体験場所:兵庫県の実家
少し前、友人と食事をした時、今から書く昔話が出ました。
私はすっかり忘れてしまっていたのですが、その友人の話を聞いて思い出したんです。
なぜ今まであの出来事のことを忘れてしまっていたのか、そう思うくらいにそれは、不思議で怖い体験でした。
20年ほど前、まだ私が高校生の頃の話です。
当時、私は写真を撮る事が大好きで、道端に咲いている何の変哲もない花や、夕日の入った風景など、思い当たる物はとにかく写真に収めていたんです。
そんな私の影響からか、ある頃から仲の良かった友人のA子が一緒に写真を撮る様になっていました。
そのA子というのが、前述した私にこの話を思い出させてくれた友人です。
一緒に写真を撮るようになりしばらくすると、
「花や風景も良いけど、どちらかがモデルになってみるのはどう?」
と、A子から提案がありました。
それを受けて私達は交互に被写体となり、景色と一緒に自分たちも写真に入ってみる事にしたんです。
最初のうちは慣れていなこともあり、気恥ずかしさのせいでぎこちない撮影だったのですが、だんだんと勝手が分かってくると、そのうち色々な場所で撮影するようになってきました。
そんなある日のことです。
とある児童公園で時間も忘れ撮影に没頭してしまい、気が付いて携帯を見た時には既に夜の8時を回っていました。
「じゃあ最後に私がブランコに座って月を見上げてる感じの写真を撮って、今日はそれで終わりにしよう!」
と私が言って、最後の1枚を撮影し、二人で家路に就いたんです。
当時も今も、ここから翌朝までの記憶が私にはありません。
なので、以下はA子から聞いた話で補完しています。
歩き始めて10分程した時、
「死にたい!もう全部嫌!死にたい!」
と、唐突に私が喚き散らしたのだそうです。
「死にたい!死にたい!死にたい!死にたい!死にたい!」
そう叫ぶ私のネガティブな暴言はどんどんエスカレートしていき、そんな様子を見て、A子は私を放っては帰れないと思ったらしく、その日は私の家に泊まってくれました。
夜中になっても「死にたい死にたい」と喚き続ける私を、A子が夜通しなだめ続けてくれたのだそうです。
翌朝になって落ち着きを取り戻した私は、A子から前夜の事情を聞きました。
(ここからは私も記憶があります。)
「あれは冗談?冗談でもあれはダメだよ。」
と、ムッとしながらA子は言うのですが、私には全く身に覚えのない事でしたので、どう返したらいいのか正直反応に困ってしまいました。
気を取り直して、その日、昨日撮影した写真を現像に行こうという事になり、二人でカメラ屋さんへ行きました。
出来上がった写真を家に持ち帰り、早速一枚一枚見ながら、あーでもないこーでもないと、A子と二人、浅はかな写真論を持ち出して語り合っていました。
そして、最後に出て来た写真が昨日のラストに撮った、ブランコに座った私の写真でした。
それがちょっと異常だったんです。
写真の中心にブランコに座った私が写っているんですが、その姿を掻き消すように、写真一面に沢山のオーブの様な物が写り込んでいたんです。
「フラッシュのせい?」
「シャッター速度の影響かな~」
と、とりあえず私達はそれらしい原因を口にしていましたが、明らかに私達は怖い話になるのを避けるように、無理に理屈をこねているのがお互いに見え見えでした。
すると突然、
「うわぁぁぁ…」
のけ反りながら悲鳴を上げたA子が、震える指で写真に写る私の背後を差したんです。
「うヴぇぇ?!」とA子の悲鳴で思わず私も調子はずれな声を上げながら、A子が指差す先に視線を移したんです。
私の背後には、死神が写っていました。
それは小さくて見えにくいのですが、私の背後に目を凝らすと、そこに写っていたのは正に私たちが想像する死神の姿そのものだったんです。
マントの様なものを被り、大きなカマみたいなものを持ったそのヒト型は、一見すると人間にも見えるのですが、ただ人にしては顔の部分が白すぎて…
テレビや漫画で見るそれとは違い、写真にぼんやり写ったその姿からは、鼻を突くほど純粋な禍々しさというか、悪意のようなものを感じ、見ているだけで気持ちの悪い何かが込み上げてくる感じがします。
私達はしばらく言葉が出ませんでした。
昨晩、私が「死にたい!死にたい!」と喚いていたのは、もしかしたら写真に写っている得体の知れない何かに魅入られてしまっていたのかもしれない、そんな風に感じたんです。
もしもあの夜、あのままA子に冗談だと思われ放っておかれていたら、私は自死していたのでしょうか…
それ以来、私達が写真を撮る事はなくなりました。
あれから20年ほどが経ちますが、私は大きな病気になる事もなく、今も元気に過ごせております。
ただ、今になってどうしても思い出せない事がもう一つだけあります。
あの写真はどこにいってしまったのか…
捨てた記憶はないのですが、あれ以来あの写真を目にした記憶もありません。
もちろん無くて困るものではありませんが…ただ、少し気味が悪くて…
ただ、もしもまだどこかにあるとしても、もう決して見てはいけない様な気がしています。
コメント