【怖い話|実話】長編「助手席の女」心霊怪談(北海道)

【怖い話|実話】長編「助手席の女」心霊怪談(北海道)
投稿者:ぽちぽちパンダ さん(40歳/男性/webライター)
体験場所:北海道E市

これは私が数年前に体験した話です。

当時私は、有名大学に入学したのにもかかわらず就職難民に陥っており、卒業間近になっても希望する就職先が決まらずにいました。

結局そのまま希望の就職が出来なかった私は、大学卒業後は実家のある北海道E市に戻る事にしたのです。

田舎に帰ると、有名大学卒というネームバリューで簡単に塾の講師として働く事ができました。

ただ、塾講師は私が希望する職業ではなかったので気乗りはしませんでしたが、両親に心配を掛けないよう、自分の希望は押し殺し、そこで働くことにしました。

働き先が決まったことで、私には車が必要になりました。

理由は簡単で、田舎街での交通手段は基本的に車だからです。

なので早速、私は地元の中古車屋さんに車の物色に向かいました。

中古車屋さんに到着して早々、なぜか私は店先に置かれていた一台の車に一目惚れしてしまいました。

それは走行距離も車体の程度も申し分ない割には、値段も驚くほど手頃な価格で、明らかに掘り出し物だと思い即決で購入を決めました。

「ようやく自分にも運が回ってきた」

その時はそんな風に思っていました。

塾に通いだして気付いたことは、車に乗っていると地元の同級生や友達とよくすれ違うことでした。

田舎街なので、主要道路を走っていれば知り合いとすれ違うのは当然かと、別に気にはなりませんでしたが。

そんなある日、スーパーで買い物している時でした。

「よっ!久しぶり」

と、後ろから声を掛けられました。

振り返ると、そこにいたのは学生時代の男子同級生でした。

「おぉー、久しぶり」

私もそう答え、スーパーの通路で懐かしい昔話に花を咲かせていると、思い出したように同級生がこんな事を言ってきました。

「そう言えば、お前いつも車に可愛い彼女乗せて走ってるよなw」

何のことか分からず、私は明らかに同級生が勘違いしていると思い、

「は?それ、誰かと間違えてるんじゃない?」

と答えると、同級生は更に満面の笑みを浮かべ、

「そんなことないよ。みんな見てるし。〇〇のくせに可愛い彼女作りやがって、ってみんなひがんで話してるんだぞw」

と、ジロジロと嫌らしい目を向けてきます。

私は同級生の言っている意味が分からないし、納得も出来ませんでしたが、その場は適当に誤魔化しました。

そんなことがあって数日後、その日、私は寝坊して、塾に遅刻しそうなピンチを迎えました。

慌てて家を飛び出し車に乗り込むと、とにかく塾までの道のりを急ぎました。

するとその途中、先日の同級生と車ですれ違いました。

すれ違い様、同級生は「そこそこ」と言わんばかりに、私の車の助手席を指差しました。

「まったく、またアイツ悪ふざけして」

そう思って気にも留めず、私はいつも以上にスピードを上げて塾までの道を急ぎました。

すると突然「ピカッ」っと、私は車体ごと激しい光に包まれました。

一瞬のことで何が起きたのか分かりませんでしたが、今はそれどころではないと、光のことはお構いなしにとにかく急いで塾に向かった結果、なんとか遅刻せずギリギリ間に合うことが出来ました。

それから数日後、私の街から一番近くて一番大きな警察署から、私宛の封書が自宅に届きました。

中身を確認すると、32kmオーバーのスピード違反で免停、手続きがあるから出頭するようにとの旨が書かれていました。

あの時の眩しい光はオービスだったのだと、この時ようやく理解したのです。

やってしまったと肩を落としながら警察署へ向かうと、通された先はなぜか取調室。

それに私が気付いたかどうかくらいのタイミングで、部屋に2名の警察官が入ってきて、開口一番「この写真に写っている人の説明をお願いします」と言われ、一枚の写真を見せられました。

それは、オービスで撮られた私の写真でした。

その白黒写真には、運転する私の姿がハッキリと写っていたのですが、その隣にもう1人、女性の姿がありました。

助手席に座るその女性は、服の襟元が黒くシミになっていて、その上の顔には更に沢山の黒いシミが付着していました。

(え?そんなバカな、女の人なんて乗っているはずがない…)

