【怖い話】都市伝説|短編「天井様」山形県の某集落で噂される実話怪談

【怖い話】都市伝説|短編「天井様」山形県の某集落で噂される風習・奇習
投稿者:梅島 さん(40代/男性/会社員)
体験場所:山形県の某集落

僕の生まれた山形の小さな農村の風習を紹介します。

その集落は海に面していない上に、高速道路や新幹線の駅からも大分離れていたため、人の流入が少なく、そこに住む人の大半は何代も前からその地に根付いた農家ばかりでした。
外から入ってくる人といえば、東京に出稼ぎに出た者が、時どき連れて帰って来る嫁さんくらいのものです。

集落の家と家の間は農地や田畑が多いため、お隣さんへ回覧板を回し行くにも自転車を使うような田舎でしたが、なんでも人が住み始めてからの歴史は古く、平安時代には土着の住民がいたと聞きます。

そんな農村にまつわる風習を両親から聞いたのは、僕が14歳になって間も無くのことでした。

集落の外れに小さな森がありました。
森と言っても、上から見るとちょうど東京ドームと同じくらいの大きさで、森としては本当に小さなものなのですが、その森のちょうど真ん中辺りに、『天井(てんしょう)様』という神様を祀った小さな祠があります。

その祠に行くには、獣道とも分からない程度の僅かに人が踏み分けた跡を通るしかありません。知らない人なら見落としてしまうような道です。そんな、他所から来た人には絶対に分からないような場所に、ひっそりと天井様は祀られていたのです。

天井様のお世話をする係は、代々この集落に住んでいる安倍家(仮名)と決まっていました。

安倍家の人間以外は、この森へ入ることすら許されていません。
ですので、僕も実際には足を踏み入れたことがないのですが…

僕が子供の頃から、この森について不思議に思っていたことがあります。
時々、夜になると森の中から、呪文やお経のような聞いたこともない言葉と、お囃子のような和楽器の音が聞こえてくることがありました。それが決まって新月の夜だったんです。

スーパーやコンビニがある町まで車で20分以上かかるような田舎ですから、夜になると、特に新月の夜なんかは集落は真っ暗です。なので全く光のない新月の夜、外から見る森は闇そのものでした。

そんな夜の森にどうやって入り、どうやって楽器を奏でているんだろうと、なんだか人以外の何かの仕業に思えて、恐ろしく感じた記憶があります。

少し話が反れましたが、14歳になったばかりの中学生の僕に、神妙な面持ちで両親が話してくれたのは、森に祀られる天井様と、その世話係の安倍家についての事でした。

安倍家には小さな男の子と、そのお姉ちゃんがいることを僕は知っていました。二人が学校に通っていないこともです。

時々、和服を着た男の子が家の外でトンボを追いかけていたり、お姉ちゃんと遊んでいるのを見かけました。
学校へ通っていないのは、きっと病気か何かで体が弱いのだろうと、僕は勝手に思っていました。

でもその日、父から聞いたのはこんな話でした。

父「あの子はね、生まれた時から天井様へお仕えすることが決まっているから、学校へも行かないし、他の子達とも遊ばないんだよ」

今時そんな理由で学校に通わないなんてことがあるのだろうかと不思議に思いましたが、森から聞こえるお囃子のことを思い出し、伝統芸能のようなものかもしれないし、その稽古や何かが大変なのだろうと、無理に自分を納得させようとしていました。

ですが父から聞く話は、それとは少し違っていました。

父「天井様にお使えする子はなるべく外の人と関わってはいけないんだ。穢れてしまうと、天井様が降りて来てくれなくなってしまうからね」

僕は「それって、迷信にこじつけた虐待…」と言いかけたところで、母が割って入りました。

母「天井様にお仕えする子は特別なの。今の常識で考えちゃいけない大事なお役目があるのよ。もし天井様に呼ばれなかったら、あなたもここに居なかったんだから」

(天井様に呼ばれなかったら、僕はいなかった…?)

母の言う言葉の意味が、僕には全く分かりませんでした。

そんな僕の思いを知ってか知らずか、構わず父と母の話は続き、話題はこの集落の歴史に移っていきました。

この集落は古い街道からも外れていて、人の流入が少ないのは昔から変わらないそうです。

それに集落には独特の方言もあったため、若者達が都会へ出てもなかなか馴染めず、結局集落へ戻って農業を継ぐ者が多かったと。

そのため何代も何代も近親婚が繰り返され、江戸時代の頃には健康な子供が生まれない時期が続いたそうです。このままでは村は滅びてしまうと村人達が嘆いていた時、安倍家に待望の健康な男子が生まれてきたのだそうです。

父「その子は3才の頃からあの森に一人で入るようになってな。なんでも『テンショウ様によばれとるんじゃ』と言って裸足のまま森の中に入って行ったそうだ。裸足なのに怪我もせずスイスイと森を歩くその子に、やっとのことで父親が追いついたのは森の真ん中辺り、そこに「石像」があった。その石像を祀ったのが、今の天井様だ。」

それ以来、安倍家の代々にだけ、天井様をお招き出来る男の子が生まれるようになったそうです。

そして、僕が更に驚いたのはここからでした。

父「安倍家には代々天井様をお招き出来る男の子と、あと女の子が一人生まれて来るんだがな。男の子の方が新月の夜に天井様を森からお招きになるとな、女の子の方に天井様が降りてくるんだ。天井様が降りた女の子の方はな、この集落で成人した男子、つまり14才になった男子の元へやってきて、その、ええと、あれだ、その…男子の筆おろしをして下さるんだ。いやらしく考えるなよ。大事な儀式なんだから。お前も14歳になったんだろ…」

「…え?…何?…え? え? 」

少しバツの悪そうな顔をしている父の話に、僕が思い切り動揺していると、更に父親はこう続けました。

父「天井様が降りて来てくれるようになってからな、村の者同士で子作りしても、丈夫な子供が生まれてくるようになったんだ。お前が健康で生まれて来られたんのも、天井様のおかげだ」

そう話し終えた父と母が、本気で天井様に感謝しているということが、僕にもひしひしと伝わってきました。

ただ、話を聞き終えた僕の体は、安倍家のお姉ちゃんの姿を思い浮かべて、硬くなりました。

僕が14才になってすぐに両親がこの話を切り出したのは、新月の夜が来週に迫っていたからでしょう。

将来、健康な子供を授かるためとはいえ、あのきれいなお姉ちゃんに手ほどきを受けられるとあって、高揚感で夜も眠れなかったことを思い出します。

ちなみに安倍家では代々、男女の姉弟の間で子作りが行われるとの話で、いずれあの弟さんとお姉ちゃんの間に男児と女児が生まれてくるだろうと聞きました。

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