体験場所:愛知県N市 Y山
これは僕が専門学生だった時の話です。
真冬のある日、僕は同じ専門学校に通っている地元の友人達(男4人、女1人)と遊んでいました。
夜も大分遅くなり、時刻は夜中の1時を過ぎた頃、友人の一人が「山に登って夜景でも観に行こうよ!」と言い出しました。
この辺で夜景が見える山と言ったら、地元愛知県N市のY山でしょう。
そこまで大きな山ではないのですが、地元の人なら誰でも知ってる山です。
頂上には展望台のような場所があり、そこから見る街の灯りはとても綺麗で、地元では定番の夜景スポットでした。
他に予定もなかった僕たちは、夜中の高揚感が背中を押したこともあって即決でY山を目指すことにしました。
目的地までは車ですぐでした。
頂上までも車で行けるのですが、やはり夜中の妙なテンションもあってか僕たちはあえて道の途中に車を止め、そこからみんなで歩いて頂上を目指すことにしました。
ポツポツと何気ない会話をしながら頂上目指して歩いていると、歩き始めた頃には気にならなかった寒さが、頂上に近付くに連れ次第に気温が下がり、気付いた時には少々きつい寒さになっていました。
すると突然、頂上から1人、小学校低学年くらいの男の子がこちらに向かって駆け下りてきました。
僕たちは突然のことに驚きました。
こんな真冬の山奥で、深夜、小さな男の子が一人で山を駆け下りて来る光景も異常なのですが、もっとおかしいのはその子の風貌です。
辺りは僕たちが冬用の上着を羽織っても我慢できないくらいの寒さだと言うのに、その子の格好は半袖半ズボン。肌は異様に真っ白く、目元が見えないくらいのマッシュルームヘアー。
そんな異常な出で立ちの男の子が突然山の上から1人で駆け下りてきたかと思うと、驚いて呆然とそれを眺めている僕たちグループの真ん中で、その男の子はピタリと足を止めたんです。
不可解な状況に言葉を失ったまま、僕たちは顔を見合わせました。
するとグループの中で唯一の女の子のA子が、
「…どうしたの?お母さん、は?」
と、その男の子に声を掛けました。
すると男の子はスッとA子の顔を指差し、
「おねえちゃんの顔、なんで半分がグチャグチャなの?」
と言いました。
僕は背筋が凍り付きました。
周りの友人たちも同じだったのでしょう、その異様な様子に誰もが言葉を失っていました。
すると男の子はまた唐突に走りだし、1人で暗い坂道を下って行きました。
(今のは何だったのか…)
僕たちは放心状態で立ち竦んでいると、A子の泣き声が聞こえてきました。
先ほどの男の子の言葉にショックを受け、怯えて泣いてしまったようでした。
みんながA子に「大丈夫だよ。気のせい、なんもない。」と口々に声を掛けるのですが、A子の震えは止まりません。
「もう帰ろう…」
そう言って、僕たちは車に戻りました。
家に帰り、冷静になり考えてみたら、やはりこの時期この時間のこの寒さの中で、小さな男の子が一人、半袖半ズボンで山から駆け下りて来るなんて絶対におかしい。
そう思って、H山について色々調べてみたところ、以前その山で、男の子が行方不明になった事件があったことを知りました。
その事件と僕たちが見た男の子との間に、何か因果関係があるのかは分かりませんが…
次の日、A子に連絡しましたが、やはりまだ情緒が安定していない様子だったので、その日はそっとしておきました。
それから2日が経ちました。
学校に向かう電車の中、いつもなら同じ車両に乗っているはずのA子姿は、その日もありませんでした。
やはりまだ体調が優れず学校を休んだようでした。
気になってA子に連絡をしてみたのですが、返信がありませんでした。
流石に心配になり、次の日の学校帰り、みんなでA子の家に行ってみました。
すると家の中からお母さんが出てきて、A子は今部屋で寝ていると告げられました。
「命に係わることではないから…」
そう言われ、僕たちもとりあえずは安心したのですが、続けてお母さんからこう告げられました。
「でも、なぜかA子の顔の左半分が麻痺を起こしているの…後遺症も残るかもしれない。」
それを聞いて僕たちは言葉が出ませんでした。
そう、あの日、男の子がA子の顔を指差し言った言葉、
「おねえちゃんの顔、なんで半分がグチャグチャなの?」
それは、この状況を暗示していたのか、それともあの言葉がこの状況を引き起こしたのか、正直どちらなのかは分かりません。
病院の診断でも、A子の症状の原因は分からないとのことでした。
ですが、僕たちはあの時の得体の知れない恐怖と共に、A子に対する何かモヤモヤした罪悪感のようなものを感じていました。
その後、A子は学校に普通に通える程に元気も出ました。
ですが、今もなお、笑うと顔の半分は上手く動かないそうです。
あの男の子は一体なんだったのか?
過去の行方不明事件と関係があるのか?
何も分からないままです。
ただ分かるのは、誰も言葉にはしませんが、僕たちの誰一人として、今後Y山に行く事は二度とないと思います。
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