と、私は頭が真っ白になったまま写真を呆然と眺めていると、一人の警察官が神妙な面持ちで聞いてきました。

「女性の顔と服に付着している黒いシミのようなものは、血液だと考えられます。もう一度聞きますが、隣に乗っている女性は誰なのですか?」

そんなことを聞かれても、もちろん私には一切心当たりがありません。

車を購入してからそれまでの間、一度として他の誰かを乗せた事なんてないのですから。

それなのに、目の前の写真には、私の隣の助手席に、黒いシミだらけの女性の姿がハッキリと写っています。

その薄気味悪さに私は思わず声を震わせて、

「両親でさえ乗ったことがないのに、他に誰かを乗せた事なんてありませんよ!」

と、怒気を込めた声を出してしまったのですが、警察官は冷静に写真を指差し、

「物的証拠があるのに、言い訳は効かないよ」

と、場慣れしたような圧のある言葉を私に浴びせ掛けてきました。

そのまま数時間、警察との押し問答が続いた後、「逃亡の恐れなし」という事で、スピード違反の処理だけ済ませ、私はようやく帰宅することが許されたのです。

帰宅後も、私は警察官に貰ったオービス写真とにらめっこしながら、「この女性は一体誰なんだろう?」と、ずっと考えていました。

けれど当然まったく思い当たる節もなく、両親にも事のあらましを説明した上で写真を見せましたが、やはり女性が誰なのか確認することは出来ませんでした。

そのまま、なぜか警察の取り調べも連絡もないまま時間だけが過ぎました。

数週間後、裁判所に出頭命令の封書が届き、違反金を払いに行きましたが、なぜかあの女性の話が再び持ち上がる事はありませんでした。

その帰り道、私は事の顛末が気になり、その足で警察署に出向いて話を聞きに行きました。

警察署に着くと、私は受付でこれまでの経緯を話し、以前の取り調べの時の警察官を呼んでもらったのですが、現れた警察官は友好的な笑みをこちらに向けたままこう言ったのです。

「その件は解決済みですので、お気になさらない様に」

まるで私には関係のない事のように、サラリとそう言い流されたことが頭にきて、私はその警察官に対し、

「私はあなたたちに高圧的に詰め寄られたあの日以来、気が休まる日はなかった。なのに解決したから気にするなとはどうゆう事か!」

と、怒りを露にして迫ると、警察官は少し困ったような顔でこう言いました。

「あの写真が撮られた前後の時間、あなたの運転している車を捜査したのですが、あなたの車に同乗する者はいなかった・・・ことが分かりました」

だから最初からそう言ってるだろう、私はそう思いました。

ただ、あのオービスで撮影された写真には、実際に黒いシミだらけの女性の姿が写っていたことは事実。

そのことはどう解釈するのか、私はもう少し詰め寄ろうかと思いました。

でも、警察官の困った顔を見ていると、聞いても仕方のないことのようにも思え、私は釈然とはしないままも渋々その場を後にしました。

その後、私の身に起きたことと似たような事例が過去にないものかと調べたところ、『幽霊裁判』というキーワードが引っ掛かりました。

簡単に説明すると、「人に襲われ反撃して殺してしまったはずが、その遺体が消えてしまった」とか、「自然死、又は病死だったにもかかわらず、生霊を飛ばして殺害した」など、現実的に証明できない、再現できない不可能な現象、又は起きたのかも分からない事象を指す言葉のようです。

私の場合、オービスのカメラには写っていた女性が、同じ道沿いにある防犯カメラには全く写っていなかったため事件には出来ない、という理由で、なかったことにされたのだと判断しました。

つまり、乗っていないはずの女性が、オービスのカメラにだけは写ってしまったということ。

そう考えると、私の同級生が見たという助手席の女性も、もしかしたらこの女性のことだったのかもしれません。

一体あの女性が誰なのかを探るのは、そもそも無理があるし、何より気味が悪いので、それ以上深追いすることはありませんでした。

ただ、程度の割に異常に安かった車が妙に心に引っ掛かり、この後すぐに手放しました。

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