【怖い話|実話】短編「壁を登る女」心霊怪談(東京都)

投稿者:トーフ さん(29歳/女性/主婦)
体験場所:東京都T区の某病院

これは東京都T区のとある病院で、私が看護師として勤務していた時の話です。

その病院は比較的大きな総合病院で、患者数も多く、その分だけ重症患者も多く対応していたため、お亡くなりになる方も毎日複数人いるような病院でした。

病院
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それぞれの病棟には『監察室』という病室が設けられていたのですが、そこは病状が悪化し死期が迫っている患者様に入ってい頂く部屋で、いつでもすぐに対応できるようにナースステーションに1番近い病室となっていました。

その日私は、余命が残り数日と宣告されていた患者様のAさんを担当していたのですが、その日の内にAさんの病状はみるみる悪化し、本格的に死期が迫ってきたことを感じた私は、Aさんを監察室へ移動させることに決めたのです。

ですがAさんを監察室へお連れすると、部屋に入るなり、

「この部屋はカリカリ音がうるさいから嫌だ」

と、Aさんは言いました。

しかし私にはナースステーションから聞こえる電子音以外、特に何の音も聞こえません。

ナースステーションの音が気になるのかと思い、ステーション内の電子音を少し下げることを提案し、Aさんにはなんとか納得して監察室へ入っていただきました。

しかし、その後もAさんから何度もナースコールがあり、

「カリカリという音がどんどん大きくなっていく」
「下からどんどん登って来るように近づいてくる」
「カリカリカリカリうるさくて寝ていられない」

と、繰り返し訴えられました。

しかし他の看護師に確認したらもらっても、結局そのような音は誰の耳にも聞こえませんでした。

その後、看護師間で話し合いましたが、Aさんの病状を考えると監察室からの移動は不可能、という総意となり、医師に相談して軽い精神安定剤を使用することになりました。

精神安定剤の使用によってAさんは少し落ち着きを取り戻したようで、ナースコールの使用も減って、Aさんもゆっくり休めているように思いました。

それから数日経ったある日、夜も深まった午前2時頃でした。

見回りの為Aさんの部屋を訪れると、目を見開いたAさんが苦しそうに肩ではぁはぁと息をしていました。

「Aさん、息苦しいですか?苦しいのが少し楽になるお薬使いましょうか?」

と聞く私に、Aさんは天井の一点をじーっと見つめながら、

「来た。枕元に来た。壁を登って、とうとう俺のところまで来てしまった。俺の顔の横にいる。」

と言うのです。

深夜ということもあり、Aさんの言動を私はとても怖く感じたのですが、お亡くなりになる前には意識が混沌とし始める方も多く、「幻覚や幻聴が見えているのかも」と考え、その場は何とか平静を装いました。

しかし、その後Aさんは徐々に意識が薄らぎ、ゆっくり呼吸が減っていき、急いでお呼びしたご家族に見守られながらお亡くなりになりました。

Aさんの死後の処置に追われ、Aさんの言っていた『壁を登る音』についてもすっかり忘れていた私ですが、全ての処置が終わり、Aさんを霊安室へ届けに行った帰りの事、ちょうど私の病棟の下の階で働いている同期とエレベーターで一緒になりました。

その同期も同じ夜勤中に患者様を看取ったらしく、霊安室へご家族の忘れ物を届けに行った帰り道でした。

その同期が「とても嫌な体験をした。」と言って、こんなことを話し始めたのです。

「今日看取った患者さんが霊感のある人だったみたいでさ、監察室に入ってから『壁を女の人が登ってくる!登ってくる!』って言ってすごく嫌がるの。

その剣幕がすごくて、私まで怖くなっちゃってさ…

しかも、その女の人が近づいて来るって言う度に、どんどん患者さんの病状も悪くなっていって、壁を登る女の人っていうのが本当に死を運んで来てるみたいで怖かったんだよ。」

そう言うのです。

壁を登る女
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Aさんが言っていた事とあまりに似通っていたので、私が青くなっていると、更にその同期は続けました。

「私のところの患者さん、亡くなる直前まで意識があって、亡くなる前に、

『私の死は決まったから、今度は上に移動するみたいだ。上の人も今日連れて行かれるのね。』

って言ってたんだけど、あなたのところの亡くなった患者さんって、もしかしてうちの患者さんのちょうど真上の監察室だった?」

と聞かれました。

(Aさんが言っていた事って、このことなの…)

私は同期に返事を返すのも忘れたまま、鳥肌が止まらなくなりました。

「この部屋はカリカリ音がうるさいからいやだ」

一体Aさんが聞いていた音はなんだったのでしょうか…

壁を登り死を運んでくる女、そんなものがあの病院の中を這いずり回っているのかと想像すると、今でも背筋が凍ります。

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