体験場所:岐阜県S市
これは私がまだ高校生だった頃に体験したお話です。
当時、岐阜県S市に住む高校3年生だった私は、高校最後の夏ということもあり、遊びたい気持ちで一杯だったのですが、直前の模試の判定がとても悪かったため泣く泣く家に閉じこもり、毎日受験勉強をしていました。
ある日の夜、勉強が煮詰まって手が止まってしまった私は、気分転換に外に出てみることにしました。
ここ数日の間ずっと自分の部屋に閉じこもっていたので、外の空気がとても気持ちが良く、活気が湧いて来た私はそのままの勢いでランニングすることにしました。
中学の頃は運動部に所属していたものの、高校に入ってからは運動とは無縁だったので、久々に全身を血が巡る感覚を味わって、気分が良くなったことを覚えています。
久々に勉強のことを忘れられたせいか、そのままランニングに夢中になってしまい、気が付いたら家から5㎞程も離れた場所まで走っていました。
(さすがに走りすぎたか…そろそろ引き返そう。)
そう思って立ち止まり、軽く呼吸を整えた後、私は元来た道を引き返そうとしました。
その時、真っ暗闇な景色の向こうから(正確には少しだけ街灯はあったけど…)、何か小さな物がこちらに向かって来るのが見えました。
(何だ…まさか心霊現象か!?(笑) )と冗談半分に思ったけど、それも束の間、やって来たのはただの「子犬」でした。
私は犬のことはあまり詳しくはありませんが、パッと見た感じ柴犬のような…でも少し違う、いわば雑種でしょうか?とても愛嬌のある子犬で、尻尾をパタパタと振りながらこちらに駆け寄って来て、私の足元をぐるぐると周って行ったり来たりしています。
私がそっと手を差し出すと、警戒もせずその手をペロペロ舐めてきて、とても可愛い子犬でした。
(すごく人に慣れている子犬だな…どこで飼ってる犬だろう?)
と思ったのですが、よく見てみるとその子犬は首輪を付けていませんでした。
(野良犬にしてはずいぶん人に慣れている様子だけど…)
うまく言えませんが、その時、何か腑に落ちないというか、何とも言えない違和感を感じました。
そんな風に目の前の子犬について一人で色々勝手に考察していると、突然その子犬が向こうに向かって走りだしました。
私はその場に突っ立ったままその様子を見ていると、子犬は何メートルかしたら立ち止まり、少しだけ私の方に近づいて、また何メートルか向こうに走る、というのを繰り返していました。
「こっちに来て!」
まるでそう言っているかのように見え、私はその子犬の後を追ってみることにしました。
すると子犬は、やはり私に来て欲しかったのでしょう。
私が追いかけて来るのを確認すると、どんどん先に向かって走り出しました。
何分か追いかけましたが、子犬は何度かこちらを振り返るだけで、一向に止まってくれる気配がありません。
(いったいどこまで行けば良いんだよ…)
少しイライラして来た私は、隙をみて逃げ出してやろうかと思いました。
すると突然、子犬は誰かの所有地であろう敷地の中に入っていきました。
(やっと到着したか?)
と思ったのですが、私もその敷地に入った途端、何故か子犬の姿がどこにも見当たらなくなってしまいました。
とりあえず子犬がいないと何をすれば良いのかも分からないので、私は子犬がどこに居るのか探すことにしました。
ところが、辺り一面どこを探しても子犬は見当たりません。
(どういうことだよ…用があったんじゃなかったのか?)
と思いながら、しばらく探し続けてみたのですが、やっぱり子犬の姿は何処にもありませんでした。
他人の敷地だし、あまり長居はしたくなかったのですが、このままでは後味が悪いので、最後にちょっとだけ奥の方も確かめてみようと、敷地の奥の背の高い雑草が生い茂っている場所に向かい、草を少しかき分けてみました。
そこで、ようやく子犬を見つけたんです。
ただ、その子犬は………
ダンボールの中で丸くなって、目をつぶっていました。
死んでいました。
それも死後何日かは経過していたのでしょう。
死骸は傷んでいました。
傷んでいるとはいえ、その死骸はさっきまで私にすり寄って来ていたあの子犬であることは、容易に理解できました。
ですが、その状況を受け止め切れず、同時に血の気が引いていくのを感じた私は、怖くなってその場を走って立ち去ってしまいました。
翌日になって、一応、市の職員に連絡はしておきましたが……
後から知った話ですが、その土地はペット霊園の建設予定地だったらしく、周辺の住民との間で大いに揉めて、計画が一時ストップしていたようです。
あの時は暗闇で見えなかっただけで、「ペット霊園建設反対!」という抗議の看板が大量に建てられている場所でした。
結局あの子犬が野良犬だったのか飼われているものだったのかは分からず終いでしたが、ダンボールに入れられていた辺りを鑑みると、人為的にあの場に捨てられていたのは確かでしょう。
ですが、なぜ子犬をペット霊園の建設予定地に捨てたのでしょう?
飼い主は、あの土地がペット霊園になることを知った上で子犬を捨てたのでしょうか?
だとすると、その飼い主は、あの子犬が誰にも拾われぬよう、始めから霊園のお世話になることを目的にあの場に捨てたのでしょうか?
今となっては憶測に過ぎませんが、後味の悪い、色々考えさせられる体験でした。
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