体験場所:長野県I市 バイト先の焼肉屋
これは私が学生時代にバイトしていた焼肉屋さんでのお話です。
長野県I市のその焼き肉屋さんは学生のバイトが多く、進学などでバイトを辞めて県外に出た後も、長期休暇で帰省した際には仕事を手伝う人もいるような職場でした。
そこでバイトリーダーを務めていたAさんという男性は、元々霊感の強い人らしく、しょっちゅう霊を見たとかお祓いに行ったとか、そんな類の話をよくしていたのですが、そのAさんがこの職場にも幽霊が出るのだと言っていました。
とはいえ、私には霊感などなく、あまりAさんの話は信じていなかったのですが…
夏休みになり、東京へ進学していた元バイトのB君が帰省し、地元にいる間は仕事を手伝ってくれる事になりました。
B君はバイトリーダーのAさんと一緒に働いてたこともあり、夏休みのバイト中、仕事以外でもB君はAさんに連れまわされることが多かったようです。
B君はAさんのことが苦手ではあったものの、先輩という事もあり断るに断れず、シフトなどもAさんに合わせる形で入っていたようでした。
夏休みが終わる頃、もうすぐ東京へ戻ってしまう帰省組のみんなと飲みに行こうという話になり、B君を含め数人で飲み会をしました。
Aさんは都合が付かず来られなかったこともあってか、そこでB君がこんなことを話し始めたのです。
「霊感って感染るってよく言うだろ?俺、元々霊感なんて全くなかったんだけどさ、Aさんと毎日のようにつるんでいたら、俺も視えるようになっちゃったみたいなんだ…」
そう言いながら、B君は少し困ったような表情を浮かべていました。
「どんな幽霊を見たの?」
みんなは興味津々で聞きます。
B君が幽霊を見た場所は、私たちが働くバイト先の焼肉屋さんでした。
最初に見たのは、トレーの下から青白い手だけがひゅっと出て消えただけだったそうです。
その時は勘違いかと思い、あまり気にしなかったそうなのですが、その後も職場のあちらこちらで、手や足とか、体の一部だけが見えることが何度かあり、特に閉店後の深夜勤務の時間が怖かったそうです。
ある日の深夜、いつものように閉め作業をしながら、キッチン前のカウンターでトレーを片付けたり焼肉のたれの補充をしていたB君は、誰かに見られているような気配を感じたそうです。
すると、下を向きながら作業をしていたB君の視界の端に、明らかにこの場には相応しくない、白いワンピースを着た裸足の女性らしき人物の足元が見えたと言うのです。
怖くなったB君は気付かないふりをしながら作業を続けたそうです。
すると、いつの間にか視界の端にいた女性の姿は消えていたそうです。
ホッとしたB君が顔を上げると、不意にその女性がキッチンカウンターから身を乗り出してきました。
「ギャァ!!」
思わずB君は悲鳴を上げ、その声に他のスタッフが集まってきたのですが、その女性の姿は既になかったそうです。
「そんなことがあったんだけどさぁ。怖くない?」
そう言って、B君は少しだけ笑って見せると、更にこう続けました。
「でも感染った霊感って、その霊感強い人と離れたら消えるんだって。Aさんが言ってた。だから俺も東京に戻ればきっと霊感なんて消えると思うんだよね。」
そこにいたみんなは怖がりながらも、
「霊感が消えるなら大丈夫だね」
なんて笑いながらB君のことを励ましました。
そして夏休みも終わりB君は東京に戻って行きました。
その頃、Aさんも他に仕事が見つかったようで、バイトを辞めて、店にもあまり顔も出さなくなっていました。
月日は流れ、B君の幽霊話も忘れた頃、また長期休暇でB君が帰ってきたのですが、
「悪いけど、今回は仕事手伝うのは遠慮しとくよ…」
と言うB君。
おそらく前の心霊体験が尾を引いてるのだろうと、誰もが思いました。
ある日のバイト終わりでした。
「たまにはみんなで焼肉でも食べようよ!」
と、B君に誘われ、仕事終わりに仲のいいメンバーで店に残り、B君と焼肉を食べることになりました。
「ところでB君の霊感ってもう消えた?東京戻ってAさんとも離れたし、そのAさんもバイト辞めちゃったし。」
と誰かが言うと、B君は、
「いや、あのさぁ…実はまだ、霊感消えていないみたいなんだよね。あの時、ここで見えた女の人…今、東京の家にいるんだよ。寝てるとさぁ、人の周りグルグル回ってちょっと迷惑なんだよね。」
『霊感は感染る。』
それを身をもって体験したBさんが、『感染させた人間から離れたら消える。』なんてことはない事実を、身をもって体験しているようでした。。
ちなみにその話を聞いて私が何より怖かったのは、その白いワンピースの女性との同居生活を、B君が意外と楽しんでいるように見えたことなんですよね…
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