体験場所:青森県 自宅
これは私が青森県の自宅で実際に体験した話です。
私には小さい頃からいわゆる霊感と呼ばれるものがあり、それはおばあちゃんからの遺伝だと聞いていました。
葬式や法要でお寺に行くと、モヤッとした影のようなものが見えたり、車を運転していると人ではないものが目の前を横切ったり、お盆の時期お墓に行った時などは、明らかに霊としか呼べないようなものを見ることもしばしばで、それが私の日常でした。
普段からそのような感じなので、あまり細かい怪異までは気にも止めていなかったのですが、中には幾つか怖い体験もあったんです。そんな体験の中の一つです。
一週間の中で唯一旦那が休みの日曜日、私たちはいつも通り子供を連れてデパートに出かけました。
そのデパートに向かう途中で、私たちは道路に横たわっている一匹の狐の死骸を見たんです。
私が住むその地域は今でこそ道路が走り車が行き交っていますが、昔は山や森しかないような場所で、今でも猿や熊が出ることも珍しくなく、歩道を野ウサギが歩いていたりする土地柄です。
なので車に轢かれた動物の死骸を目にすることも珍しくないのですが、やはり見てしまうと可哀想に思うものです。
その日も自分が思っている以上にその狐に同情してしまったのでしょう、だからあんな怖い体験をすることになってしまったのだと思うのです。
その日の夜のこと。
当時は下の子がまだ産まれていなかったので、いつも通り親子三人、川の字で横になって寝ていました。
夜中の1時頃。
子供はスースー寝息を立てていて、その両隣で私も旦那も携帯で漫画や動画を見ていた時でした。
『ティティティティ~♪』
旦那のすぐ後ろにあった押し入れの中から、オルゴールの音が聞こえたのです。
押し入れの中にはかれこれ15年ほど放置している雛人形が入っています。
恐らく音は、その雛壇に飾るオルゴールがワンフレーズだけ鳴ったようなのです。
怖いのが苦手な旦那は直ぐに飛び起きてアウアウ言って怯えていました。
私はというと、至って冷静でした。
というのも、オルゴール等の機械は気温の変化で勝手に音が鳴ったりすると以前ネットで見たことがあったので、多分そのせいだろうと思ったのです。
なので私は特に気にせずそのまま眠ろうとするのですが、でも旦那の方は気になって眠れなくなってしまったようで、中の雛人形を確認しようと言ってきかないのです。
普段は何があっても呑気にしている旦那ですが、その時だけは気が気じゃない様子で、青い顔して怯えていました。
「しょうがないな~」
そう言って、私は押し入れを開け、中から雛人形が入っている箱を引き摺り出しました。
そして箱の隙間に指を引っ掛け開封しようとした時、一つ気が付いたんです。
箱の隙間から何かの毛が出ていることに…
引っ掛けた指で上蓋を少しだけ持ち上げ中を覗き込むと…
暗い箱の中には、尋常じゃなく髪の毛の伸びたお雛様がいました。
しかも、その長い髪の毛のところどころに、薄茶色い動物の毛のような綿上のものが混ざり込んでいます。
(あ、これはやばいやつだ。)
そう思った瞬間、背筋がゾワッと粟立ちました。
ですが、これ以上旦那に騒がれるのも嫌で、
「大丈夫みたい。」
と一言だけ言って、すぐに蓋を閉じ、一旦私だけ部屋を出ました。
その夜、旦那にはあれこれと理由をこね、三人で別の部屋に移動して寝ることにしました。
怖くてほとんど眠れなかったのを覚えています。
違和感が残っていたのでしょう、旦那も眠れなかったようで、明け方まで携帯の光が漏れていました。
次の日の朝、同居する母に理由を説明し、お雛様が入った箱の中を調べてもらったんです。
母がゆっくりと箱を開け、中に手を入れ人形を取り出している様子を、私は見ないようにしながらも横目で追っていました。
するとチラッと視界の端に、お雛様の顔を捉えてしまったのです。
そこにいたお雛様の髪は、以前と同じ、綺麗に整えられた髪の毛でした。
(もしかして、昨晩は私が寝ぼけて見間違えたのかしら…?)
そう思った矢先、
「これ、何かしら?」
そう言って、母は箱の中から何かを取り上げました。
それは、薄茶色い動物の毛のようなものの束でした。
昨晩私も見た、それは長く伸びたお雛様の髪の毛に絡みついていた毛でした。
昨夜の恐怖がじわりと甦ってきたのですが、一つ気になる事があったので、その毛を袋に入れ、まだ日が高いうちに私は車を出しました。
行先は知り合いの獣医のところでした。
その薄茶色い毛は、一体何の動物のものなのか調べてもらおうと思ったのです。
突然の来訪や訳の分からない依頼にもその獣医は快く答えてくれ、持ち込んだ毛をあれこれと調べてくれました。
そして獣医が下した結論は、
「これは狐の毛だねぇ、飼ってるの?」
(やっぱり…)と思いながらも、
「飼ってません…」
とだけ私は答え、昨日、道路に横たわっていた狐の死骸のことを思い返していました。
死んでいる動物のことを可哀想だと強く思うと、その心に霊が付け込むという話は聞いたことがあります。
きっと道路で轢かれていた狐に、私が強い思いを抱いてしまったのが原因で、憑いて来てしまったのでしょう。
それからというもの、私は動物の死骸があっても気が付いた時点で、見ないように、または考えないようにしています。
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