体験場所:長野県飯山市 某スキー場
私が大学生の頃、スキーサークルに所属していた時のこと。
毎年2月末に他大学の姉妹サークルと合同合宿を行っていた私達は、その年も例年通り群馬のスキー場で単独合宿を行った後、姉妹サークルのいる長野県のとあるスキー場へ向かった。
そこは標高が高く、山道をウネウネと上がって行くようなスキー場で、周りにはロッジの村々と簡単なご飯屋さんが数軒あるだけ。周囲には信号すらなく、晴れた夜には星が本当に綺麗に見えるほど暗い場所である。
移動日の夜、宿の近辺にある美味しいと評判のご飯屋さんで、姉妹サークルとの夕飯と軽い飲み会を済ませた後、仲のいい者同士、何人かずつまとまって宿舎へ帰っていった。
その日は雪も降っていて、寒いし夜も遅かったので皆早足にザクザクと雪を踏み分けながら宿へ急いだ。
私は飲み会で近くにいた同期のKちゃん、それと先輩のSさんと一緒に話をしながら帰って行った。
後にはお店で最後に会計を済ませた男の先輩たちがいるくらいで、周りにはもうほとんど人がいなかったと思う。
宿への近道になる角を曲がり、雪の積もったテニスコート脇の細道を通って宿へと到着したのだが、不思議なことがその後に起きた。
「えっ、みんな先に帰ってたの??」
私たちの後に帰ってきた男の先輩3人組が、既にサークルメンバーが全員帰ってきているのを見て少し驚いた顔をしてそう言ったのだ。
その先輩たちはご飯のお代を支払った後、最後に店を出て、皆と同じ道を歩いて帰ってきたのだが、宿への近道となる角を曲がったところで後方から足音と話し声がしたから、後ろにまだ他のメンバーがいると思っていたそうなのだ。
因みに、その宿への近道を使う人は同じ宿に向かう者以外には居ないはずである。
そもそも公道ではないその道は、宿の所有するテニスコートの脇を抜け宿舎に向かうだけの道。しかもその夜、宿は私達2つのサークルで貸切状態であり、私たちより先に店を出た姉妹サークルの人達は皆、もう既に部屋で二次会を始めていた。
つまり、そのタイミングであの道を通る人というのは、自分たちのサークルメンバーか、宿のおじさんおばさんかしか居ないのである。
しかし、先輩たちが聞いた話し声は若い人のそれだったようで、宿の方々とは考えにくいと言う。
「…一体なんだったんだ?」
少し気味悪そうにする先輩たちの様子を見て、私たちもなんだか不思議に感じたが、
「…誰か道を間違えた人がいたんじゃない?」
なんて言って、あまり気にしないようにしていた。
しかし翌日のこと。
ちょっと不気味な話を聞くことになった。
私たちより先にこのスキー場で合宿を行っていた姉妹サークルのH君に、昨夜の話をしたところ、H君は少し苦笑いしてからこう言った。
「あの曲がり角にさ、今は真っ暗で雪も積もり放題だけど、比較的綺麗な外装のロッジがあるじゃん?2階に窓が3つあって、真ん中だけ雨戸が閉まってるやつ。あそこさ、先月自殺騒動があったとこらしいんだよね。」
私たちもそうだが、実際に昨夜、誰かの声を聞いたと言う先輩たちの顔色が曇ったのが分かる。
「えっ…?でも絶対あれは誰か人がいたよな?」
と声を上ずらせながら先輩達3人は言う。
するとHは続けた。
「お前らが来る前にもちょっと不思議なことがあってさ。夜中に2階のトイレが使用中でノックしたら返事が返ってきて、仕方ないから1階のトイレ行って済ませたんだけど、翌朝みんなに聞いたら、誰も夜中にトイレには行ってないとか。俺らしかいないのにヤベェなってなったんだよね。」
声も出せずに固まてしまっている先輩たちにHは更に続けた。
「まぁ雪山だからそれなりに出るかもしれないし、お前らが聞いた声とか足音、それにトイレのことも、もしかしたら角のロッジのヤツだっだかもしれねぇな…俺たちが楽しそうにしてたから、思わず付いて来ちゃったとか…」
先輩3人は少し涙目になっていた。
その年の3月末、曲がり角のロッヂは取り壊され、今はその広い跡地に夏用の花壇ができているそう。
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