でした。

異変に気付いたのは、入居して3ヶ月ほど経った頃です。

最初は、夜中のインターホンでした。
平日の深夜1時半頃、布団に入った直後に「ピンポーン」と鳴りました。

宅配が来る時間ではないし、友人が来る予定もありません。怖いというよりは「酔った人が間違えたのかな」と思う程度で、出ずに無視しました。鳴ったのはその1回だけでした。

二度目は一週間後。
今度は深夜3時前に同じ音で起こされました。ドアモニターが付いていない古いタイプのインターホンだったので、相手の姿は見えません。玄関に近づくのも怖く、そのまま息をひそめていました。
やはり鳴ったのは1回きりでした。

その後も月に一度くらいのペースで深夜にインターホンが鳴り、それが数ヶ月続きました。
当時はストーカー被害や不審者に関するニュースも多く、怖くはありましたが、あくまで「人間による仕業」だと思っていました。

決定的な出来事があったのは、蒸し暑い夏の夜でした。
その日は珍しく帰宅が早く、扇風機をつけて横になっていました。うとうとしかけた頃、また「ピンポーン」と鳴りました。時計を見ると23時台。これまでより早い時間でした。

いつも通り無視していたのですが、その夜は違和感がありました。
玄関の方から人の気配が全くしないのです。

じゃあこれまでは人の気配を感じたのかというと定かではないのですが、ただ、この日はそこに誰もいないことを明らかに感じ取ったのです。
言葉ではうまく説明できませんが、「誰かが押した」感じではないというか……ただそこに“鳴った音があるだけ”というような、妙な感覚でした。

少しためらいはありましたが、勇気を出して玄関に行き、ドアスコープをそっと覗きました。
薄暗い共用廊下には誰もいません。玄関ドアに耳を当てても足音らしいものは聞こえませんでした。

怖さよりも不気味という感覚が強く、その日は布団に入っても眠れませんでした。

翌日、隣の部屋の方(30代くらいの男性)と廊下ですれ違った際、思い切って聞いてみました。

「最近、夜中にインターホン鳴らされたりしてませんか?」

彼は意外そうな顔をしました。

「いや、僕のところは鳴らないですね。でも……あなたの部屋の前の住人が引っ越した理由、知らないんですか?」

私は何も知りませんでした。
彼は少し言いにくそうに話してくれました。

「半年くらい前に住んでいた女性が、夜中のインターホンに悩まされていたらしいですよ。防犯カメラがないから犯人も確認できなくて、気味が悪くなって出て行ったみたいですよ」

その話を聞いた瞬間、背筋が冷たくなりました。
私の体験と全く同じだったから。

ただ、隣人の男性が更に続けた話が、余計に心に引っかかりました。

「でもね……その女性、一回だけ、『鳴った瞬間にドアを開けたことがある』って言っていたらしくて。そしたら誰もいなかった、って。階段を下りる音も、走って逃げる音もなかったって」

「じゃあ、誰が押したのか?」という疑問だけが残る話でした。

その後もインターホンはたまに鳴りましたが、私はその度に無視し、ひたすら早く寝るように生活を変えました。
それから引っ越すまでの半年間、結局一度も鳴らした相手を確認することはありませんでした。

最後に、今でも一つだけ気になっているのは、退去立ち会いの時、管理会社の人が言った言葉です。

「この部屋、前の方もその前の方も、少し短い期間で出られるんですよね。なぜかみなさん“夜が落ち着かない”っておっしゃるんです」

あのインターホンが、誰かの仕業だったのか、ただの故障だったのか、それとも――
今でも答えは分かりません。
ただ、夜中にインターホンの音を聞くと、今でも胸がざわつきます。

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