体験場所:静岡県静岡市
これは私が中学生の時、私の友人が実際に体験した話です。
私の友人のSさんはとても明るく、人柄の良い女の子でした。
挨拶もきちんとするので、近所の評判もとても良かったです。
それは、夏の終わりを感じる涼しい日のことでした。
部活帰りの夕方、友だちと別れたSさんは一人、家まであと少しという下り道に差し掛かりました。
お寺とお墓を通り過ぎると公園が見えて来るその下り道は、普段から人通りが少ない静かな道でした。
実際にその時も、Sさんの他に歩いている人は見当たりませんでしたが、それが普段と変わらない光景でした。
静寂の中、しばらく1人で歩いていると、唐突に、前方からこちらに向かって歩いて来る人の姿が目に入ったそうです。
(あれ?いつの間にいたんだろう?)
そんな気もしたそうなのですが、よく見ると近所に住んでいる知った顔の、杖をついたおじいちゃんだったのでホッとしたそうです。
静かな夕方だったからでしょうか、いつもよりコツコツコツコツという杖の音が耳に残ります。
気のせいか、お互いに向きあって歩いているにも関わらず、なかなか距離が縮まらない感じがしたそうです。
ですが、どう見てもやっぱり近所のおじいちゃんだったので、Sさんは微妙な違和感を特に気に掛けることもなく、おじいちゃんと行き交わす際に普段通りに挨拶をしました。
おじいちゃんもいつも通り会釈を返してくれたそうです。
そのまま家に帰り、いつも通り夕食の時間になりました。
Sさんはお母さんの夕食の準備を手伝いながら、学校での出来事など、たわいない会話をしていたそうです。
そんな時、ふと、帰り道で会った近所のおじいちゃんの姿が思い浮かんだそうです。
「そういえば、さっき帰り道で、杖を突いたあのおじいちゃんを久しぶりに見たよ。挨拶をしたら会釈も返してくれて、まだまだ元気そうだったな~。」
と話していると、夕食の準備をしていたお母さんの手が止まっていることに気がつきました。
しばらく間が開いた後、お母さんはSさんの方を振り向いて、
「杖のおじいさんって、〇〇のおじいちゃん?」
と聞き返してきました。
「え??そうだよー??」
と、当たり前でしょと言わんばかりにすぐに返答したそうです。
するとお母さんは、
「何言ってるのよあんた。〇〇のおじいちゃんは1週間前に亡くなって…あんたにも言ったじゃない。」
そう言うのでした。
(言われてみれば、そんな話しを聞いた気がする…)
そう思ったSさんは、
(じゃあ、今日会ったおじいちゃんは・・・)
と、一気に背筋が凍り付いたそうです。
後日、この話をSさんが私と友人たちに話してくれた時、友人の1人がSさんを気遣ってくれたのか、こんなことを言いました。
「おじいちゃんは、Sちゃんに最期の挨拶をしに来てくれたのかもしれないね。」
その一言で、Sさんのモヤモヤも解消したようでした。
でも、私は思うんです。
本当に、その近所のおじいちゃんは、Sさんに最期の挨拶に現われたのでしょうか?
もしかしたら、おじいちゃんは自分が死んだことに気付かないまま、今も近所を散歩していただけなのではないでしょうか?
それとも、亡くなってしまったおじいちゃんは、坂の上にあるお墓に向かっていただけなのではないでしょうか?
どういった理由でおじいちゃんがSさんの前に姿を見せたのか、本当のところは分かりませんが、当時中学生の私たちにはとても怖くて不思議な話であったため、今でも鮮明に覚えています。
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