体験場所:埼玉県T郡 某キャンプ場
私が小学校3年生の時の話です。
私の家族は毎年8月の終わりに埼玉県のT郡にある某キャンプ場に、二泊三日で泊まりに行く事が恒例となっていました。
何年も同じキャンプ場を利用していたので、勝手知ったる使い慣れた場所でした。
それに広いキャンプ場でしたが、8月も終わる頃の利用だったので、いつも私たち家族しか宿泊客はおらず、毎年のびのびと使わせてもらっていました。
その年も、私たちの家族しか宿泊客はおらず、父、母、私、弟でバンガローに泊まり、夜遅くまでバーベキューを楽しんでいました。
夜10時を回った頃、「そろそろ寝ようか。」と母が言い、母と一緒にバンガロー近くのトイレへ行くことにしました。
トイレは普通の公園などにあるような男女別の木造のトイレで、まだ新しい公衆トイレでした。
女子トイレは個室が三つで手洗い場が二つ。
鏡もついていて、キャンプ場の外トイレといっても衛生的で使いやすいものでした。
母と弟と一緒にトイレまで歩いて行くと、弟が一人で男子トイレに入るのが怖いと言うので、母は弟に付いて男子トイレの方へ行ってしまい、私は一人先に女子トイレに入り用を済ませることにしました。
女子トイレに入ると、なぜか一番奥のトイレのドアが閉まっていました。
「私たちしかいないはずなのに、おかしいな?」
と思いつつも、キャンプ場の経営者家族もこのトイレを利用していたので、あまり疑問に思わず、私は一番手前のトイレに入りました。
用を足しトイレを出ると、まだ一番奥のドアが閉まっています。
このあたりで何となく(怖い…)と感じたので、奥の方を見ないようにして出ようと思いながら、蛇口を捻って手を洗っていると…
『かちゃっ』、と鍵の開く音がしました。
キャンプ場の管理人の奥さんであれば、知り合いなので挨拶をしようと思い待っていたのですが、なかなか出てきません。
(おかしいな?)と思っているところに、ちょうど弟のトイレを済ませた母が戻って来ました。
母が用を済ませるまでトイレの前で弟と一緒に待っていると、3分くらいして母だけが出てきました。
恐る恐る母に、「一番奥、誰か入ってなかった?」と聞くと、「入ってないよ。誰もいなかったでしょ?」との返事。
(絶対誰か入っていたのに・・・)
と思うも、怖くて中には戻れませんでした。
その後、三人でバンガローに戻って寝たのですが、朝方4時頃、またもやトイレに行きたくなって目が覚めた私は、不安を覚えつつも一人でトイレに向かいました。(付いて来て欲しかったので母にも声を掛けたんですが、「もう三年生なんだから」と怒られてしまいました。)
トイレに着くと、全部のドアが開いていて一安心。
先ほどと同じ一番手前のトイレに入って用を足していると、
『ギーッツ…カチャっ』
トイレのドアが閉まる音と、鍵がかかる音がしました。
(誰か、入ったよね…)
夏場の朝方とは言えまだ暗い中、ましてや今度は一人きり。
あまりの恐怖と緊張に耐え切れず、(もう手も洗わずに外に出よう)と心に決め、トイレから出ようとした次の瞬間、
『ギーッ、カチャッ』
・・・トイレを開けて、誰かが出る音がしました。
その誰かと鉢合わせになるのも嫌だったので、私はトイレから出ることも出来ず、そのままその誰かが立ち去るのを待つことにしました。
しばらくすると、『ジャー』っと水道で手を洗う音がします。
人の気配もするし「やっぱり管理人さんだったのかな・・・」という気持ちが強くなってきました。
少し安心したのですが、でも、どうも様子がおかしいんです。
手洗いが長いんです。
1、2分たってもなかなか水が止まらない。
「おかしいな・・・・」と思い始めたその時、
「ドンドンドンドン!!!」
私の入っているトイレのドアが力いっぱい叩かれました!!
恐ろしいよりびっくりしてつい「入ってます!」と返事をしてしまいました。
その時・・
「〇〇!!」
と、私を呼ぶ母の声が公衆トイレの外から聞こえてきました。
(お母さんだ!!)と思い、すぐにでもトイレから飛び出したかったですが、
(ドアの前には、今ドアを叩いた誰かがいるはず…)
そう思うと、トイレから出られず、そのまま固まっていました。
どのくらい経ったのか…
窓から差し込む光で空が明るんできたのが分かったので、そーっとトイレから出てみると、
…そこには何もいませんでした。
ただ水道の水は出たまま、なぜかトイレの床も濡れていました。
すぐにバンガローに戻り、その後は何事もなくキャンプを終えて無事に家路につくことができました。
ただ、一番恐ろしかったのは、家に帰る途中の車内で、母に、
「朝、トイレまで迎えに来てくれたのに、出て行かなくてごめんね」と言うと、
「え?迎えになんて行ってないよ?」
と言われたこと…
もし、ドアを叩かれたあの時、母の声に誘われるように出て行ってたら、私はどうなっていたのでしょうか…
今思い出しても背中がゾクリとする思い出です。
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