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【怖い話|実話】短編「電気の塊」心霊怪談(愛知県)

【怖い話|実話】短編「電気の塊」心霊怪談(愛知県)
投稿者:タクヤ さん(35歳/男性/エンジニア)
体験場所:愛知県豊川市内の築古一軒家

数年前、当時住んでいた愛知県豊川市内の古い一軒家で起きた、今でも科学的な説明がつかない奇妙な体験を聞いてほしい。

俺は自動車部品のメーカーでハードウェアのデバッグや電子回路の解析を担当している、いわゆる電気エンジニアだ。職業柄、物事の全てを電圧や電流、インピーダンスといった物理法則で捉える癖がある。だからオカルトや怪談の類は「ノイズか脳の錯覚」と一蹴するタイプだったんだが…

その夜は、どうしても解析が終わらない車載用の映像分配基板を自宅に持ち帰り、自室の作業机で居残り作業をしていた。不具合の症状は、特定の条件下で出力電圧が本来のターゲットである7.4Vを超え、7.765Vまで跳ね上がり、回路がハングアップしてしまうというものだった。

作業は長引き、深夜の1時を回っていた。辺りは完全に静まり返っている。妻と子供たちは2階の寝室でとっくに眠りについていた。自室では、ハンダゴテの熱気と、オシロスコープのファンから聞こえる微かな風切り音だけが漂っていた。

「やっぱりTr11(トランジスタ)のロジックじゃないな……。原因は抵抗ネットワークのどちらかだろうか?」

マルチメーター(テスター)のプローブを基板の小さなチップ抵抗(R23とR36のライン)に押し当て、デジタルの数値を睨みつける。数値は安定して一定の抵抗値を示していた。上手くいったか?液晶画面が淡い緑色に光っていた。

異変が起きたのは、深夜2時を告げる柱時計の音が遠くから聞こえた直後だった。

ピピッ、ピピッ、ピピピピッ、ピピピピピピ・・・・

机の上に置いていたマルチメーターが突然狂ったようにアラート音を鳴らし始めた。画面の数値を見ると、「0.000」と「Overload(測定不能)」の間を、目にも留まらぬ速さで激しく往復している。

「おいおい、接触不良か?」

プローブを基板から離した。当然、測定端子はどこにも触れていない。空気を開放している状態なのだから、画面は完全に「解放(OL)」を示すのが正常。もしくは「ミリボルト単位の微小な環境ノイズ」を拾う程度のはずだ。

しかし、プローブを浮かせているにも関わらず、テスターの数値は凄まじい勢いで更新を続けている。まるで空気中に存在する「何か」にプローブの先端が接触し、激しく電圧を変動させているかのような規則性を持った波形を描いていた。

おかしい。そう思った瞬間、背筋に強烈な寒気が走った。さっきまで少し汗ばむくらいに生ぬるかった室温が、吐く息がうっすら白くなるほど急降下していく。

「なんだこれ……」

静寂の中、今度はオシロスコープ(電気信号の波形を画面に映す装置)の画面が激しく明滅を始めた。何も入力していないはずのチャンネル1の画面に、規則正しい「サイン波(正弦波)」が浮かび上がってくる。

なまじ電気の知識があるからこそ、すぐに異常の本質に気付いてパニックになりかけた。この部屋は一般的な家庭用コンセントしか引いていないし、周囲に変電所や強力な電磁波を発する設備はない。これほど綺麗な高電圧の波形が、空中から「ノイズ」としてテスターやオシロに飛び込んでくるわけがないのだ。
まるで目に見えない巨大な「電気を帯びた塊」が、俺の作業机の真横にじっと佇んでいるようだった。

その時、カチ、カチ、カチ、と部屋の隅から奇妙な音が聞こえてきた。
音のする方を恐る恐る振り返ると、棚の奥にしまってあった、電池を抜いてあるはずの古い子供用の電子玩具が、不規則にLEDを明滅させていた。

「おい、冗談だろ……」

喉がカラカラに乾き、心臓の鼓動が耳の奥でうるさいくらいに鳴り響く。
怪奇現象を否定したいエンジニアとしての理性が「器機の故障?」「回路の回り込みか?」と必死に原因を探そうとするが、目の前の物理現象はそのすべてを否定していた。何かが、明確な意志を持って、室内の電子機器のエネルギーを狂わせている。そう確信してしまいそうだ。

その状態がどれくらい続いただろうか。時間にして2,3分だったと思う。

突然、バチン、と、机の上の蛍光灯が消灯した。
一瞬にして完全な暗闇が訪れた。
「うわっ!」と思わず声を上げた。

同時に、全ての電子機器が嘘のように静まり返っていた。
オシロスコープのファンが止まり、テスターの液晶も消えている。

恐る恐る机のライトのスイッチを入れ直すと、何事もなかったかのように明かりが点いた。ブレーカーが落ちたわけではなかった。テスターの画面を見ると、通常の解放状態を示す表示に戻っている。室温も、いつの間にか元の生ぬるい夜の空気に戻っていた。

翌日、俺は真っ先に昨夜使っていたテスターとオシロスコープを会社の精密校正室に持ち込み、異常がないか徹底的に検査した。

結果は「正常」。
機器の故障による誤作動の可能性はゼロだった。

あの夜、俺の作業部屋に現れた、目に見えない「巨大な電気を帯びた塊」は、一体なんだったのか。今でもあの時の、テスターのアラート音と、有り得るはずのないオシロの波形が頭から離れない。

幽霊というものが、もし「強力な電気的エネルギーを持った思念」のようなものだとしたら、あの夜、そいつは俺の精密機器を媒介にして、確かにそこに存在していたのだと、今の俺は本気で信じている。


恐虫リリー
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