体験場所:沖縄県今帰仁村の田舎道
これは、私が高校3年生の時に体験した話です。
誕生日が早いという事もあり、私は友人達の中でも一番先に車の免許を取得しました。
なので、当時は私が運転する車に友人らを乗せ、ドライブやキャンプに出掛けるということが度々ありました。
ある日のことです。
夜中の11時頃、沖縄県北部にある今帰仁村(なきじんそん)という村に住む友人のAから連絡がありました。
「暇なら今からドライブでもしない?面白いところ案内するよ。」
そう誘われ、夜も遅い時間でしたが久しぶりのAからの連絡だったこともあり、私は直ぐにOKし、支度を済ませて車を出したんです。
折角なので地元の友人Bも連れ出し、私たちは二人でAが住む今帰仁村を目指しました。
日付が変わる頃、ようやくAの家に到着しました。
久しぶりの挨拶もそこそこに、私たちは早速Aの案内の元、Aの言う『面白いところ』へ向けて車を走らせました。
沖縄県には戦時中に使われていた防空壕があちこちにありますが、Aが最初に案内してくれる場所も、そんな防空壕の1つだと言うのです。
「道から見える防空壕なんだ。」
それだけ言ってAは得意気にしているのですが、私やBは今一つピンとこないまま、とりあえず言われるがままに車を走らせました。
気付くと私たちは、街灯1つない道をヘッドライトの灯りだけを頼りに走っていました。
「大丈夫かよ…ここ…」
と、私もBも不安に思っていると、突然Aがこう言うのです。
「ヘッドライトを消して。ゆっくりそのまま直進して。」
私は言われた通りヘッドライトを消しました。
月明りも木々に遮られ全く頼りにならず、ほぼ視界は闇となります。
そんな状況下ですが、私たちはAの言葉だけを信じて、真っ暗な道を時速10キロ程でゆっくりと直進しました。
すると急にAが言いました。
「そろそろ止まって。そのままライトをハイビームにしてみて。」
言われた通り車を停車し、暗闇の運転を終え私はホッと一息つきながら、ヘッドライトをハイビームに切り替え点灯しました。
「え!!」
目の前には、ポッカリと大きな口を開けた防空壕がありました。
それは道の突き当りにあり、入り口の真ん中には立ち入り禁止の看板が置いてあります。
その看板ギリギリの位置に私の車は止まっていたのです。
なぜこんな真っ暗闇の中、こんな看板ギリギリの位置で停車出来るようAは指示できたのか、私は不思議に思いました。
しかし、そんなことより、今、目の前にある防空壕の大きな穴、その圧倒的な存在感に私もBも息を飲むばかりで、穴の奥をジッと見つめていると、背筋にゾッと寒気が走ります。
この時点で、Bも同じだったと思うのですが、私は来たことを後悔していました。
そんな私たちの気持ちをAも何となく察知したのか、
「あと1ヶ所だけあるから。そこまで行ったら帰ろう。」
と、私たちが何か言いだす前に焚きつけるように言いました。
私もBも既にかなり怖気付いていたのですが、せっかく久しぶりに会ったAのことも無下に出来ず、言われるがままに案内される道を進む事にしました。
さっきの防空壕から再び暗い道を15分くらい走っていると、道は更に険しい山道となっていました。
私もBも妙な緊張と疲れのせいで口数が少なくなってきた頃、
「そろそろ着くよ」
とAが言うので、
「どこに向かってるの?」
と聞くと、
「火葬場」
Aはケロリとそう答えました。
嫌な気分はさっきの防空壕からずっと続いたままです。
そのうえ今度は「火葬場」に向かっていることを聞かされ、私の心臓がギュッと縮み上がるのが分かりました。
すると、Bもそうだったのでしょう、
「流石にちょっと怖くなってきたし、この後で火葬場はやばいでしょ。今日はもう帰ろう。」
と、引き攣った顔を無理に微笑ませて言いました。
私ももちろん帰りたかったです。
しかし、Aだけがなぜか満面の笑みで、
「これだけ行ったら帰るから。ね、そのまま走らせて。」
そう言うんです。
正直Aがこんなに空気の読めない男だとは思っていませんでした。
私もBもげんなりした気持ちのまま、仕方なく運転を続けました。
するとその直後、
(あはは…)
男の子か女の子かは分かりませんが、明らかに子供の笑い声が聞こえたんです。
私はとっさに助手席のBの方へ顔を向けました。
するとBも同じタイミングで青ざめた顔を私の方に向けたのです。
その瞬間、確認せずともお互いに同じ声を聞いたことが分かりました。
スーッと全身に鳥肌が立つのと同時に、
「やばいやばい!やばいやばいやばいやばいやばい!!」
私もBも我を失ったように完全にパニックに陥りました。
とにかく来た道を戻ろうと、バックしようと後ろを振り向いた時でした。
後部座席にいたAが、目を充血させながら満面の笑みを浮かべ、シートの上を飛び跳ねていたんです。
これは絶対にまずいと思い、直ぐにBが後部座席に回ってAを取り押さえ、私は車を無理矢理Uターンさせて、とにかく灯りがあるところに向けて車を走らせました。
まるでサルか何かのようにシートを叩き、狭い車内で暴れているそれは、明らかに普段のAではありません。
火事場の馬鹿力とでもいうのでしょうか、自分でも驚く程のハンドル捌きで10分くらい車を走らせると、ようやく街の灯りが見えてきたんです。
徐々に窓から街の景色が入るにつれ、ようやく現実に戻れたような気がしてきます。
ルームミラーを見ると、Aも落ち着きを取り戻したのか、いつの間にかBの腕から解放されていました。
街の灯りを心強く感じながら、そのまま少し走ると前方にコンビニが見えてきたので、その駐車場で車を止め、一息ついて私たちは店の中に入りました。
まるで昼間の様に明るい店内の様子に、ようやく私たちは正気を取り戻せた気がしました。
飲み物を買って外に出て、一応一緒に買っておいた塩を開けて3人に撒いていると、Aが笑いながら言うんです。
「何してるの?幽霊でも見たのか?」
それを聞いて、私もBもしばし呆然としてしまいました。
改めてAの話を聞くと、防空壕に着いた直後からの記憶が全くないのだそうです。
ましてや次に行こうとしていた『火葬場』なんて、そもそも行ったことも聞いたこともないと言うのです。
一瞬で、さっきの寒気が戻ってくるのを感じました。
そのまま、誰かがそう言ったわけでもありませんが、3人共それ以上この話をすることを止めました。
あれから随分月日が経ちますが、私は今も時々思います。
あの月明りも差し込まない暗い山道を、私たちは一体どこに向かって車を走らせていたのでしょう?
もしもあのまま『火葬場』に行っていたら、私たちはどうなっていたのでしょう?
これが、私が高校生の時の体験です。
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