体験場所:東京都江戸川区の踏切
これは東京都江戸川区にある、私の家の近くの踏切で体験した話です。
その踏切は別段曰くのある様な場所でもなく、問題があるとすれば、左折車と直進車でいつも渋滞しているくらいで、ごく一般的な普通の踏切です。
電車は普段なら10分に一本、朝と夕方には5分に一本ほど通るので、基本的に遮断機が下りる時は毎回数人の歩行者が立ち止まる感じの踏切でした。
ある日のこと、私は子供を連れて自転車で買い物に出かけた途中、その踏切で足止めされてしまったんです。
自転車の前の席に乗っていたうちの子は電車が好きで、踏切で電車が通る度に「でんちゃ!」と、拙い言葉で喋っては指をさしてニコニコ笑うので、いつもは不満に感じる足止めも、子供と一緒のその時はむしろ電車が来るのを楽しみに待っていたんです。
カンカンカンと音を鳴らしながら遮断機が降りて来る中、踏切を挟んだ向こう側に、一人で立っている小さな女の子が見えました。
水色のTシャツに、茶色のショートパンツ、小学校の黄色い帽子と赤いランドセルという服装です。
ごく普通の小学生の女の子なのですが、どこか変なんです。
徐々に電車のガタンゴトンという音が近付いて来ているのに、その女の子は電車の方には全く目を向けず、ずっと正面を向いたまま俯いていました。
普通、踏切を待っている時、大人でも電車が近付いてくると、何となくそちらに目を向けてしまうものだと思います。
でもその女の子は電車には目もくれず、ただぼーっと俯いたまま、微動だにせず立っているだけなんです。
俯いた顔は口元が少し見える程度なのですが、全く表情がないその口は、見ているだけでどこか不安にさせられます。
不思議に思いながらも、私はその女の子から目を離すことが出来ず、どことなく恐怖にも似た感情を覚えながら見続けていました。
電車が近づくにつれ、いよいよ私の胸を嫌な不安がよぎります。
(もしかして…飛び込むんじゃないだろうか?)
ただぼーっと俯いて立っているだけの女の子。
その子と私との間に勢いよく電車が入ってきました。
うちの子はきゃっきゃと笑って電車を指差しています。
そんな微笑ましい光景に一瞬心奪われ、ハッと我に返り前方に目を向けると…
…電車越しに女の子の足元が見えました。
(良かった、飛び込んでなかった…)
電車はいつも通りガタゴトと爆音を響かせ目の前を通過して行きます。
8両編成の電車は通り過ぎるのにいつも5秒ほどかかります。
近くの駅から電車の到着を知らせるアナウンスが聞こえ始めた時、電車が完全に視界を通り過ぎました。
子供が自転車から落ちないように注意して添えていた手を放し、再び前を向き直したその時、
女の子の姿が消えいました…
(え!?)
驚いた私は、ゆっくり遮断機が上がっていく中、向こう側の踏切に立つ人たちを一人一人注視したのですが、やっぱりあの女の子がいません…
踏切を渡り左右を何度も確認しましたが、ちょっと私の挙動がおかしかったせいか、他の通行者から怪訝な目を向けられるだけで、女の子の姿は確認できません。
小学校一年生くらいの女の子です。
たとえ、電車が来た瞬間に走り出したとしても、その後ろに背負ったランドセル姿くらいは見えるはずです。
しかし、どこをどう見ても女の子の姿がないんです。
(平日の昼間から、まさか…幽霊、なんて…?)
そう思った時、ある違和感に気が付いたんです。
今は平日の昼間、普通の小学生なら学校に行っているはずの時間なんです。
そんな時間に小学生の女の子が、一人で街を歩いているとは考えずらいのですが・・・
結局、女の子は見つからず、私は妙な引っ掛かりを覚えたまま買い物を済ませました。
家に帰ってからあの踏切のことをネットで検索しましたが、それらしい噂や事故なども見つかりませんでした…
あの女の子は一体なんだったのでしょうか?
見間違いにしては俯いたままボーっと立っている女の子の姿が妙に生々しく、あの不安を駆り立てられる嫌な感覚も忘れらません。
その日以来、私はなんとなくその踏切を使うのを避けるようになりました。
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