【怖い話|実話】短編「捻れた時間」不思議怪談(広島県)

投稿者:らて さん(25歳/女性/会社員/)
体験場所:広島県S市の貸し宿

これは私が小学生の時に実際に起きた話です。

当時、私は広島県S市に住んでいたのですが、私が通っていた小学校では、毎年、農業体験会という学校行事が行われていました。

二泊三日の泊まり込み行事であるそれは、昼間は近隣の農家の方々のサポートを受けながら農業体験をし、夜は旅館(旅館としては廃業しているものの、貸し宿として運営)で、友人らと寝食を共にするといったものです。

それまで1度も外でのお泊まり経験がなかった私は、それがとても楽しみで、ウキウキした気持ちでその日を迎えました。

宿泊先の旅館
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私が宿泊した部屋は、女の子5人組の和室でした(雑魚寝形式)。

お昼に農業体験を終えた私たちは、夕食前に布団の準備をするよう担任の先生に指示され、みんなで寝床の支度をしながらも、唐突に枕投げが始まったりと、とても楽しい時間を過ごしていました。

その後、夕食・入浴を済ませた後、宿泊部屋に戻ってきた時でした。

同じ部屋の女の子の一人(仮にAさんとします)が、「きゃー」と悲鳴をあげました。

見ると、Aさんの敷布団と掛布団との間から、長くて黒い髪の毛の束が出ていました。

髪の毛の束
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同じ部屋の女の子たちの中には髪の長い子はいません。
一体誰の髪の毛なのか、不気味には思ったものの、他の部屋の誰かのイタズラ、もしくは前に布団を使った人の髪の毛が残っていたのだろうと、私たちはそう考えることにしたのです。

ですが、2日目の夜のことです。
昨日と同じように夕食・入浴を済ませ宿泊部屋に移動した後、就寝時間も過ぎた頃に、Aさんに異変が起きたのです。

私は就寝時間を過ぎてもなかなか眠ることが出来ず、隣にいたBさんと話をしていました。
すると、私の斜め前で寝ていたAさんが突然立ち上がったかと思うと、急に無言のまま部屋から出て行ったのです。

恐らく、宿泊部屋に備え付けのトイレが古くて汚かったので、共用トイレの方を使いに出て行ったのだろうと思いました。

ですが、1時間経っても2時間経ってもAさんは帰って来ませんでした…

私とBさんは流石に不安になってきて、他の子達も起こして先生にも知らせ、みんなで旅館の中を捜し回りました。

ですが、どこを捜してもAさんは見つかりません。

30分ほどで全ての部屋を捜し終え、私たちは1度宿泊部屋に戻ることにしました。

すると…Aさんが戻っていました。

戻っていた友人
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部屋に一人佇むAさんの後ろ姿はどこか虚ろ気で、呆然自失とした様子でした。

そのAさんが振り向いて、私たちの姿を認識したであろう途端、みるみる意識が戻るのが分かったかと思うと、

「もう帰って来れないかと思った~!!!」

と、青ざめた顔のまま号泣し始めたのです。

事情を聞いてみると、やっぱりAさんは部屋に備え付けの古びたトイレが嫌で共用トイレに行ったそうなのですが、そこで用を足して個室から出ると、トイレの出入り口が2ヶ所に増えていたと言うのです。

共用トイレの出入り口は一つのはずです。
中に入ると左手に個室が並び、右手に洗面台と鏡があります。
入口から見て正面の突き当りには、小さな窓があるだけです。

ですが、Aさんが個室から出ると、その小さな窓があったはずの場所にもう1つの扉があったそうなのです。

もう一つの扉
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しかも、Aさんはあろうことか、その突然現れたもう1つの扉に手を掛け、そちらから外に出たそうなのです。

しかし、扉の先に広がっていたのは真っ暗な闇。

扉の先に広がる闇
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「やっぱりこっちは違う」

そう感じたAさんは引き返そうとしたのですが、時すでに遅し…
振り向くと扉は勝手に閉まっており、真っ暗闇の中ではもはや扉があった場所も分かりません。

パニックに陥ったAさんは、がむしゃらに壁を這いながら扉のノブを探したそうです。

すると暗闇を彷徨うこと10分。
ようやくドアノブが見つかり、開けてみると先程のトイレに戻ったのだそうです。

Aさんはそのまま無我夢中で宿泊部屋まで戻りました。
ですが、部屋には誰もおらず・・・自分は未だに異空間から出られていないのだと思い放心していたところに、私たちが戻ってきたとのことでした。

震える声で涙ながらにそんなことを話すAさんが、嘘をついているとも思えません。

Aさんの話を聞きながら、そこにいる誰もが凍り付いていました。
それは、Aさんが体験した中身とは別に、得体の知れない違和感を感じたから。

その体験は、Aさんにとっては約10分程度の出来事だったようですが、私とBさんがみんなを起こし、先生と一緒にAさんの捜索を始めたのは、Aさんがトイレに立ってから約2時間後のことです。
この大幅な体感時間のズレにも、私たちは得体の知れない恐怖を感じたのです。

次の日の朝、農家さんの1人から聞いた話によると、なんでもこの旅館には、霊の通り道、いわゆる霊道と呼ばれるものが通っていると言われるそうなのです。
旅館が潰れてしまったのも、それが原因なんだとか…

旅館の霊道
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もしかしたらAさんが開けてしまった扉は、霊道の入り口だったのでしょうか?
その扉を境に「あの世」と「この世」に分かれ、時間の流れまでもが別なのでしょうか?

それに宿泊初日にAさんの布団から出てきた黒い髪の束って、もしかしたら、扉の向こうから現われた何者かのものだったのでしょうか…

Aさんが無事に戻ってくれて本当に良かったです。
でも、もし戻れていなかったら、Aさんは一体どうなっていたのか…

そんなことを考えると、今でも少し、背筋が寒くなります。

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