体験場所:大阪府大阪市 地元の団地
今から話すことは、私が中学生の頃に体験した奇妙な出来事です。
ある日の放課後、私は友人のKと2人で大阪市内の地元にある某団地に向かいました。
その団地はひと気が無く、騒いでも誰も怒らないので、はしゃぎたい盛りの私たちにとって格好の溜まり場のようになっていました。
建物は4階建てなのですが、エレベーターもなく、上の階に上がる手段は鉄骨の螺旋階段だけでした。
その日も私たちはいつも通り、螺旋階段を登りきった屋上スペースに座り込み、延々と下らない話を続けていました。
ちょうど夕日が落ちる時間帯に差し掛かると、屋上からは最高の眺めが広がりました。
その光景になんだか感動した私たちは、当時のケータイ電話(ガラケー)で、その景色を撮ろうと柵から腕を出してカメラを構えました。
その時、階下から何か音が聞こえてきました。
『コツ、コツ、コツ』
螺旋階段を登ってくるハイヒールの音に聞こえました。
「ここの住民かな?やっぱり、住んでる人いるんだ…」
そう思っている間も、ヒールの音は徐々に大きくなり、1つ下の階の辺りで音が止みました。
「あ~やっぱり住民だったのか~。下の階の人かな?」
そう思った瞬間、再びヒールの音が聞こえました。
しかも私のすぐ背後から…
「え!?」と思ったのも束の間、振り返る暇も無く私の右肩に強い衝撃が走りました。棒のようなもので殴られた感覚です。
痛みと恐怖で混乱しながらも、必死で振り返ったのですが、誰もいません…
(何…今の…)
鳥肌が立ちました。
絶対に違うとは思いましたが、私は一縷の望みを掛けてKに問いかけました。
『…私の肩、たたいた、よね?』
するとKはこう答えました。
『たたいてないよ!だって私のケータイの電池カバー取れちゃって、両手で携帯支えて写真撮ってたもん』
次の瞬間、私はKに何の説明もせずに走って螺旋階段を下り始めました。
一刻も早くここから逃げ出したかったのです。
私の心境を知ってか知らずか、Kも泣きながら追いかけて来ました。
団地を出て落ち着く場所まで走った先で、私はKに事情を説明し、お互いの認識を確認しました。
Kと話して分かったことは、ヒールの音は確かに聞こえていた。
そして下の階で一度止まり、その後、唐突にすぐ後ろでヒールの音が聞こえたことも記憶が一致しています。
そして、私の右肩には、叩かれたときの痣がしっかりと残っていました。
信じたくなくても、それは間違いなく実際に起きたことだと認めざる負えませんでした。
その日を境に、私は夢の中でこの日の恐怖体験を繰り返し見るようになりました。しかも、Kも同じ夢を見ると言います。
そんなこともあって、私たちは2人とも夕日を見ると妙に気分が悪くなり、しばらく憂鬱な日々を送っていたのですが、もしかしたら、あの団地は何か『ワケアリ』なのかもしれないと思い、少し調べてみることにしたんです。
すると、大分以前のことなのですが、私たちがたまり場に使っていたあの屋上から、かつて飛び降り自殺した女性がいたことを知りました。
いつもピンヒールを履いている女性だったそうです。
更に詳しい情報を求め、親や、親の知り合い、団地近隣の人などに話を聞いてみると、20年程前からその団地は心霊スポットとして有名な場所であり、『コツコツとヒールの音がする』、『女の霊が出る』と言われている場所のようでした。
しかし、そんなことが分かったからといって、私たちの恐怖が簡単に消えることはありませんでした。
ただ、時間の経過と共に、私もKもあの夢を見ることもなくなり、徐々にあの日のことも忘れていったのです。
それから1年が過ぎ、中学卒業式の日でした。
友人達と思い出話をしていると、何が切欠だったのか、不意にあの日の話が持ち上がり、Kと一緒に他の友人達にその日の体験談を話しました。
すると、その中の1人が言いました。
『その時撮った夕日の写真って見た?』
私とKは驚きました。
そうです。当時は焦りと恐怖でそこまで頭が回らず、その後もその存在を忘れていたのですが、もしかしたらそこに何か写っているかもしれません。
私はすぐに携帯電話を確認しました。
ですが、その日の写真は一枚もありませんでした。
記憶は定かではありませんが、おそらく、夕日を撮影する前に肩に衝撃が走り、結局写真は撮らなかったのだと思います。
残るはKの携帯です。
彼女は確かに夕日を撮ったらしいのですが、携帯を買い替えたから今は手元にはない。家にあるから充電すれば見られるはずと言うので、みんなでKの家へ行きました。
Kの家に着き、すぐに携帯を充電し、その日のフォルダーを確認すると…
あったんです。
夕日の写真が…
画面一杯に映る綺麗な夕日をバックにした、女の顔が。
その顔はなぜか、カメラを向いて、レンズの先にいるKを睨んでいるようでした…
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