体験場所:群馬県の自宅
これは私が群馬県の実家に住んでいる頃に体験した不可解な出来事です。
ある夏の日だったと思います。
休日だったこともあって私は昼前に起床しました。
リビングへ向かうと、家の外から父がずっと何かを叫んでいました。
(いつものように外飼いの猫とじゃれているのだろう…)
そう思って「それにしても猫が好きだね~」なんて、既にリビングにいた母と妹とのんびり話していると、外で叫んでいた父が荒っぽい声を上げながら玄関を開けたのです。
「どうしたの?」
と聞く前に、
「おい!なんの用だって言ってるだろ!」
と言って、普段温厚な父が少々苛立ちながらリビングに入ってきました。
私は面食らいながらも、父を宥めつつ、落ち着かせてから話を聞きました。
すると父が言うには「家の中から母さんが呼んできたから『日曜大工で今、手が離せない』と大声で返事をしているのに、それを無視して母さんがずっと俺のことを呼び続けるから、痺れを切らして怒鳴ってしまった」とのことでした。
でも、母はずっとリビングで私と妹と話をしていました。父が叫んでいる間もずっと。
私たち姉妹も外まで届くような大声を出した覚えはありません。
「最近、歳とって耳が遠くなってるから、猫の鳴き声でも聞き間違えたんじゃないの?」
と冗談交じりに父を宥め、その場は笑い話で落ち着いたんです。
その夜のことでした。
私が自室で本を読んでいると、リビングから私を呼ぶ声がしたんです。
私の名前を呼んでいるかはハッキリとは分からないのですが、家族内で自室を持っているのは私だけで、リビングから大声で呼ばれるとしたら私の他にはいないのです。
「は~い」と間延びした返事をし、何の用だろうと本を閉じる間もずっと呼ばれ続けます。
普段なら一度返事をすれば私が行くまで待ってくれるのに、なぜかこの時はずっと呼ばれ続けるので、ふざけているのかと思い「分かったよ!今行くから待って!」と大声で返しました。
それなのに、まだ私を呼ぶのを止めようとしないんです。
それどころか、声は私を急かすように更に大きくなり、遂にはその声に私も腹が立って「そんなに呼ばなくてもいいじゃん!何!?」と声を荒げながらリビングの戸を開けました。
そこには、うたた寝している妹と、こちらを見て目を丸くしている両親がいました。
私自身、普段は怒ったりすることが滅多にないので、そんな私が声を荒げていることに両親が驚いているのだと思い「返事したのに…ずっと呼んでくるから…」と、少しバツがわるそうに伝えると、両親は顔を見合わせてから、
「誰も呼んでないよ…?」
と、不思議そうに言うのです。
「そんなはずない!ずっと呼ばれてた!リビングからこっちに向けて声がしてた!」
そう説明しても、両親はずっとテレビを見ていて、妹は少し前から寝入っていると言います。
むしろ私が大声で返事をしているのを聞きながら(誰かと電話でもしているのだろう)と思っていたと言うんです。
(絶対におかしい…)そう思いながらも「用がないならいい!」とリビングを出て、気持ちを落ち着かせながら自室に続く廊下を歩いていた時、私のすぐ後ろ、耳からほんの数センチくらい後ろから、
「…おいで」
と、か細い女性の声が聞こえたんです。
ゾっとして反射的に振り向いたのですが、そこには誰もいませんでした。
鳥肌が立ちました・・・
(まさか私が怒っているこんなタイミングで、家族が誰か悪戯しているのか?)
(でも、あんな細くて高い声が出せるのは妹くらいしかいない…)
(その妹は寝ていたし、それにあんな耳元で聞こえるなんて絶対におかしい…)
頭の中が混乱し、緊張で脈打つ心臓を抑えながら、家族の様子を見にリビングに駆け戻りました。
「今度はどうしたの…?」
と不安気に声をかけてくる母と、その様子を心配そうに見つめる父、そして相変わらず寝息を立てている妹。
そこでハッキリと分かりました。
今さっき、あんな至近距離から私の耳元で囁くことができる『人間』なんて、ここにはいないんです。
(それじゃあ誰が…?)
そう考えた時、ハッとしました。
今日の昼前、父を呼んでいたのはこの声だと…
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