体験場所:奈良県U市 某小学校
私が小学生の時のお話です。
私が通っていた小学校にはウサギ小屋があって、中には2匹のウサギがいました。クリーム色と黒っぽいウサギでした。
下校時にはウサギ小屋の前を通るので、私はウサギたちの様子を見てから帰るのが日課になっていました。
今思うと、私以外の子は誰もウサギのことを見ていなかったし、うさぎについて話している子もいなかったような気がします。
その日も私はいつものように下校時にウサギを眺めながら、
「かわいいねえ~仲良しだねえ~」
とか話しかけていると、校舎の方から担任の先生がやって来るのが見えました。
「moonさん(私)、何してるの?」
と聞かれたので、正直に、
「ウサギさん見てるんだよ?私ね、動物大好きなの~」
と話すと、先生が困ったような顔をしました。
(もしかして、勝手に見ちゃダメだったかな?でも、餌とかあげてないよ…?)
子供ながらにそんな事をぐるぐる考えていると、先生が言いました。
「moonさん、うさぎさん、どこにいるの?」
(…おかしなことを聞くなぁ?)そう思って、
「あの子たちだよ。ほら…」
と指を差すと、さっきまでいたはずのウサギさんたちがいなくなっていました。
「あれ?いない…先生、どうしよう!逃げちゃった?追いかけないと!!」
そう言って慌てる私の頭を先生は数回撫でた後で、少し怖い顔をして言いました。
「moonさん、いい?ここにウサギはいないの。」
意味が分かりませんでした。
だって、私は確かに毎日見ていたんですから。
その後の記憶は少し曖昧なのですが、翌日からウサギ小屋に行っても、再びウサギさんが姿を見せてくれることはなかったと思います。
ただ、その頃から学校でおかしな噂が流行りました。
それは『あぶらっこさん』というお化けの噂です。
なんでも、あぶらっこさんは相手に好感を持たれるような見た目をして現れるそうなのですが、もしそれと一緒に遊んでしまうと、その人はそのままあぶらっこさんに取り込まれてしまうそうなのです。
そんな怪談話をそれまで聞いたこともありませんでしたし、『あぶらっこさん』という名前の由来や、そもそも誰が見たのか、話の出所も全く分からない噂話でした。
当時の私もその噂を聞いて「そんなのがいるのかぁ。変なの。」くらいにしか思いませんでした。
ですがその日の学校帰り、ウサギ小屋の前を通った時、ふと思ったんです。
「もしかして、あのウサギさんたちって、あぶらっこさんだったのかな?」
そう考えた途端に少し怖くなって、家に帰ると直ぐにそのことを祖母に話しました。
すると祖母がこんなことを言いました。
「あんた最近までたまに、今日あぶらっこさんと遊んで来たって言ってたじゃない。私はそれがウサギさんの名前だと思ってたけど、違うの?」
意味が分かりませんでした。
私はそんなこと言った覚えもなければ、『あぶらっこさん』という名前だって噂で初めて聞いたのですから。
でも、もしかして本当にウサギさんがあぶらっこさんだったとしたら、私は一瞬でも取り込まれていたのかもしれない。そうだとしたら、もしかしてあぶらっこさん自身が私を使って『あぶらっこさん』の噂を広めていたのかもしれない。
何のために?目的が分からない分よけいに気味が悪くて、何だかすごく怖くなってしまい、それから私はウサギ小屋に近付くのをやめたんです。
数年後、私は家庭の事情でその小学校を転校したので、その後『あぶらっこさん』の噂がどうなったのかは分かりません。
今でも私の記憶には、ウサギと過ごした思い出が確かに残っています。
もしも今、再びあぶらっこさんに出会ったとしたら、今度こそ取り込まれてしまうのでしょうか?
可愛かったウサギのことを思い出すと、怖いけど、少し会いたいような…でも、やっぱり会いたくないような…
そんな不思議な体験でした。
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