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【怖い話|実話】短編「踏切の向こうから」心霊怪談(広島県)

【怖い話|実話】短編「踏切の向こうから」心霊怪談(広島県)
投稿者:あきら さん(30代/男性/会社員)
体験場所:広島県広島市 住宅街にある小さな踏切

これは、三年ほど前の秋に実際に体験した出来事です。

当時、私は広島市〇〇区○○町付近に住んでいました。
仕事は在宅勤務が多く、夜中に気分転換を兼ねて近所のコンビニまで歩くことがよくありました。

その日も、確か夜の十一時半を少し過ぎた頃に自宅を出ました。雨は降っていませんでしたが、昼間に降った雨のせいで道路はところどころ湿っていて、街灯の光がアスファルトにぼんやり反射していました。

コンビニでコーヒーと菓子パンを買い、帰り道で小さな踏切を渡ろうとした時でした。車が一台通るのがやっとという小さな踏切で、昼間でも人通りはほとんどありません。夜は明かりも少なく、踏切の警報機と近くの自動販売機の明かりだけがやけに目に付くようなところでした。

私が踏切に近づいた時、遮断機は上がっていて、電車の音もしませんでした。
私はスマホに目を落としたまま踏切に立ち入ったのですが、その時、踏切の向こう側、進行方向からはっきりと、「すみません」と声をかけられました。
若い男性とも女性ともつかない、少し鼻にかかったような声でした。
私は反射的に顔を上げました。

踏切の向こう側には、誰もいませんでした。

踏切の向こうは細い路地が真っすぐ続いていて、路地の左側に古いブロック塀、右側には月極駐車場があります。その道とは別に、線路沿いに並走する細い道も左右に伸びています。声の主はどこなのか、視線の届く範囲を見回しますが、そもそも人が全くいません。
隠れられる場所が全くないわけではありませんが、そもそも声をかけておいて隠れる理由も分かりません。
声の近さから考えると、踏切のすぐ前に人が立っていないとおかしいくらいの距離感でした。

聞き間違いと確信するまでの間、しばらく踏切中央に立ち止まっていました。すると、今度は私の背後、つまり今歩いてきた方から、同じ声で「すみません」と聞こえました。

その時は驚いたというより、頭の中で位置感覚がズレたような気持ち悪さがありました。私は踏切の真ん中にいて、前から声がしたと思ったら、今度は後ろから同じ声が聞こえたのです。

振り返っても、やはり誰もいませんでした。

近くのアパートはどの部屋も窓が暗いし、辺りに車のライトも見えません。
少し怖くなって、早く踏切を渡ってしまおうとした時、警報機が鳴り始めました。赤いランプが交互に点滅し、遮断機が下りてきます。私は慌てて引き返し、踏切の手前に戻りました。

ふうっと胸をなで下ろし、再び線路側を振り返ると、ふと踏切の向こう側にあるカーブミラーが目に入ったのですが、そこに人影のようなものが映っているのが見えました。はっきりした姿ではありませんが、黒い服を着た人の影。
どうやらカーブミラーに映る人影は、踏切の向こう側、線路沿いの細い道に佇んでいるように見えます。

ただ、首をひねって実際にそちらに視線を向けてみても、誰もいません。
再びカーブミラーに視線を戻すと、やっぱりカーブミラーの中にだけ、ぼやけた人影のようなものが映って見えました。

目の前の踏切を、電車が轟音を立てて通過していきました。

電車が過ぎ去り、遮断機が上がると、風で濡れた葉っぱが道路に張り付く音まで聞こえるくらい、辺りはシンっと静まり返りました。

もう一度カーブミラーを見ると、人影のようなものは消えていました。

私はそのまま歩き出すと、走らない程度に速度を上げて家へ帰りました。

家に着いてから、コンビニのレシートを見ると、時刻は23時42分でした。
妙にその数字だけを覚えています。

全部気のせいだったと片づけようとしましたが、翌朝になってもどうしても踏切でのことが頭から離れず、明るい時間に同じ場所へ行ってみました。

昼間に見ても、本当に何の変哲もない小さな踏切です。

昨日声がした場所には、「飛び出し注意」の古い看板と、少し傾いたカーブミラーがあるだけです。

ただ、ふと気が付きました。
カーブミラーの角度です。

よくよくカーブミラーを確認すると、鏡は線路と並走する道の方を向ていているわけではありませんでした。どちらかと言うと、踏切の向こう側、昨夜私が立っていた踏切前、更にその後ろの方が映る向きになっています。
つまり、昨夜カーブミラーに映っていた人影は、踏切の前に立っていた私の、更にその後ろにいた何かを映していたのかもしれません。

もちろん現実的に考えれば、カーブミラーの人影は見間違え。どこかを通り過ぎた車のライトで自分の姿が歪んで見えたとか。もしくは実際に誰かがいたとしても、昨夜は暗くて単純に見落としていただけかもしれません。

声だって、近くのアパートやどこかの建物から発せられた声が、線路や壁に反響して、おかしな方向から聞こえただけとも考えられます。

ただ、その夜は、私自身は車も人も見ていません。
それに私に向かって「すみません」と言った声。あれは、こちらに向けて掛けられたと分かる声と言うか、実際に困っている人に声をかけられた時の、あの感じに近かったように思います。

後日、近所に住んでいた知人にその体験を話したところ、「実際にあそこ、夜に誰かに呼び止められたって話す人、たまにいるらしいよ」と言われました。

知人は詳しい事情を知るわけではなく、昔からそんな噂がある、という程度の話のようで、事故があったとか、誰かが亡くなったとか、そういう具体的な原因めいた事については特に知らないようでした。

あれ以来、私がその踏切を夜に通ることはほとんどなくなりました。
ただの生活道ですし、昼間に通れば特に不気味な雰囲気もありません。

それでも、あの夜、誰もいないあの踏切で、姿のない誰かの声を聞いた感覚が確かにある以上、私はあの場所が怖いのです。
夜の踏切で、赤いランプが点滅しているのを見ると、今でも少し足が止まります。


恐虫リリー
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