体験場所:大阪府大阪市 JR大阪駅ホーム
今から30年ほど前の話です。
仕事帰りに大阪駅のホームで電車を待っていた時、向かいのホームに大学時代の友人の姿を見つけました。
大学を卒業してから数年は会っていませんでしたが、間違いなく彼女でした。
私は何とか気付いてもらおうと大きく手を振りました。
しかし、彼女には気付いてもらえないまま、向かいのホームに電車が入ってきてしまいました。
その電車が出発した後、向かいのホームに彼女の姿はありませんでした。
彼女はこちらに気付かないまま電車に乗って行ってしまったのだろう、と、私はがっかりしました。
すると突然「久しぶり」と声がして、振り向くと目の前で彼女が手を振っていました。
向かいのホームから私のいるホームへと彼女が来てくれていたのです。
ただ、向かいのホームからこちらのホームへは、階段を登って跨線橋を渡り再び階段を降りなければいけません。この短時間にどうやって、とは思いましたが私は久しぶりに彼女に会えた嬉しさでそんなことは気にしませんでした。
まずは手短にお互いに近況を報告しあうと、彼女は大阪の大学を卒業後、田舎に帰り就職。そこで数年働いたあと再び大阪に出てきて今は大阪の企業に就職しているとの事でした。
彼女が勤めている会社は決して大手ではありませんでしたが、彼女が得意とする英語を生かせる貿易関係の業種で、それは大学の頃から彼女が希望していた仕事でした。
大学を卒業する時、本当はこのまま大阪に残って就職したいと彼女は言っていました。ですが家庭の事情で仕方なく田舎に帰ってしまったので、その後に彼女の夢が叶って本当に良かったと思いました。
そんな風に互いの近況報告をしているうち、話は大学時代に彼女が付き合っていた男の子のことになりました。
今のように携帯電話のない時代だったので、彼女が田舎に帰ったあと、大阪で就職した彼とはだんだんと疎遠になり、自然消滅してしまったとの事でした。
その後も彼と連絡を取ろうと、彼女からは何度か電話をしたらしいのですが、なぜかその電話が彼に繋がることはなく、そのうち諦めてしまったのだそうです。
私はその彼に大学卒業以降も他の友人と一緒に何回か会ったことがありました。が、私もいつの間にか疎遠になり、私も彼の連絡先は知りませんでした。
それを聞いて彼女はとても残念がっていましたが、私に会えただけでも良かったと言ってくれました。
しばらくホームで話していましたが、このまま別れてしまうのはもったいないと思い、彼女を食事へ誘いました。しかし、今日は急いでいるからと言って断られてしまいました。
仕方ないのでお互いの連絡先を交換し、その日はそのまま別れました。
次の日、さっそく彼女に連絡をしましたが、電話は繋がりませんでした。
それから何度か電話をしましたが、結局一回も繋がらないまま、私は彼女との連絡を諦めました。
それから半月ほどして、大学時代の別の友人から彼女が亡くなった事を聞かされました。
大学卒業後、田舎に帰った彼女は乳癌を患い、長い闘病生活の末、近頃亡くなったそうでした。
ならば半月前、私が大阪駅のホームで出会った女性はいったい誰だったのか?
私は間違いなく彼女に会ったはずです。
でも、亡くなった人をネタにするようで、彼女に会ったことをその友人に言うことはしませんでした。
もしかしたら、彼女は亡くなる前に一目彼に会いたくて、彼のいる大阪に心だけが訪ねて来たのではないか、と、私はそう思うのです。
コメント